第45話月面対決
「あ゛あ゛あ゛ああぁあぁああッ!!」
追撃の為に音速を越え、衝撃波をまき散らしながらマイコに掌底をさらに叩き込む。山が抉れ土砂崩れが発生する。
山にめり込んだマイコを右、右、左、左、と連撃を開始する。
その都度地割れが発生し火山が活発化する。
付近一帯は地震警報が鳴り響き日本列島を揺るがした。
首筋をつかみ取り上空へ放り投げ胴体に小さい蹴りを全力で振り――抜く。
マイコと言う弾頭は空を駆け抜け海の上を水切りをする石のように跳ね飛び着水した。
「しいいいいいいいねえええええええッ!!」
普段のひまりからは想像できない鬼のような表情で海へと追撃を仕掛ける。
ひまりになんで怒られているのかわからないマイコは呆然とし、されるがままだ。
「ひ、ひまりちゃん……お姉ちゃんなにか悪い事したのか……な?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
ひまりは全く聞き耳を持たない。水中でも繰り出すパンチは海に渦を巻き起こし海中を掻きまわす。
埒が明かないと思ったのか再び空中に蹴り上げると大気圏を突き抜けて行く。
「ふうんぬうううううう!!」
ガシリとマイコの足をつかみ取るとぶんぶんと回転し見えなくなるスピードまで加速し宇宙へと放り投げた。
「ひまりちゃああああああん――」
遠ざかるマイコはドップラー効果により声が遠くなっていく。
ひまりは手の中にかつてないほどのエネルギーをため込み極大のビームを放とうとしている。
両の手に蓄えられた手の平同士をパチンと合わせるとビームが収束され目標目掛けて放つ。
高速で離れて行くマイコに命中するとそのまま宇宙へと押し出していった。
暗黒の海を揺蕩い漸く冷静になったマイコはひまりに対して怒りを覚え始めていた。
――悪いことをした妹にはメッしなきゃいけないよね……。
見当違いの事を考えているマイコは体に力を入れ迎撃の用意をする、その姿はすでに裸一丁であり、人の前に出れない状態である。
ひまりもペタンでお腹ぽっこりの幼女体型を晒してしまっている。
追撃に向かってくる両者が激突する。その衝撃は付近を漂うデブリすら破壊する。砕けたデブリを使い投擲し殴りつけ蹴りをくらわす。
目にも止まらぬ攻防は人工衛星を悉く破壊していく。
地球上では余波で雲が飛び散り、異常気象が始まった。
格闘戦ではひまりに一日の長がありマイコは腹部に強烈な蹴りをくらう。
いくら頑丈な体に変貌したとしても神威を纏っているであろうひまりからのダメージが段々と蓄積していく。
月に向けて蹴られたマイコは無重力の海を突き進んでいく。
岩石の海である月の地表へと激突し漸く停止する。
さすがに疲労が溜まってきておりとうとう膝を突いてしまう。
執念を燃やしたひまりの癇癪は留まることを知らずに凶悪なストンピングをマイコの顔面にお見舞いする。
周囲一帯が崩壊。月が欠けた。ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。
マイコの目に涙が浮かび始め、ひまりを止めようにも話を聞いてくれない。
「やめ、やめてよお。何でお姉ちゃんをいじめるの? わたしの事嫌いになったの……ひまりちゃん……」
それでもひまりは止まらない。ひまりという生きる希望に嫌われたのならと生きる意味がないと力を抜き始めるマイコ。容赦なく攻撃が突き刺さるようになった。
黒いエネルギーを自ら引っ込めると無防備に攻撃にさらされた。
血の絡まりを吐き、地面にめり込んでいく。四肢は折れ曲がり、呼吸が安定しなくなってくる。
「ひまりちゃんがわたしのこといらないならもういいや。生きる意味ないよね。なんで怒らせたか分かんないけれどわたしを殺して――そのかわりちゃんとわたしのこと覚えててほしいな……えへへ……」
力なく笑うと意識を失うマイコ、その様子に異常を感じたのかひまりの手が止まってしまう。
呆然とマイコを見つめ続けるひまりは顔が段々と青ざめて行く。
最初は救出したときの記憶。
次は仲良く空で夕日を眺めた景色。
ジェラートを食べたり、みんなで楽しく笑い合ったり。
優しく添い寝もしてくれた。撫でてくれた。
様々な記憶を思い出す。
「ふえ、ふえ、ふうえええええええええん」
ひまりが自動形成した空間内に鳴き声がずっと響き渡る。
泣き止んでから呆然とマイコを見つめ続けるひまり、辛うじて息がありじわじわと再生し始めている。
頭の中ではずっと母親に言われた約束の言葉がグルグルと繰り返し再生されている。
――友達を大切にしなさい。彼女は苦しんでいる、と。
「マイコお姉しゃんは痛い痛いしてるでしゅか…………」
自身が傷つけ倒れているマイコの額を優しく撫でるひまり。友人の凶行に真っ白になっていた頭がやっと冷静に物事を考えれるようになってくる。
家族を傷つけたことは許せない。
だけど傷ついてるとはどういうことなのだろうか……。ひまりはひとりうんうんと考え込んでいる。
「マイコお姉しゃんに聞くしかないでつね……早く起きて欲しいでつ」
自らに宿る魔法の力でマイコを癒しつつじっと待っている。月面には二人ぼっち、煩わしい存在もいない。
気が遠くなるような時間が過ぎている感覚をひまりは感じている。その間にも母親の温もり、父親のやさしさを感じたあの時のことを思い出す。
それはマイコからも感じていたものであり、ひどく酷似していた。
母の顔を思い浮かべるたびに涙が浮かんでくる。
するとマイコが漸く目を覚ましこちらを見つめている。口を開こうとするもなかなか声が出てこないようだ。
「ひまりはマイコお姉しゃんに怒ってましゅ、家族を傷つけましゅた。でも嫌いではありましぇん、大好きでつ」
うんうん、と頷き大人しく聞いている、先程よりは顔の険がとれているようだ。
「死んでいようと最後の時でしゅた、もっとお話ししたかったでつ、そのことでひまりは怒ってましゅなにか言いたいことありまつか?」
「……ごめ、ん、なさい……わたしはひまりちゃんのこと家族と思ってるの。取られちゃうと思って……本当になんであんなことをしたのかわからない……ごめんなさい……捨てないで……」
ポタポタと涙をこぼしながら告解を始めるマイコ、頬を伝って乾いた地面へと吸い込まれていく暖かい水滴。
ひまりは頬の涙を小さな手で拭うとよしよしとマイコの頭を撫でる。
「ちゃんと悪い事をしてることがわかってて、ごめんなさいできるなら許すでつ。これからもずっとずっと家族なんでしゅから、不安な事や分からない事は言うんでつよ? それからマイコお姉さんと呼ぶのは辞めてマイコって呼ぶでつ。それと“お姉さん”はひまりになりましゅた――とっても悪い子はわたちの“妹”でしゅね」
そう言うとひっしと抱き付いた。マイコの首筋にぐりぐりと頭をこすりつける。
そこで家族と離れ離れになったことに改めて気が付く、そっとひまりを抱き締めると二人でわんわん泣き始めてしまう。
空も海もない月面で横になるとマイコのお腹の上ですやすやと眠り始めるひまり、それを邪魔をせずしっかりと抱き締めるマイコ。
冷静になった頭がマイコを計算高くする。
――お別れがちゃんとできなかったから怒ってるのね。国に行って国葬でもさせようかな?
傲慢な態度は改められていないどころかいまいち理解しているかもわからない。
だが互いに必要とされてい折ることに共依存は深まり、ひまりへの愛情はさらなる深淵へと加速する。
今なら神すら殺せるかもしれないとマイコは内心考える、いつか蘇ると宣言していた黄泉神を抹殺を腹の中で計算しつつひまりの体温をじっと感じるがままに居たのであった。
こうして一連の騒動にケリが付き、ひまりは家族ともお別れをした。
実家の認識阻害も解かれたし、国連を壊滅させることにも成功する。
新居がまだできてはいないが時間の問題であろう。
人間をやめた二人は寿命の概念があるかどうかも怪しい。
地球に二人っきりで過ごす日々を妄想しながらマイコは涎を垂らす。
――これから死ぬまでずっとずっと二人っきりだね。
ひまりの頭に鼻を引っ付けると存分に吸い込んでいく。ちょっと埃っぽいがひまりスメルは最高らしい。
変態な姉と妹の魔法生活はこれからも続いていく。
ひまりはこれからも悪者を退治するのであろう。
お姉ちゃんも一緒に付き合ってあげましょうとひまりの背をポンポンと叩くとうにゅうと反応が返って来る。
マイコはいつまでも、いつまでもひまりの顔を見つめ続けるのであった。
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