第42話絶対防衛線ピピル
[座標確認急げ。大陸間弾道ミサイル装填良し]
[こちら管制。座標固定、発射準備完了]
[確認完了。よろしいですか? アルベルト大佐]
[うむ、クソジャップめ我がアメリコ帝国を舐めやがって……――撃て]
アメリコ大陸の軍事基地内で大陸間弾道ミサイルが発射されようとしていた。
AUから亡命してきた主席秘書の特殊部隊長のメアリーより情報提供を受けたからだ。魔法幼女を始末、もしくは確保の為ならばと亡命受け入れの条件としての取引を行ったのだ。
弾丸が効かない事も情報として入ってきているため、日本の首都を爆撃、焦土と化すことで回収作業に向かう予定だ。
これは国連も承認している作戦であり各国との取引も終えている。
あとは皿の上に載った
そう想像するアルベルト大佐は舌なめずりをする。
大陸間弾道ミサイルがとうとう軍事基地から発射され宇宙空間を通ると一万キロものの旅を終え眼下に日本の首都が見えてくる。
[間もなく弾着。テンカウント…………――撃墜されましたッ!!]
[後続のミサイルも何か黒い……剣のようなものに切り裂かれて行っていますッ!! なんだ……あれは……]
[管制ッ! どういうことだ! 魔法幼女は眠っているのではなかったのか!?]
[極秘観測衛星より確認中……ヒッ!! 目が……合いました……これは! もうひとりの魔法使い……魔法少女ピピルです!!]
[やつに迎撃能力はないと報告があがっていたのではないのか!? クソッ! グレートソードだと……]
モニターには極秘監視衛星を見つめている魔法少女がいる。若干のタイムラグはあるが気づかれているのマズイと管制が騒ぎ始める。だが。
[……監視衛星シグナルロスト……恐らく撃墜されました……剣で]
[ばかな……奴の攻撃範囲はどれほどあるというのだ……作戦は中止だ……]
アメリコ帝国は手を出してはいけない相手を間違えたのだ……魔法幼女であれば都市壊滅で済んだのだ。怒りだしてもすぐに収まる。
だが子を守る
地面が陥没するほどの勢いで地面を強烈に蹴り上げ大気圏を突破するピピル。
ふわふわと宇宙空間に漂うとアメリコ帝国を視界に納めると、指先に暗黒の剣を両手に展開する。
ギュリリリと軋みをあげ合掌のポーズをとるとアメリコ大陸を両断するほどの長さまで剣が伸びて行く。アメリコ軍は未だにその存在には気づいていない。
ニチャリと笑みを浮かべると“こんにちは、死ね”と発声できない宇宙空間でピピルが呟いた。その瞬間――――大陸が割れた。
あえて視界に納めていた軍事基地を攻撃せずに大量に住民が住んでいる都心を叩き切る。
地面が二千キロにも渡り渓谷が出来上がる、その衝撃は巨大なエネルギーとなり爆発、大地震が発生する。
住民たちは救いを求める声を上げる事も出来ず押しつぶされた。総人口の半数、一億程の人間が死んだであろう。
これから襲い掛かる大地震でさらに減少する人口にアメリコ帝国という国家は存亡の危機を迎える。
通信障害が発生した。外部から供給されていた電力が全てダウンしたので、軍事施設は 予備電源である内部発電に切り替えると最低限の設備を復旧することが出来た。
通信設備は辛うじて無事であったため他の観測衛星で現状を確認する。
先程襲い掛かった大地震は一体何なのだ!? と基地では混乱が起こっている。
中央司令部内に設置されているモニターに観測衛星から送られてくる映像が映し出された。
「――――。――――――ッ! ――――」
画面一杯に魔法少女の顔がドアップで映し出された。何かをこちらに向かってしゃべりかけているようだ。日本語に堪能な部下が翻訳を開始するとその言葉の内容を読み上げる。
「ア・メ・リ・コ・大・陸・割……れちゃった。ね・え・今……どんな気持ち……だと。…………クソックソックソックソッ! ――我々の……国家が……」
アルベルト大佐は段々と言葉が弱くなっていき、ついには蹲ってしまう。
モニターに映された魔法少女の背景にはアメリコ大陸が叩き割られていたのだ。
魔法少女はこちらを見つめながらニタニタ笑っている。どうあがいても敵わないと絶望している者が出始めている。
「…………悪魔め……悪魔め…………悪魔めぇぇぇぇええええ!!」
ガンガンと机を叩くもモニターに映る魔法少女が何かをし始めている。
手刀のように伸ばした手の先にある暗黒の剣がグングンと伸びて行く、もちろんその目標は――
「やめろおおおおおお! やめっやめてくれ! お願いだ! お願いだ! 我々が手を出したのが悪かった! 降伏する! お願い! お願いしますッ! お願いしま――」
アルベルト大佐が泣き叫ぶももちろんピピルには届いていない。ものすごく幸せそうに肌に付いた虫を払う動作をする。
その瞬間アルベルト大佐の意識は途絶えた。軍事基地には巨大な剣が振り下ろされ押しつぶされた。発射予定であったミサイル群に誘爆を起こし跡形もなく消し飛んでしまう。
これでアメリコ大陸はトドメを刺され人口の一割にも満たない人々しか生存が確認できなくなった……。
――わたしの家族に手を出そうとしたからね。バイバイ。
宇宙空間を地球に向け空間を蹴ると後方に衝撃波が発生、大気圏内に突入する。ピピルの身体能力は人間をやめたことによりあらゆる衝撃に耐久性を獲得した。
眼球の表面は大気圏突入の際に発生する摩擦熱すら跳ね除ける。
海辺を目指していた為、スピードを何度も掌底を地面に放つことで衝撃を緩和させる。着地した際にクレーターは発生するが被害は控えめだ。
デバイスにて連絡していた超常対策本部、いや、日本統合防衛本部と名前を変えた武侠国防部長が車で迎えに来た。
超常対策本部は合併吸収され日本軍の指揮下に入ったのだ。魔法少女と面識のある武侠や支倉が担当している。
今回の件も人類からの攻撃とあったためハカセから攻撃命令がアメリコ帝国の軍事施設へ降りていたことから連絡があったのだ。
すぐさま日本政府より魔法少女への“お願い”が高額の報酬と共にされた。
もちろんマイコは快諾し、ひまりの家周辺を買い上げる事と隣に新築の豪邸を立てるように指示を出した。あの家には元の家族の匂いが染みついているためにひまりとの新居を建てるのであった。
本当は解体をしたいが眠っているひまりが悲しむためにそのままにしている。
「……聞くまでもねえが成功したようだな、お疲れさん、ひまりの周りの土地の買い上げ交渉はうまく行ってるようだぞ。まあ売り渋りは無いだろうがな、なんせ国からのお達しに国防の為となればな」
「ありがとう武侠さん。アメリコ? あんな糞は滅ぼしてきたよッ! わたしたち家族に歯向かうなんて愚かだよね? ね? キャハハ」
なにがおかしいのか大量虐殺した事実をケタケタと笑いながら説明してくるマイコ。現在の姿は変身すらしてない姿のままだ。着ていた服は燃え尽きてしまい素っ裸なのにもかかわらず平然としている。
「……ほれ、着替えだ。若い娘がいつまでもはだかでいるんじゃねえ」
「ありょりょ、武侠さんありがとう。でも男なんか眼中にないからきにしないんだけどねーきゃはっ。武侠さんのえっちー」
胸を隠すそぶりを見せると舌なめずりしながらしなを作るマイコ。
そぶりを見せはするが全然大事な部位が隠れてすらいない。それを見る武侠は苦笑いで流した。現在は状況確認で忙しいのである。
「また状況が変わり次第連絡する。その時は頼むぞどうかひまりのいる日本を“ついで”でいいから守ってくれると嬉しいぞ?」
「キャハッ武侠さんわかってるー、ひまりちゃんがいるからだよ? 日本を守っているのは。そこんとこ説明よ・ろ・し・く・ネ?」
そう言うとマイコは服も受け取らずに砂浜を蹴ってひまりの家に向かってしまう。その場に残された武侠は悲しそうにそのマイコの姿を見つめたまま呟く。
「俺たちのせいかッ!? 子供を戦わせるなんてなんてことをしちまったんだ!! だからッ! だからッ!」
砂を掴み投げつけるもハラハラと散っていく。口に入った砂を吐き出しながら涙が滲んでくる。
「……なさけねえ、なさけねえ大人達だぜ……ほんとにな……」
その呟きは誰の耳にも届かない、懺悔の声は空しく波間に消える。
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