第28話魔法少女ピピルだよ!

 都心の真上に当たる場所にパルルとピピルが二人で準備を始めている。

 日本の中心にあたる上空から黄金のキラキラで日本全域を覆う作戦だ。

 もし敵の妨害や紫の洗脳する霧が発生する事をピピルがパワーを用いてゴリゴリに解決する手はずだ。

 

 数日間変身して格闘の特訓を行っていたがこれ以上時間をかけるとAUの侵略が早まる危険性がありギリギリになって作戦を開始した。


「ピピルしゃん始めるでつよ?」


「なんだかピピルって呼ばれるとくすぐったいね――準備万端だよッ! 任せてパルルちゃん!」


 パルルは手の平を勢いよく叩きつけ柏手かしわでを行う。

 パァンと澄み切った音は周囲に波及すると黄金に変化していく。

 二度、三度、四度、と留めなく打ち鳴らす。

 

 波紋は重なり乗算され凄まじい勢いで広がっていく。

 その姿は正に神の巫女が行う儀式であり、神威でもある。


 日本上空に滞空している紫の霧がドンドン消滅いて行き黄金色に祝福されていく。もちろんその異変にシャオリーが気づくと真っ先に中心点へと飛んでくる。


 だが悲しいかな、魔法幼女程のパワーもなく、魔法少女のようなスピードもない。ただあるのは悪意を煮詰めたような誘惑と蠱惑――騙し、隠し、惑わす。


 ようやく高所で黄金の波動を放つパルルの元に辿りつく。


「ぜぇっぜぇっぜぇっ、あ、あんたなにしてくれちゃってんのよ!! せっかく洗脳が完了したのに正気に戻って来てるじゃないの!? いいの!? 殺しちゃ――」




――う、ごぷぅッ、あ゛ああああぁぁぁぁ…………ぁぁ……




 前転した勢いそのままの足刀をシャオリーの腹部へ余すことなく叩き込んだピピル。顔にはスッキリ爽快な笑顔が浮かんでいる。


 パルルへ振り向きシュババッとグットサインを掲げると。


「わたしのパルルちゃんをいじめたんだからちょーっとお仕置きしてくるね? ――自害何てさせないくらい徹底的に学んだ拳を叩き込んでくるね!!」


 そういうとバヒュンと急速降下していくピピル。

 黄金の儀式を行うパルルは動けないがぼそりと呟く。


「ピピルしゃん十分脳筋が板についてるでしゅね。『脳筋パワフルガールピピル』次のぷいぷい団のトップページはこれできまりでつね。ああ、みんなをはやくたしゅけないと……」


 そういうと黄金の出力をさらに上げる。すでに都心の人々は自分たちが何を行っていたか自覚している。

 シャオリーにとって洗脳で操ることはできるが、解除された後のことなど知ったことではないのだ。





 はた迷惑にも街路樹路何本も突き抜けて、ようやく勢いが止まったシャオリーはゲロ吐しゃ物を吐いていた――この屈辱を味わうには二度目だ――とシャオリーは歯を食いしばりギリギリと苛立ちをあらわす。


――腹いせにその辺の住民を虐殺でもしてやるか。


 あくどい事をシャオリーがと企んでいると、目の前にスッと音もたてずに凶悪な装備をした魔法少女ピピルが立っていた。


 にこやかに手を振っているピピルに対してシャオリーは躾けの行き届いたお辞儀を反射的にぺこりと頭を下げてしまう。


 それはとてもとてもとーっても悪手であり、大変不味かった。


「ポンッ!」


 頭を下げたシャオリーの後頭部にピピルは猫さんの手の型で地面に向け振り下ろす。その腕力の瞬発力は周囲に衝撃波として伝わり、窓ガラスが割れ飛び散る。

もちろんシャオリーは地面に顔面をめり込ませ息ができなくなる。


「チッー!」


 猫さんの型から貫き手ぬきてに変更すると、紫衣しえの隙間から覗くシャオリーの可愛い二つに割れたお尻に突き刺す。


「あんぎゃああああああああああああああッ!!!!」


 乙女の危機である。


 泣き叫ぶシャオリーを横目に、ピピルは不快そうにトゲトゲしい籠手をブンブン振りかざし汚れチェックをしていた。


 あ、えっと、なんだっけ、と言う言葉を尻に意識を持って行かれていたシャオリーは聞き逃す。


「カンッ!!」


 両手をピピルが組む大きく振り上げ勢いを付けて胴体に叩き込んだ。

 尻を防御していたシャオリーは後頭部に叩き込まれたお手製のスレッジハンマーを食らい意識を飛ばす。

 今の衝撃で道路が陥没し水道管が破裂した。地面の至る所から水が溢れ出し軽い災害状態になっている。


 その様子は正気に戻った周辺の住民が余すことなくSNSに生中継しており。


『パルルおっきくなったのか?』『いや、姉じゃない?』『おっきくなったらもう魔法少女じゃないか! あ、正統派じゃないか』『今度は脳筋系撲殺少女か……いいね! あのヒールで踏んで欲しい』


 すでに意識を飛ばしていることにピピルは気づかずに『確か連続技は……』と素振りを始めていた。

 その光景と発言を聞いていた視聴者諸君は。


『えげつねえぜ……たしかシャオリーとかいうテロリストだよなあいつ』『うんうん、なんか甘い匂い嗅いだら操られてるって分かってるのに体が動かなくなった』『なんだ、ならもっとボコボコにしてくれや魔法少女』


 コホーッと息を吐き出し集中するピピル、早く逃げないと乙女の危機どころか生命の危機である。


「イーッ! アルッ!!」


 ドゴンドゴンとシャオリーが地面にめり込むたびにクレーターが広がっていく。

 身体能力がなまじ高いためか胴体は分かれていない。


『おいおい、麻雀の和製AU語で拳を叩きつける何て強烈な皮肉だぜ』『ねえ、ビックンビックンしてるけどしぶといよねあの子』『俺はさっきの貫き手に興奮したね!』『でぇじょうぶだ、これはアーカイブに乗るから』


「サンッスー!! ウーリュウッ!! えーっとえと……なんだっけ?」


 六発もの轟音を響かせ紫衣も解除されて真っ裸でボコられているシャオリー。

 可愛いお尻が際立っているがドロドロに汚れていてとっても可哀想な光景になっている。

 

『チーだよ。最初の貫き手と被って忘れちまったのかな?』『テロリストはしょしてもいいがさすがにプリケツさらして泥だらけを見てると哀れに……』『……おいおいおいおい、イーからまた始めるみたいだぞあの魔法少女! イカレタやろうだぜ!!』『新しい魔法少女も怒らせてはいけない、これは教訓だね!?』


 それから数字の『十』をあらわす『チュウ』までコンボを完成させるまで五回ほどかかった。

 その間に叩き込まれた拳は四十発を越えた。

 地面を陥没させ大破壊を行う拳は周辺のビルを傾かせ窓などは全滅、みんな初めの頃の魔法幼女を彷彿とさせ、ほっこりした気分になる。

 なお魔法幼女災害などは正当性があれば補助金など申請できる制度が発布されている。だからと言ってむやみに壊せばもちろん怒られはするらしい。


 ビクビクと魚のように飛び跳ね、口から泡を吹いている様子はもちろんAUにも中継されており。王氏は血管が破裂しそうな程顔を膨らませていた。


 骨は砕けていてもさすがは仙女、回復力だけは尋常ではない。

 その都度に意識をもどさないよう入念に骨をせんべいのように踏み砕いていく。

 しばらくするとピピルは飽きたのかパルルの方向を見つめながら作業のように少女を足蹴にして骨を折っていく。


 パルルの敵はミジンコ以下だとでも思っているのか虫けらを踏みつぶしているような冷酷な目でシャオリーを見下している。


 ドンドンドンッドンドンドンッ


 ロックなリズムで地面で音楽を奏で始めるころには、周囲の黄金のオーラの濃度はピークを迎えており、その様子は正気に戻ったテレビクルーやぷいぷい団が中継をSNS上に流し始める。敵に操られていたのを悔いているようだ。

 陸自の特戦群は互いの安否を確認をし。

 ぷいぷい団幹部などは顔を合わせれないと、涙ながら悔しがっていた。

 とくにひどかったのがトメコばあちゃんで死にそうな顔をしていた。

 おやびんであるメイコもずっと泣いており部屋から出てこない。

 

 後日、仲直りするのだがひと悶着ありそうだ。


 ピークを越えたオーラは完全に紫の霧を消し去るとAUの方面へ向かって行く。

 まるで意思を持っているかのように動き出しパルルの制御を離れた。


「ありぇ? どこにいくんでつか? まあいいでしゅ、きっと悪者をやっつけにいくんでつね」


 洗脳の解除が終わると飛翔しピピルの元へやって来る。

 地面すれすれで高度な制御を熟し滑るよう停止する。


「ピピルしゃんありがとうございましゅ」


「いいんだよぉー、あ、連続技できたよー、何度か失敗しちゃったけど」


 キャッキャウフフと会話を始めてしまう。そのピピルの足の裏にはシャオリーがいるのだが。

 ふとシャオリーが意識を取り戻すと、絶望的な光景を目の当たりにする。


 ガシリと魔法幼女のスーパーパワーに頭を掴まれると身動きが一切できなくなり妖艶紫衣すら展開できない。

 できる事と言えば涙を流すくらいだ。


「ちょっと話が聞きたいんでしゅけどいいでつよね? 素直になれば優しくするでつよ? ――それとも愛情拷問が欲しいでつか?」


 プルプルとチワワのように震え始めたシャオリーはとってもいい子だった。

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