第29話後片付けは大事でつ?
パルルのちっさいお手々がシャオリーの首根っこを掴んでぶらりと空中に漂っているさまはしっかりと国民に晒されている。
もちろん素っ裸では問題なので、あまりに哀れさを買ったのかパーカーだけを羽織り扇情的になっている。
分かったことは国家主席の命令で偶然手に入れた仙女の力を使い侵略を始めたということだけだ。
現在掴んでいる首筋からチューチューと何かの力が吸収されている感覚に首を傾げるパルル。
その度にビクンビクンと痙攣しているシャオリーはとってもえっちだ。
プルプルと年下の癖にぷるんぷるんと揺らす乳に腹が立ったのか、ピピルがときたま乳にビンタをかましている、それでさらに揺れると往復ビンタをかます。
「ピピルちゃんやめるでつよー、大人になったらナイスボデーになるでつ、きっと」
「パルルちゃん慰めは止して! お母さんもあんまりおっきくないの……」
「この子どうするでしゅかね? なんだかチュルチュル吸っている気がしゅるんでつけど――あ、
とうとうパルルのピンクドレスにキラキラした羽衣が展開される。自由自在に動くし、鱗粉が舞っている。
腕の中のシャオリーは急に苦しみだし気絶してしまう。
「パルルちゃんそれって能力吸収しちゃったんじゃないのかな? 必要だとは思わないけどとってもフリフリふわふわしてて可愛いよ!?」
「ほんとでつね。これでごはんの時にお醤油をとりやすいでつね」
「マジックハンドじゃないんだから。でも空も飛べるし、仕えても洗脳能力だよう? あ、透明化があるよね?」
「透明化は魔法でできましゅよ? でもこれ紫色にチェンジもできるでつ」
「じゃあただのおしゃれさんだね!! 仙女やっつけて衣装のバリエーション増加にみって…………」
二人で漫才をしていると現在地に超常対策本部の刑事や、救助隊がやって来る。
その中にはぷいぷい団の幹部である武侠や支倉もいる。気まずげな雰囲気を漂わせている。
「……その……すまなかった、操られていたとはいえ発砲までしてしまった……」
「そのとおりです、大変申し訳ありませんでした」
複数の刑事たちが一堂に頭を丁寧に下げ謝罪をしてきた。救助隊はなにがなんだかわかっていないがアンチ・ヘイト発言をしていたのは皆知っている事だろう。
「いいんでつよ、とーっても傷つきましゅたけど、悪者はこうして捕まえたんでつ。どうぞ連れて行ってくだしゃい、能力は失っていると思いましゅよ?」
再び頭を下げる武侠はシャオリーに手と足に手錠と袋を被せ、荷物運び護送車に叩き込む、多少私怨が混ざってはいるが刑事一同気持ちは同じであろう。
周辺のビルなどが悲惨な状態になっているのでパルルは羽衣を展開、神々しい黄金の光を放ち空中に浮かび上がると、瓦礫が時計の針を戻すように元に戻っていく。
「おかたづけは大事だと学んだのでしゅよー! そーれ元に戻るでつよ!!」
ふわふわと街路樹や下水道さえ元に戻っていく、ガラスの破片で怪我をした人や持病持ちの人、歯に入れた銀歯が取れ生え変わり、入れ歯も吹き飛ぶ、さらにさらに年老いた老人の腰は伸び年齢も若返って来る――最後に武侠のハゲ頭に薄っすらと草原が咲きほこる。
「嬢ちゃん……ハゲを治してくれてありがとう……実は気にしていたんだ……みんなハゲハゲいうんだぜ?」
武侠の目に仄かに涙が灯る。支倉も若いころにスポーツで関節を痛めていたのだがちゃっかり治っている。
「ありぇー、効き目がバツグンに上がってるでつ。ついでに東京都中治しまつね、これで良い子良い子でしゅねー!!」
テンションの上がったパルルは誰にも止められない。武侠が慌てて止めようとするも間に合わず…………。
都内は黄金の領域が展開され、死にかけ老人や、病院にいる全ての患者、整形手術をしていた有名人、胸が縮んだモデルの女性、妊婦さんはスポーンと健康に出産し、ハゲが全滅した。身体的な平均年齢は一気に下がり。健康長寿が確定した。年金は一体どうなるのだろうか……医療費はガクリと下がるだろうが……。
「…………あー、もうしらねえ……ハゲの同士がいなくなったのは喜ばしいが……病院関係者は補助金出さないといけないだろうな。嬢ちゃん、もしな……もしだけどよ……国にお願いされたら全国にそれ、できるか? 無理にとは言わねえが……」
「いいでつよー、なんだかとっても調子がいいでつ!! ずーっとは無理でつけど一回ならぶきょーしゃんの顔に免じてやるでつよ!!」
黄金の光も伴ってからというもの全能感が凄い。国中をカバーできるほどの力を発揮できたのだ。ぴょんぴょん飛び跳ねるパルルはゴキゲンだ。
「あのよぉ……そこの嬢ちゃんに似ている子はもしかして……」
「魔法少女ピピルちゃんでつ!! パンチ一発でビル破壊でましゅ!」
「パルルちゃんそんなこと言ったら脳筋だってバレるじゃない!? 魔法少女には夢を持ってもらわないと…………えへっ」
「えっと、ピピルちゃん、かい? もうすでに遅いぞ? パンチ一発で大破壊起こしてるの中継されちまってる……通り名は撲殺少女になっちまってるぜ」
ピピルはヒャーと悲鳴を上げた後、涙目で武侠に向けバングルを展開、崩拳の構えを取る。
「おいおいおいおい嬢ちゃんまってくれ、シャレになんねえ……え、本気? 待て待て待てー!!」
ふざけながらも精一杯の照れ隠しなのだろう、適度なスピードで獲物を追い詰めて行く。
パルルは周囲の修繕が終わり、トメコばあちゃんとおやぶんに会いに行こうと行動を始める。あのような別れ方をしたもののずっと心に棘が刺さっているままだ。
「ピピルちゃんかえりましゅよー。あの人たちに会いに行きまつ」
「はーい、今行きまーす」
何とか組み手を回避できた武侠は冷や汗を全身に搔いている。
一緒に来ていた支倉は澄まし顔で現場の処理を熟していく――巻き込まれてはたまらないと内心で焦ってはいたのだ。
準戦時体制で警戒をしていたAUの上空に黄金の霧が立ち込めると次々と人々が正気に戻って行く、支配領域はそれほど広くはなかったが主に政治家や軍関係者、はたまた関係を持っていた多数の女性秘書など。
執務室の中は凄い荒れようで書類や棚など破壊されつくしている。
デスクの上に置かれた旅行用の大きなキャリーケースには権利書や金銭、貴金属などが詰め込まれている。
「クソッ! クソッ! クソッ! 役に立たない馬鹿娘が! 失敗しやがって! あと少し、あと少しだったんだぞ! なんで私がこんなみじめに逃げなければいけない!」
魔法幼女による報復活動に怯えながら逃走の用意を慌ててしている国家主席である王カイ。
パルル自身は解決したものとすっかり主席の事を忘れているのだが王自身はそうは思っていない。
打倒されたシャオリーの洗脳が解ける可能性があるのだ、それはとてもマズイ。
記憶が残っているのは把握しているしいつ解除されるかわからない。こうしてアメリコにでも亡命をすれば守ってもらえると本気で考えているようだ。
「プライベートジェットの出発時刻はもう少しか……おい、秘書はまだか!? クソッ! 使えない奴らめ……」
ぶつくさ呪詛を呟いていると秘書が数人ノックもなしに入室してくる。顔は能面のように無表情だ。
「ああ、丁度いい荷物を運んでくれたまえ、ノックを忘れたのは不問にしてやろう。それともなんだもう一回してほしいのか? ……まったく好き者――――」
妙齢である美人秘書の手元には煙を吐いている拳銃が握られている。
銃弾はすでに吐き出されており王氏の額から後頭部へ向けて貫通している。
執務室は鮮血でリフォームされており、素晴らしい出来栄えだ。
「撃て、確実に殺せ」
無情にも複数いる秘書たちによる死体蹴りが始まった。
彼女たちの気が収まるまでに弾を込めたマガジンが十数本程消化される、室内は死体だったものと空の薬莢が散らばり無機物と有機物の調和の取れたコラボレーションを演出している。
「撤収、金目の物を持ってにげるぞ」
リーダー格の女性秘書は有名な特殊部隊に所属していたらしく護衛も兼ねられていた。プライドがものすごく高く、はらわたが煮えくり返っている。これでもまだ収まる気がしない。
「娘も殺すか……おいアメリコへ行くぞ。着いてきたい奴は来い。使ってやる」
リーダーの命令に何も言わずに付き従う隊員達。傲慢にも見える態度だが彼女達からの人望は厚いようだ。彼女の名はメアリー、どこにでもいる凄腕の暗殺者だ。
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