第43話キャハハハハ

「ん、大丈夫だよおかーさん、周りの土地も購入して新居ができるよー、急ピッチで取り掛かるんだって。えっ学校? いかなくてもいいよー友達には言ってあるし。ひまりちゃんのお世話もちゃんとしてるし問題ないよー、入金されたお金は自由につかっていいからね? 親孝行が早めに出来て良かったよ」


 ひまりを膝枕しながら電話をしているマイコ、相手は母親のようだ。


 政府と取り決めをした内容をつらつらと語っている。急激に変わり果てた娘に対してはそこまで気にしていないようだ。かなり懐の広い親たちだ。いやこの場合はその親ありきでこの娘になったと言えよう。


 その異常性は今まで表層に出て来ていなかっただけだ。


 もともと魔法少女フリークであったマイコは友達は少なかったし現実の出来事になった今、英雄症候群にかかっている。――英雄はこんなに頑張っているのだから、これぐらいされて当然だよね? と。


 日本を守ってあげているという自負がプライドを増長させてきている。


 ひまりの良い子でいなければならないという無私の奉仕と正反対である、我欲の塊と化してしまったマイコ。


 可愛く着飾らせたひまりを愛を持って撫でる。


 普段の寝巻のままでは可愛くないと思い特注のネグリジェを購入し着せている。

 まるで人形の様に扱われている。


「そーそー、多分防衛にちょくちょく出張るかもー。だから退学届けは出してもらってる。公休扱いにもできたんだけどね。ひまりちゃんのそばに居たいし――じゃあまたね」


 通信を終了しデバイスを放り投げ、ひざ元にいるひまりの匂いを顔を近づけ胸いっぱいに吸い込むと陽だまりのような暖かい匂いがする。


「可愛い可愛いひまりちゃん。お姉ちゃんが面倒をみてあげるからね……ウヒヒ」


 柔らかいほっぺにキスをすると満足そうにニタリと笑う。変わってしまったマイコを止めることのできる者は存在しない。









 国連本部ではアメリコ大陸の滅亡の報告が届いていた。衛星写真が資料として提出されると絶望の表情を皆浮かべる。


 目元を覆い隠し神へと冥福を祈る、知り合いがいたものが涙を流しながら会議室の机を何度も何度も叩いている。憎しみの表情をしつつ増悪を燃やす者もいた。


 議長であるカイロンは日本への攻撃を承認してしまった事を後悔はしていない。していないのだがこの結果はあんまりだろう。


 まさか攻撃国であるアメリコ帝国が滅亡など……AUへの報復攻撃でもこんなに規模は大きくなかった。一国家の一都市だけだったのだ。


 こんな面積で言えば大国すべてが飲まれることなど誰が想像できようか。


 もはや魔法少女は人類の敵になったと言えよう。


 すぐさま連合軍を組み日本へと核の使用を決断すると議会の議題へと上がる。ルシアもEUもAUもその他の国の代表代理である大使の承認も下りた。


 言うまでもなく全会一致で可決された。これより世界大戦に入ることが決定されてしまったのだ。


 担当者がすぐさま自国へと通信に向かおうとしたときに部屋の壁が爆発するように瓦礫が吹き飛んでくる。運よく大使たちは巻き込まれなかったが警備の者が負傷している。


「なんだ!? テロリストか!? 警備は何をしている?」


 そうカイロンが叫ぶも警備の返事がない。よく確認してみると胸元より手刀の形であるやや小さな手が貫いている。

 警備員は血の塊を吐き出すと生命活動を終える。


 大柄な体を“ソレ”は振り払うと心臓を抜かれたまま人形のように壁へ激突。バラバラのなってしまい目を覆うようなオブジェを作り上げる。


 手のひらに血を元気に吐き出す心臓が掲げられ、顔に付いた血化粧がとても艶めかしく見える。

 魔法少女がいた、グチュリと心臓を握り潰すとケタケタと笑い始めた。


「こんにちわー、あれ? 通じてないのかな? ハローハローッ!! 魔法で会話できるってひまりちゃんいっていたような……」


 魔法少女は俯きぶつぶつとひとりごとを呟いている。チャンスと思ったのか他の警備員が銃を乱射し始める。

 弾丸は魔法少女の頭部を的確に捉えているが何度撃とうとも貫けない。跳弾が発生し部屋にいる者へ襲い掛かっている。

 銃を投げ捨て徒手格闘へ移るも殴った拳から血が噴き出している。


「ん、なに? 考え事してたんだけど……ああ、話通じてたんだね? そうならそうと言えばいいのに。もーひまりちゃんを疑っちゃったじゃん」


 苛立たし気に手を一振りするとその高さに首があったものは胴体とのつながりを永久に絶たれ人生にさようならと挨拶をする。

 噴水のように血が吹きあがるとマイコを染め上げる。


「うえ゛ぇ失敗したなあ……あ、お風呂ない? 教えてくれたら痛み無く殺してあげるよ? ――はい、三秒待ちます」


 あまりに一方的な言葉に議長が噛みつく。


「ふ、ふざ、ふざけるなッ!! 何をしてくれたんだ! 世界すべてが敵に回るぞ!! クソガキがッ!」


 ウンザリとした顔で三秒数え終わると一方的に宣告する。


「つかもうすでに敵じゃん? さっきまでの事は聞いてたんだよ。誠愚かの極みぃぃぃいいッ!」


 人差し指から黒い針を伸ばすと議長の太ももに刺さる。ぐりぐりと指を左右に振ると肉が裂け千切れる音が聞こえてくる。


「いぎぃ!! や、やめ」


「ざぁんねん。わたしも体験したことがある拷問方法試させてもらうね? そういえばAUの大使もいんだよね? てめーのせいで味わった苦しみを千倍にして返してあげるね? ついでにAU国もうないよ? 連絡しても無駄無駄無駄ぁッ! きゃははははは」


 ここに来る前にAUに断罪の黒剣をすでに振り下ろし終えていたのだ。過去の痛みを思い出し無性に滅ぼしたくなった。そういう気分になったから、だ。


「ざんねんむねんまたらいしゅうー。AU無くなっちゃってどんな気持ち? 家族はいた? 娘はいた? ぱぱーってか? まあわたしに拷問したんだし死んで当然よね。ご愁傷様?」


 AU大使は力なく膝を突き瞳の中から光が失われた。それを見たマイコはつまらなさそうに首を軽く切り飛ばした。


「絶望した人間を殺しても詰まんないんだよね。後悔して苦しんで希望を抱きつつ死んでよ?」


 スマホの画面を指でスライドさせる程度の力で人が死んでいく。

 残されているのは議長や決裁権を持つ大使のみとなった。


「海よりも宇宙よりも深い深いマイコがチャンスをあげる、素手で殺し合え。んで残った国は手を出さないと約束してあげる。いずれ滅ぼそうかなと思っててね。あ、オリビアさんのいるEUは後回しね、まあ地より低く頭を垂れれば考えないでもないけど――どうする?」


 そういうなり決意した大使たちは弱っている議長から集団で暴行を始める。先ほどから太ももを負傷していた為狙われたのだ。


「やめてくれ! 議題を上げたのは俺じゃない! お前らだろう!? 俺は纏めているだけだ!」


「うるさい、死ね、我が国は滅ぶわけにはいかない」


 集団で足で踏み続けられると肉が裂ける音と断末魔の声が響いてくる。数分後カイロンの生命の灯が消え、肉の塊だけが残されていた。


 これからこの集団で殺し合わないといけないと思うと場の空気が固まった。最初に動くのは誰なのか? と牽制し合っているようだ。


「あー、EUは優先権あるけど狙わないの? 殺したら譲ってあげるわよ? オリビアさん連れて行けばいいだけだし」


 話が違うとEUの大使は絶望しながら殴り殺されることとなる、そして次には滅亡したAU大使が殺され、数分後にはルシア大使だけが残った。

 

 額から血液が垂れ、目の前が良く見えていないようだ。

 約束を守ってもらおうとマイコの元へヨロヨロと足を引きずりながら向かう。


「おめでとうございますッ! えっとどこの国だっけ? ――ふんふんルシアね! 本当にお疲れさまでした。じゃあ一番先に滅ぼすね?」


「は、話が違う!? 滅ぼさないのではなかったのか!?」


「日本を攻めようとした国はひとつ残らず滅ぼすよ。醜く争うさまは滑稽だったネ! ざーんねーん! ――シネ」


 そういうなり黒い針をルシア大使の額を貫き痙攣を繰り返すとやがて動かなくなり倒れ込む。

 仕事は終わったとばかりにシャワー室が無いか探し始めるマイコ、貴賓室に備え付けてあると分かると熱いシャワーを浴び始めた。

 その肢体にまとわりついた血液は綺麗に洗い流されるが血の匂いが取れた気がしない。


「んー、殺しなれちゃったからかなあ。血の匂い……取れないや……」


 流れ出した涙にマイコは気づかない。

 心の奥底では悲鳴を上げている。

 人の命を何億人も奪い、踏みにじり、破壊する。

 守っているつもりが奪っている。

 心は軋みを上げ、とうに壊れてしまった。


「はやくひまりちゃんに会いたいな……いいこいいこしてくれるかなぁ……ひまりちゃん……ひまりちゃん……ひまりちゃん」


 そう呟くと自分を慰め始めた。国連本部には鼓動が止まった人間しか存在しない。それはマイコも含まれているのであった。

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