第37話お歌をうたうでしゅ

 わぁーいと幼児たちがキャッキャとスタジオ内を走り回っている。

 

 NMK日本みんなの協会で放映されている子供向けの番組に魔法幼女であるパルルが出演している。

 一緒に走り回っている子供たちの年齢と同じぐらいなのか違和感なく混ざれている。

 走り終わった後は歌って踊ろうというコーナーで、子供でも覚えやすい曲をお姉さんと一緒に踊りながら歌うのだ。


 みんなで手を繋ぎ輪になっていく、子供は魔法少女が珍しいのかパルルはとっても人気者となっている。

 歌の内容はお母さんとお父さんに感謝を送る歌詞となっておりとてもほのぼのとしたものである。

 

 中心にいるお姉さんが歌い出し特徴的なフレーズだけ子供たちが復唱する。


「おか~あさんっいつもありが~とお~。おと~おさんもありがなっみとお~」


 パルルもみんなに混じって一緒にお歌を歌っていたが段々と様子がおかしくなってくる。

 子供たちの輪はグルグルと回って歌が終わるはずなのだがパルルが泣き出してしまい輪が停止してしまう。


 パルルに付き添っていた妙にやる気があるマネージャがハッと気づき急いでパルルを回収しに向かう。


 そう、パルルの母親と父親は亡くなっていたのだ。


 放送事故を気にするよりもパルルの心が心配になったマネージャーはすぐさま中止を申し出るとそうなった理由を濁しつつスタジオを退出する。

 スタジオの近くに止めてあった車に乗り込みジュースを差し入れするマネージャー。申し訳なさそうな顔をしてパルルに謝罪をする。


「申し訳ありません、パルルさん。あなたのご家族のことを失念しておりました。楽しそうにされていたので気づくのが遅れました――本当に申し訳ない……」


「……いいでつよ……グスッ……おかしゃんもおとしゃんもいつか帰ってきましゅ……」


「――……そうですね」


 しんみりとした空気になるも事務所として新たに部屋を借りたビルへ車を走らせる。一度マネージャーがコンビニによると棒付きキャンディーをパルルへと差し出してくる。


「私には娘が居ましてね、よくこれを食べているんですよ。よかったらどうぞ」


 そうやって笑顔でマネージャーが飴を差し出してくる、包装紙をびりびりと破り飴を舐めだすとふにゃりと顔を綻ばせパルルに笑顔が戻って来る。


「ありがとうございましゅ――福田しゃん」


 マネージャーはパルルが笑顔を取り戻しほっとする。再び車を事務所へ走らせると車内の空気がほんわかしているのを見計らいパルルに言いたかったことを伝える。


「……――あの、パルルさん伝えないといけないことがあるんです」


「なんでつか? お仕事で泣いたのはごめんなしゃいでしゅ……」


 パルルは何か悪い所があったのかと不安になり目に涙を浮かべ始める、悪い子になりそうなことを指摘されること自体が弱点なのだ。

 すかさずマネージャーは手を顔の前で左右に振り悪い事ではないと否定する。


「いえ、そうではなくて――私の名前は内田ですパルルさん……」





(パ๑´ڤ`๑)ノ てへぺろ☆





 事務所に到着するなりマイコがパルルをぎゅっと抱き締める。自動車を弾き飛ばすほどの高速タックルをパルルは微動だにせず受け止める。発生した衝撃波は隣にいた内田に襲い掛かり、ゴロゴロと身体と吹き飛ばしていった。


 部屋の内装に気を向けずに顔をパルルの首にぐりぐりと押し付け続けるマイコ、その姿は飼い主にかまってほしがる忠犬のようだ。


 子供番組の収録中に泣き出して収録が中止になったとの連絡が事務所に届いていたのだ。

 どこにもケガがない事を確認するとようやく安心して落ち着き始める女子高生、幼女に縋りつく姿はどちらが子供なのか分からい。


「パルルちゃん大丈夫だった!? わたし心配したんだよ! ……まさか内田が――」


「違うでつよ……ちょっと家族のことを思い出して泣いてしまったでしゅ……内田しゃんは飴玉を買ってくれたのでいい人でつ」


「!! 内田ぁあ゛ッ! まさかっ! 未成年略取……ッ!」


 鬼のような形相に変化するうら若き花の女子高生、とばっちりを受けるマネージャー内田は急いで弁明を開始するその慌てようはマイコの疑いが確信へと変化するには十分な怪しい態度であった。


 すったもんだのてんてんころりんで今日も新設された芸能プロダクション部門の事務所は騒がしいのであった。





「開催場所が東都ドーム!? よく押さえれましたね?」


 マネージャーである内田とハカセが会議室にあるテーブルを挟み打ち合わせをしている。会議室の隅では変身を解いたひまりとマイコがゴールドファミリーという猫さん家族のミニチュアのお家で一緒におままごとをしている。一応会話を耳には入れているようだが……。


「ああ、野球球団のスポンサーが協力してくれてな、協賛の広告さえ出してくれれば使用料はロハでいいとのことだ、メタバースと現実世界のコラボレーションを実験したいと言ったら心よく頭を縦に振ったよ」


「それロハでいいって言ってますが広告料代わりのようなものじゃないですか……今世界でも注目されている我らぷいぷいプロダクションの超技術に魔法少女のユニット出演に出せる広告料は億を軽く毟り取れますよ……。まあ今後の付き合いを考えると妙手ではありますが……」


 なにか小難しい話をおっさん共がしているが。ひまりが猫さん家族の奥さんを担当し、マイコが夜遅くに帰宅する旦那役を演じていた。


『こんな夜おしょくに帰って来ちぇッ!! 浮気でもしてるんじゃないでしゅか!?』


 と、なかなか生々しい会話が聞こえて来る。一体猫さん家族はどんな家庭環境なのか気になって来る。


『そ、それは、だな……わたしにも付き合いというものがあるというのだよ……』


『しょんなに香水の匂いをぷんぷんただよわせて言い訳ができるんでしゅか!?』

 

 いよいよ刀傷沙汰に発展しそうな勢いだ。意外と演技力が高く真に迫っている。

 

 さすがに気になったのか内田が打ち合わせの途中に慌てて二人に声を掛ける。


「あのー。もう少し子供の教育に良さそうな会話をしようね……? なにかこう……胸にクルものがあるんだ……」


 最近給料はうなぎ上りに上昇しているが忙しくなかなか娘に顔を見せれていない内田は、自身が攻められているような錯覚に陥る。正直罪悪感しか湧いてこない。


 はーい。と、おりこうさんに返事をするものの今度は『密室殺人事件』を猫さん一家で始めてしまう。もちろん被害者は浮気をしていた旦那だ。

 もうどうにでもなれと、やけになりながらも打ち合わせを死んだ目でたんたんと始める内田。今日は早く帰っていいよ、というハカセの気遣いが目に染みる。


「チケット販売と共にメタバースを網膜に投影、表示するおしゃれ眼鏡を配布する。これは製造コストがさほどかかっていない逸品だぞ? ドームでの映像を受信するだけの簡易仕様で物販でボロ儲けができるぞ」


「……その技術も特許に出さないのでしょう? 時代を革新させる技術なのに非公開だとは大企業もやきもきしてますよ……抑止力としてパルルさんがいるからいいものの……怪しい人間が最近うろうろしててセキュリティ部門も大変ですよ」


 実際事務所や幹部連中の住居に外国勢と思われる企業スパイや賄賂を押し付けるものがいる。ブラックボックスの中身は全て二階ハカセの脳内にしかないのだ。


 その都度セキュリティが出動し制圧するか、警察関係者に通報する。新たに制定されたスパイ防止法はかなり厳しくなっており無国籍者や怪しいだけでも十分逮捕拘留ができる。

 現在日本を取り巻く世界情勢は安定しているとはいいがたいのだ。


 いづれ技術公開を段階的に行ってはいくが、先進技術をこれでもかとアピールするのには牽制の意味も込めてある。


 侵略を二の足を踏むような技術を見せることで日本が旨みを持っていると誤認させたいのだ。もちろん武力に頼れないのは周知事実だ。


 魔法幼女と魔法少女をとりまく環境は急速に変化していっている、こうして事務所で楽しそうに遊んでいる二人の笑顔を守っていきたいものだと内田とハカセは内心決意をする。

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