吊り橋効果

 「きゃー!!」

 風呂場からは霧嶋さんの叫び声が聞こえてきた。

「霧嶋さん?!大丈夫」

 停電であたりは真っ暗、だが僕は風呂場の中に入ってしまっ待ていた。暗闇の中霧嶋さんが僕に抱きついてきたのが1番の衝撃だった。霧嶋さんの濡れた髪、霧嶋さんの素肌、霧嶋さんの柔らかな体。その全てが僕の腕の中にあった。とっさの出来事に驚きながらも、少し離れようとした時。

「離さないで、怖いの。昔から雷が怖くて今動けない。だから、どこにも行かないで。」

 霧嶋さんが震えた声で僕にそう言った。離れようとしたその手を、僕は強く霧嶋さんを抱きしめた。

「だ、大丈夫だよ。ここマンションだしすぐに電気つくと思う。」尋也頑張れ、耐えるんだ、童帝が守れるなら霧嶋さんを守れ。

 そこからに2、3分はだっだろう。時より霧嶋さんの吐息が僕の耳をかすめる。僕の性的欲求は振り子のように左右している。僕の下心と、人としての尊厳。そのどちらもがぶつかり合って、どうしようもない…

「すだ…、尋也さん…私をどうしたいですか?」な、何を言ってるんだ?!

「き、霧嶋さん?」

「尋也さん…どうして、襲ってくれないんですか?」えっ?霧嶋さんを襲う?!

「ど、どうしたの急に。ぼ、僕が霧嶋さんを襲ったりしないよ」あまりの恐怖で混乱してるのかな。

「尋也さんから見て、私は魅力はないですか?恋愛対象外ですか?するとも、ただの新人ですか」れ、恋愛対象?!どうしたんだろう。

「霧嶋さん、落ち着いて。怖いのは分かるけど、霧嶋さんをそういった目で見れないよ」

「どうしてですか?私は、落ち着いてます。暗闇の中でも、あなたを見てます」

 僕は動揺しながらも、そっと霧嶋さんの方を見た。雷の光が霧嶋さんを照らし、僕の目の前で涙目になりながら、僕を見つめる霧嶋さんを、僕はただ見つめることしかないと思った。でも、霧嶋さんは本当のことを言ってるんだと思う。それに答えるかは僕次第なんだと理解した。

「霧嶋さん、僕は今日君にあって一番に可愛いと思ったよ。人当たりもいいし、明るくて頑張り屋な君が魅力的以外にないと思う。でも、僕は冴えないフリーターだし、何も取り柄なんてない。それなのに霧嶋さんは僕をどうして、恋愛に持って行くのか分からないんだ。」こんな僕といる時点で、不釣り合いなんだ。これでいい…霧嶋さんも勢いで言ったんだろう。これが言わゆる、吊り橋効果ってやつなのかもしれない。

「尋也さん、私は尋也さんに初めて会ったのは今日じゃないんです。尋也さんは覚えてないかも知れませんが、確かに尋也さんでした。これが、吊り橋効果でも無ければ、動揺でもないですし、勢いで言ってるわけでもないです。ずっとこうやって話したかった…私は、隅田尋也さんが好きです。嘘なんかじゃないんです。あのコンビニを選んだのも、偶然じゃないです。隅田さんあなたがいたからあのコンビニを選んだんです。」

 暗闇の中で抱きついているせいなのか、霧嶋さんの鼓動が強くなっているのがよく分かる。

 でも、不思議だ。もし、霧嶋さんが僕に会っていたのだとしたら、印象に残るはずなのに、覚えていない。色々聞きたいことがあり過ぎる。今は落ち着くのが一番だ。

「霧嶋さん、話はゆっくり聞くから。今服を着る余裕はあるかな。時期に停電も終わる頃だし、ゆっくり話そう。」

 霧嶋さんは僕を強く抱きしめる手を緩めて、離れた。

「はい…」

 霧嶋さんはそれだけを言って服に着替え始めた。霧嶋さんが着替え終わる頃部屋には電気がついた…

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