第36話おコラボやりますわよ?

 郊外にある週末のスタジオでは様々な器具が設置されピピルとVチューバーであるマシルが雑談をしている、もちろん変身している状態のマイコだ。


 各自の頭部には急遽ハカセが開発した脳波の入出力を行うブレインコントローラが装着されている。


 貫き手をプリケツにブッコむとさすがにシャレにならないとマシルの身体の保護を目的に特別に用意された。もちろん被験者として何が起こっても責任は負わないと同意書にサインしてもらっている。


 ピピルとの初コラボ企画とのことでマシルのヨウチューブチャンネルでは五万人もの待機している観客がいる。普段視聴しているマシルのファンからはお下劣女が露出するのは人類にはまだ早い……と不安視されているようだが。


「――で、ですね。私はいったんですの……そんな衣装で大丈夫か……と、すると彼女はこう返したのです――大丈夫だ問題ない…と」


 さすが視聴率の取れているVチューバーなのか会話が上手いし華がある。

 パンピー女子高生であるピピルはふんふんと頷き、続きが気になってしまう。

 とある天界に住まう女戦士の話だったのだが存外面白かった。


「まあ、長々と声優の仕事自慢をしてしまっていたのですが、その女戦士役実は――」


「マシルさんなんですね!!」


「――お友人ですわ」


 小一時間に渡りマイコも関係がありそうな声優のお仕事の内容を聞いていたのだ。演技もうまいし熱も入っていたので本人かと思いきや違ったようだ。リアクション芸人張りのずっこけ方をしたマイコの頬は赤くなり俯く。


 マシルを一発くらいド突いてもいいかなとマイコが思っていた頃に準備が整ったとハカセに言われる。


 苛立ちを蓄えつつ脳波をメタバースへと同調させる。ちなみに身体能力は現実そのままを再現してある、これでマイコも心置きなくマシルをボコれるであろう。


 視界が暗転するも周囲に天空島が現れる、脳波で操作できるため現実世界の身体とたまに同調し動いてしまう。


 しばらく脳波での操作に慣れてくると自重自在にメタバース内で移動ができるようになった。本来の身体を意識すれば現実世界で活動できるため、仮想空間に意識が取り残されると言った危険性はなく安全性に問題は無いようだ。





 コラボ配信の開始までに打ち合わせが終わり最後の雑談をピピルとマシルが舞台上で行っている、場所は天空島に聳え立つ巨大な城の内部にある貴賓室のベランダだ。部屋の装飾品も凝っており、美麗なテクスチャーが用意されている。


「先程からマシル“さん”付けしているけれど親しくなった人には私が大切にしているあだ名で呼んで欲しいわ、ピピルちゃん」


「親しい人だなんてくすぐったいですね……じゃあ、何て呼べばいいんですか?」


 実はすでに生配信は開始しておりマシル側の運営がドッキリを兼ねて用意していた罠であった。

 マシルがそっとピピルの手に自らの手を添えると優しく微笑みながらじっと見つめて来る、耳元に唇を近づけると艶やかな吐息がピピルをドキドキさせる。

 

 囁くようにピピルへとこう答える。

 

「おファ◯クと」


「ちょっと――――病院天国行った方がいいと思いますッ!!」


 見事なピピルのアッパーがマシルの顎を捉えた。インパクトの瞬間マシルの顎がシャクレ、ふぎゅぅぅぅうううぅう! と女性がしてはいけない顔と奇声を放つ。

 変態的な無駄に高度な技術でインパクトの瞬間が様々な角度で生配信された。


 驚異の技術でピピルの超人的能力は余すことなく再現され、もれなくマシルの頭部が木製の天井を貫いた。


 現実では頭が大変なことになるがここはメタバース。

 

 だがフィードバックはもれなくマシルの脳波に戻されてしまい、ぽたぽたと天井から何かが降って来た。

 

 ピピルの額に暖かい何かが滴り、おそるおそる上を見上げると――


「ん、雨…………いやぁああぁあぁああぁああぁあッ!!」


 ビックンビックン痙攣しているマシルはもれなくお股から雨を降らしていた、現実では何かしらを用意していたのか見かけは無事だがメタバースでは……。


 瞬時にモザイク処理が施され一時休憩となった、だが視聴者は気づいていない、これはまだオープニングなんだ……。 

 

 マシル古参は思った――いわんこっちゃねえ人類にはまだ早すぎたんだ……と。




 休憩も終わりコラボ内容としては当たり障りのない質問コーナーやメタバース巡りなどが恙無つつがなく進行していく。

 心なしかマシルに対してピピルの態度が適当になってはいるが誤差の範囲内であろう、当然すでに呼び捨てにされている。


 いよいよメイン企画が始まり、格闘術の伝授という形で導入部に入る。


 パルルより伝授された麻雀拳をマシルに教えて行くピピル、イーいちから始まりチュウじゅうで終わる十連撃の型を実際に演武しながら再現していく。

 

 マシルの方からアドリブで組み手を提案してくるとピピルは快く引き受け互いに向かい合うと構えを取る。


 組み手を開始する前にマシルがこんな質問をしてくる。


「ピピルちゃんって彼氏いますの?」


 急な質問にしどろもどろになり、あわあわと恥ずかしそうに答える。


「い、いい、いませんよう!! ――好きな人もいないですからね!?」


 マシルはだと思ったと言わんばかりに鼻で笑いこう挑発した。


「だと思いましたわッホーホッホッホッホッ!! お処女膜から声が響いてますものッ!! 妖艶なわたくしとは違いましてね? ホーッホッホッホッ――ほぶぁあああああッ!!」


 掌底を逆さに構え開始の一撃目をマシルの胴体に叩き込んでいた。そう”一撃目“だ。

 

「イィィィーッ! リャァンサンスゥゥーッ!! ウーリューチィーパーッ! チュッウゥ!!」


 最後のチュウを言い終えるまでにマシルはボッコボコにされておりモザイク処理されたゲロの音だけが再生される。

 心なしか掛け声にもコブシが聞いており威力が増加している、今までのうっぷんが溜まっているようだ。 


 潜り込み抉るように打ち込まれた十連撃目のフィニッシュ『チュウ拳』はまだまだオードブルの段階でありコンボは続く。

 地面を陥没させるくらい蹴り上げると空中に浮かび上がるマシルの背後に回り込み、猫の手である『ポン拳』の構えを取る。

 浮かび上がるマシルの腰の部分に猫手を全力で叩きつけると、面白いように糸の切れた身体が地面でバウンドする。マシルの意識はまだあるようだ。


 数十メートルもの上空で手の先の伸ばすとメイン企画であり安価で提案された貫き手の構え『チー拳』になる。すでに視聴者はドンビキ状態であり、古参陣は『無茶しやがって……』と黙とうする。


 ピピルは身体を回転させつつ地面にめり込んだマシルのケツに狙いを定める。


「あなたが言ったんですからね……どうか良き来世で会いましょう……」


 その不穏な言葉に、視聴者が固まる。すでにマシルのチャンネル登録者数は百万人を突破して偉業を成し遂げている。これで彼女もきっと浮かばれるであろう。


 空中の大気に凄まじい蹴りを放ち身体を加速させる。

 高さ、体重、速度、すべてが合わさり相乗効果を持って必殺の貫き手を繰り出す。

 土下座のようなポーズをしているためマシルのケツが持ち上がっており狙いを定めやすかった。

 めり込み、突き進み、抉った瞬間に視聴者数の同時接続数がピークを迎えると同時に断末魔の声が響き渡る。



「あふん!! ほげえぇええぇええぇええぇえええぇぇぇッ!!」



 貫き手がケツに刺さった状態から憎しみを込めて、グリグリと捻りが加えられこの世の地獄が再現される。


 そして世間に晒された最悪最低な、マシルのお下劣生配信はそっと終了した。


 ヨウチューバー史上最速の二百万人登録者数を越え、最もお下劣な伝説を残したとV界隈で語り継がれることとなる。


 配信終了後、マシルに高額の案件がガンガン舞い込むこととなり、しばらくは左団扇の優雅な生活を行ったそうな。


 マシルはあの最後の一撃が忘れられず、ちょいちょいコラボ企画をピピルに提案をするが、返事は往復ビンタで返され、真顔で『もう結構です』と断られるようになった。


 だが、なんだかんだとこれ以降二人は仲良くなっており、休みの日など一緒にお買い物をするようになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る