第35話オリビア大激怒でつ?

 テレビ東都内部にあるスタジオにてイギリシャの歌姫オリビアの独占インタビューが行われていた。

 とある大企業が既存のガワ本体を使い、先進技術研究所ぷいぷい団が提供する正しい言語に変換するプログラムチップを導入。

 比較的安価に翻訳機が一斉にばらまかれることになる。


 耳に装着するインカム式であり『聞く』と『話す』を切り替えることもできるし、別売りのマイクを接続すれば本人の声を収録し違和感なく会話が可能だ。


 先進技術研究所は急速に頒布されることを目的としている為に、現在出回っている翻訳機に導入できるよう設計図をあえて合わせて作成していた。

 

 その最新機器を導入してのインタビュー、普段は専属の翻訳家が付いており言葉遣いはオブラートに包まれているのだが。この機器の登場により流暢な言語にスラングすらも容赦なく翻訳された――つまり。


「あの小娘はどこッ!? 出るって聞いたからこんなインタビューも受けたんじゃないッ!! あれよあれ! 歌の怪物よ、ちっこい子供。この間ライブやってたじゃない!」


「…………え、っと。魔法幼女パルルとピピルのユニットでしょうか?」


「それ! そうそう! なんで来てないの! そうか、私に喧嘩売ってるのねあの子娘ッ! dung!! dung!! 〇〇〇ビッチ野郎!! 歌で私を扱き下ろしたのよ? 許されると思う? ねえ? 許されないわよね!? わかる? わかってんの!?」


 ものすごい剣幕で罵るオリビア。もちろん全国生放送であり禁止用語連発だ。

 なかには高性能なチップさえ判別できなくなるほどの汚い罵声があるほどだ。

 普段歌番組の司会進行を行っている綺麗なお姉さんもドンビキだ。

 あの妖精のような美しい声の持ち主が〇〇〇ビッチなんて言っているのだ、お子様には聞かせられないお下品な言葉は高性能すぎる翻訳機が親切にも適切な日本語に変えてくれた。


 本来対談も予定していたのだが、魔法少女であるピピルが学校の授業があり、収録自体は帰宅後の夜を予定していたのだ。 

 緊急来日とのことで先行して生放送をしているだけであり、来ていないのは当然なのだ。


 関東一帯で魔法幼女を知らぬ者はいない、お昼の時間帯に行われた生放送は当然のように炎上し、当然の如くオリビアVSパルルの企画書がぷいぷい団に提案された。

 ぷいぷい団マネージャーは快く許諾しスタジオの設営などが急ピッチで始められる。





(ひ。´-д-)。o○Zzz。o○(ひ。`・д・) ハッ!「お姉ちゃんの危機でつ?」





 コラボ予定であるマシルの事務所から提出された企画書を、ピピルであるマイコが目を通している。ぷいぷい団所属のマネージャーがマシルの熱心なファンであった為ゴーサインを出してしまったのだ。


 その企画書の内容が『天空島で格闘術チー拳体験ツアー』とまんまひねりの無い企画であった。


 つまりあれだ、ケツに貫き手を叩き込んで欲しいと頭のネジが数本飛んでいる企画なのだ。魔法少女は強い、コンクリートをデコピンで破砕することもできるし地割れも容易だろう。


 ハカセはマイコと共に気まずそうな顔をしている。魔法少女戦隊マギアルージュとのコラボ企画や友情出演でちょい役すら勝ち取って来ていた――そこまでは有能であったのだ。


 部下という名のマネージャーの管理までが上手くできずにいた。

 基本ボッチの孤高のおっさんであった二階ハカセはコミュニケーション能力がそこまで高くなかったのだ、大企業とは渡り合えるのになぜ……と思われている。


「とおっちゃったんですよね……これ……」


「……面目ございません……」


 シュッシュッとハカセの眼前に貫き手の素振りをし始めるマイコ、殺意を纏っているのが伺える。

 プルプルしながらも正座をしているハカセは顔に冷や汗を流しながらもその高度な頭脳で助かる方法を計算している――結果、無理です、とはじき出された。


 革の硬質な手袋をいそいそと装着をし始める、ビンタのそぶりをすると凶悪な風圧がハカセの寂しい髪の毛を揺らす。私刑までのカウントダウンが開始された。


「ハカセ、選ばせてあげます。上か下か――どっちがいい?」


「………………………下で」


 比較的皮膚の厚いケツが最善だと頭脳が瞬時にはじき出し迂闊にも下を選択してしまうハカセ、彼の命運はここに尽きた。女子高生相手にオシオキを下にして欲しいと答えてしまったのだ。


「……………………望み通り変態さんにはオシオキをくれてやります。まあ魔法少女戦隊の件で減刑は認めますね」


 そういうとマイコは別室の休憩所としてひまりと使っている部屋に何かを取りに行く。すぐさま戻って来るとその手の中には立派な物干しざおが握られていた。


 ブオンブオンと風を叩くような素振り音が響く。

 二メートル以上ある硬質なパイプが鈍く光っている。


「ちょっと変態さんには触りたくないのでこれで行きます――立って下さい」


 そういわれ後ろを向くハカセは迂闊にも視線をマイコから切らしてしまった。


「ではせーので行きますね? これで許してあげます――せーッのッ!!」


 マイコは物干し座をバットを振るような姿勢ではなく槍の名手が握るように真っすぐ構えていたのだ。


 それに気づかないハカセはバチコンと打撃が来ることを想定して身構えていたのだ――多少腫れるくらいだろう、と。


 ハカセは飴玉よりも甘かった、舐めていたのだ。


 キュパッっと地面を勢いよく蹴る音が聞こえた瞬間には一本の長大なランス物干し竿がハカセのケツに突き刺さる。


 奇声とも悲観とも嘆きとも言えない何かがおっさんの口から捻り出す。


 汚いものを触るように刺さったままの物干し竿を放置してマイコは入念に手を洗いに向かった。


 部屋に残るのはアヘ顔を晒しながら痙攣しているおっさんだけであった。

 




 気を取りなおしてケツを擦りながら打ち合わせを再開するハカセ、まるで先程の出来事が無かったかのように澄ました顔をしている。

 その日物干し竿が空を飛び遥か彼方の山に突き刺さっていることが発見される。


 スタジオを借りてモーションキャプチャーを使用することで撮影することが纏められる。Vチューバーの中の人と後日打ち合わせもする予定だ、プロフィールによると綺麗な女性で先日の凶行を行うような人には見えない、事務所の案内にも見た目だけ『は』まともだと注意書きがある。

 なぜ協調されているかはご存じのとおりだろう。


「このプロフィール不穏なんですけど……綺麗な人ですけど……」


「え、ええ、先日私のメタバース内でドラゴンとちょっと……アレなんで強制ログアウトさせましたが……申し訳ありません……」


 もう気にしたら負けだとマイコはプロフィールを放り投げ、魔法少女戦隊マギアルージュの企画書を読み始める。

 コラボ企画は番宣のポスター撮影と、ぷいぷい団所属の絵描き屋エム氏がキャラクターデザインを担当し、製作会社に提出、そして声優との顔合わせだ。

 特製アニメポスターに各声優の直筆サインはすでに入手しておりマイコはゴキゲンだ。

 日程を決めて収録スタジオに行くだけなので後は発声練習などを行えばいい、それよりも問題なのがオリビアとパルルの対決企画だ、企画自体は問題、ただオリビアがパルルを目の敵にしているのだ。


 本人は歌に対してこだわりが強く――絶対に負けるわけにはいかないっ! と豪語している。


 いたって健全なのだが発言内容がもう、放送禁止用語オンパレードだ。

 マシルに続きどうしてこうも綺麗な人が……と頭を抱えるも企画が通ったものは仕方がない。


 マネージャーの首も考えたのだが意外に有能であり確かにイメージ戦略としても美味しい物しか持ってこない。

 内容に目を瞑ればそう悪くないのだ。


「この人昼の放送でめちゃくちゃいってましたね……歌声は素敵なのに……でもひまりちゃんの歌声が衝撃を与えたと思えばそう悔しくもないかなぁ……あの子の想いを募らせた歌はとても切なかったしうれしかったもん」


「でしょうな、大物歌手が認めるほどの存在力を発揮しましたね、オリビアも賞賛が裏返ってああなっているようです。プライドがものすごく高いと有名なもので……」


 週末に予定されているVチューバーコラボの日程と、声優で出演する為の練習スタジオを確保して打ち合わせは終了した。

 マイコがひまりにオリビアとの対決が決まったと伝えるとハカセに買ってもらった女児向けの魔法少女ステッキを握りしめ飛んでいこうとしたときは、マイコが慌てて止めに入る。

 お歌の対決だよと改めて説明すると『じゃあ、あんぱん野郎の主題歌を練習するでつね!』と笑顔で言ったので、せめて『ノラえもん』か『あわびさん』にしときなさいとひまりはマイコに怒られたのであった。

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