第30話仲直りしましゅ
トメコおばあちゃんのお店の明かりは消えている、所々銃痕が生々しく残っているのもそのままだ。
鍵が締まっていてかいることもできない。
ひまりとマイコは変身を解いているため両隣の顔見知りの店主にトメコおばあちゃんの様子を聞いてみることにした。
古本屋の店主はひまりの教材を入手する際によく顔を出していたのでもちろんひまりの事は知っている。
「ん、おや、ひまりちゃんこんにちは。どうしたんだい?」
穏やかな顔をした老店主はひまりの事がお気に入りらしくこちらに気が付くと嬉しそうに声を掛けてくる。
「トメコおばーしゃんはどうしたでつか? お店も締まってるし会えないでつ」
「んー、この前警察が来たっきり何かふさぎ込んでいるようなんだよ……いくら聞いても理由は言わないし、元気が無くてなあ……どれ、ちょっと連絡してみようの――少し待ってないさい」
デバイスは機能停止したままで連絡すら取れない状況だ。マジカルハッカーの元にもいかなければいけないとひまりは再認識する。
「ひまりちゃん、おばーちゃん大丈夫かな? なんかひどいこと言われたって聞いたけどわたしだったらものすごく後悔するし顔を見せれなくなりそうだよ……」
「……たしかにションボリしましゅたけど。あれはシャオリーのせいでつ……腹いせに二、三発
マイコ自身がひまりに学び、シャオリーに拳闘術『チー』で叩き込んだ
時間もそこそこに老店主が戻って来るとニコリと笑みを浮かべている。
「ひまりちゃんが来ていると伝えると観念したように店を開けるっていってたよ? ――これを持って行くといい、私の好物なのだが甘さ控えめで品の良い一品だ」
そういうと高級そうな包装紙に包まれた
それが甘い食べ物とわかったひまりはパアアアッと顔をほころばせる。
「ありがとうでつ!! おじいしゃんにも今度かたたたきしてあげるでつ!!」
そう言うとどこに直していたのか可愛くひらがなで『かたたたたたきけん』と書かれたチケットを老店主に手渡す。
ひまりからチケットを受け取った店主は『おお、これは嬉しいなあ』と大げさに喜んでいたが、実際世界中でいくら金を積んでも手に入れられない健康長寿に肉体がバリバリの全盛期に戻るプレミアムチケットなのだ。先程、都内一帯に行った簡易なヒーリングとは桁違いの効能である。まさに知らぬが仏と言えよう。
しばらく待っているとトメコおばあちゃんが古本屋に顔を出し、ひまりとマイコを迎えに来た。バツの悪そうな顔をしていて明らかに元気がない。
「…………ひまりにマイコちゃん、お茶、よういしてるさね……」
そう言うと足早に自らのお店に引っ込んでいく。すぐ隣なので問題ないが顔を合わせられないらしい。
苦笑いをしながら仕方ないばあさんだとでも言いたそうに老店主は。
「昔っからああなんだよ、トメコはの。喧嘩しても意地っ張りだから謝れねえんだ。内心後悔して後悔していつも泣いてんのさ。歳ばっか食ってるのにそんなところはかわりゃしねえんだな……ひまりちゃんにマイコちゃん、ばあさんを頼んだよ?」
そう懐かしむように語ると二人の頭を撫でてよろしくなッ! と店内へ戻っていく。なにか、もにょもにょするような関係があったのだろうか……と女子トークはひまりがちっこいので始まらない。マイコはおりこうさんなのでお口にチャックをするのであった。
破壊された傷跡が生々しい店内へ入っていく、お気に入りのちゃぶ台も穴が開いてそのままだ。修復することはできるがピカピカの新品になってしまっては年月を重ねた味と思い出がなくなってしまうだろう。
その欠点に気づいたマイコはひまりの耳元で説明をする。
「そうでつね、ひまりもおかーしゃんとの思い出がいないいないするとかなしいでつ……」
マイコはひまりの頭をなでくりなでくりすると、ひとつ良い子になりましたね、と笑顔になる。
ちいさいひまりにはこういう情緒や共感性を少しづつ学んでいかなければならない、それを周囲の人との関りにより成長していくのだ。
AUに
室内に正座をして顔を伏せているトメコがいた。お茶は二人分の湯飲みに入れられており湯気が立ち上っている。
「トメコおばあしゃん。ひまりはションボリしましゅた。でもそれはわるいやつのせいでしゅよ? 気にしないでくだしゃい」
そういうなりトメコの頭をちっこいお手々でナデナデをし始める、ビクリとトメコは背筋を伸ばすが撫でるのをやめない。
しばらくする伏せた顔からハタハタと涙が零れ落ちて来る。
トメコが口を開くとついに沈黙が破られた。
「本当にすまなかった……自分でも理解できないことを言ってひまりを傷付けてしまった……あたしゃ合わせる顔が無いよ……」
「ひまりにおばあしゃんはいましぇん、でもトメコおばあしゃんは本当のおばあしゃんだと思ってるでつよ? これからもひまりにお勉強を教えて欲しいでつ!!」
それを聞いたトメコは涙腺が大崩壊し、ひまりを抱き締めると子供のように声をあげワンワンと泣き始めてしまった。ちっさいながらもひまりがトメコを抱き締めポンポンと背を叩きあやしている。
わたしここに居ていいのかな? という居づらそうなマイコは羊羹の用意をして見ない振りをしていた、数度顔を合わせてはいるが深い関係とまではいかなかったようだ。
トメコはもそもそと落ち着いて羊羹を食べている。『もっと奮発しなよ古本屋の』とブチブチ呟いていたのを聞くと気安い関係なのが伺える。
部屋の修繕を行なっているひまりにはトメコが穴の部分だけ『綺麗にしたらいいさね、この悪い出来事もひまりと仲直りした良い思い出さね』となにかカッコいい事をいっていた、マイコは心のメモ帳のいつか言ってみたいリストに記入をした。
「今回は凄く大変だったようだね、後片づけが終わったらまた勉強しにくるんだよ――もちろんマイコもだ、あんた高校生だろう? ひまりに教えてやんな」
恐らく仲良く勉強ができるだろうと気を使っているのだろう、もちろんですと快諾するマイコ。
デバイスの通信を復活させないといけないので仲直りが終わると足早におやびんの元へ向かう。今回は学校で騒動が起きたためどうなっているのか分かっていない。自宅におやびんがいればいいのだが、と二人飛翔しながら相談をする。
特におやびんを含めた三人で仲良く映画を見たり遊んだりしている事が多くとても仲がいい。思いつめて居なければ……と友人二人は心配している。
おやびんのアパートに到着すると玄関のコツコツと叩いてみる、中から喧嘩している声が聞こえて来るがしばらく待ってみる。
母親に引っ張られながらメイコで玄関から出て来て顔を背けている。
パチコーンとメイコが母親に頭をはたかれると『ごめんなさい……』と蚊の鳴くような声で謝罪をしてくる。
「ごめんなさいね、このこ合わせる顔がねぇ、おやぶん失格だなんてさっきまで落ち込んでいたのよ? ほんとは来てくれたことにとっても喜んでいたくせに……」
「おかーさん、うるさい!! …………ひまり、ごめんなさい。わたしおかしくなっていたの……。許してくれる?」
「おやびんが謝ることはないでつよ? これからも三人であぞぶでしゅ!」
同じ小学生の年齢層なのか『ごめんなさい』の魔法の一言ですぐさまキャッキャし始める。最高齢であるマイコは保護者役のはずなのだがちいさな女の子を愛でる趣味があるのか違和感なく混ざっている。
買い置きしていたポテチをポリポリ食べ雑談をしていると何か忘れているような気がしてくる魔法使いの二人。
「…………ひまりちゃん。何か大切な事忘れてない? んーっと、なんだろう」
「マイコ姉しゃんもでつか? ひまりも喉にお餅が詰まってる感じがするでしゅ」
餅が喉に詰まってたら危ないだろとツッコミを入れられながらワイワイと雑談をしている。ピコーンとひまりの頭上になつかしい白熱電球が光を灯した。
「ハカセしゃんのことわすれてまちた。急いで行かないとでつ」
「ポテチ食べ終わってからでいいんじゃないの?」
メイコの仲直りした友達と離れると寂しい気持ちが、やや酷薄な発言になってしまう。
「ハカセも大人の男性なんだしもう少しゆっくりしてからいこうよ」
マイコも賛成したため、じゃあそういうことで、と。割とひどい扱いをされているハカセ。幼女に集まって来るおっさんズには世間の風も冷たいだろう。
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