第19話国が動く時
超常対策本部室には良識派が入間の強制捜査に対しての問答が繰り返されていた。武侠ハザマに、支倉トオル。さらには公安組織の人間すら来ているという事態になっている。
「どういうことだ入間、ちっとやり過ぎじゃねえのか? あ゛? 百歩譲って逮捕ならまだ理解はしようとするがな、なぜ向かう先が領事館なんだ? ネタは上がってんだぞ?」
武侠は入間の襟元を握りしめ体を持ち上げている。
「いえ、いえいえいえいえ、そんな誤解ですよ、ハハハッそんな指示は出してませんし……――あなたの方こそ私に手を上げて、どうなっても知りませんよ? 丁度公安の方もいらっしゃいますし、ほら、この刑事暴力してますよー? ほらほらー?」
公安の人間は黙して語らない。知らぬふりをしている。さすがに今回の件は我慢の限界をはるかにブッチぎったのだろう。女子高生を攫い、魔法幼女をおびき寄せるような真似を堂々としたのだ。これでこいつが裁かれないなら良識派全員辞職する勢いである。
「すっとぼけんなよ入間、令状にちゃあんとてめえのサインが入ってるのを確認してんだよ、だぁほがッ!!」
武侠はその太い腕に力を入れ、何度も何度も入間を壁にも押し付ける。
「おいクズの入間本部長? 違法捜査、未成年略取、外患誘致罪、共謀罪、暴行、傷害罪、殺人未遂、その他もろもろで逮捕拘留させて頂きます。コレ全て適応されれば死刑確定だな入間?」
横で眺めていた支倉が逮捕令状を握りしめた拳を入間の顔面に何度も叩きつける。よほどストレスが溜まっていたのだろう。容赦がない。
「き、きしゃまら、ぐぼっ、わたしに、こんなこ、と、をして、ただで済むと、ケペ、思うな、よ、ギャアッ」
口の中が切れたのか鼻血と口元から血が流れだす。
「ああ、それな。今回の貴様らの所業に魔法幼女様が本腰入れたんだよ。もうおしまいさ――貴様も一部議員もな」
出番が来たとばかりにピシリとスーツを決めている公安の方が、決め台詞を吐く。その顔は全力のドヤ顔を決めている。
「貴様らウジ虫どもにはイライラしてたのさ、証拠をそろえても議員特権やらなんやらで逮捕できねえし裏で潰しやがって。それでだ、今から貴様の大好きな治外法権とやらの領事館に放り込んであげるのさ。そこで何が起きても知らぬ存ぜぬできるからな」
その言葉を聞くなり一生懸命逃げようとする入間、だが数人のガタイのいい武闘派に抑え込まれ逃げることができない。ついには手錠を掛けられ藻掻くだけとなる。
先生と共に車に押し込められてしまいどこかへと連れ去られている。頭には袋が被せられ何も見えていない。
胸元に隠しておいたスマホカードを通話の状態にしているのが唯一の命綱だ。
隣に引っ付いているのはわたしの学校の先生でなんだか巻き込んだみたいでとても申し訳に気持ちになる。
「先生……ごめんなさい、巻き込んでしまいました」
「いえ、いいのよ、警察の悪い噂も聞いていたしこれは異常よ、どうにか訴えれる状況になればいいのだけれど……こいつらなんだかおかしいから危険かもしれないわね……本当に刑事だったのかしら?」
「おいッ! ガタガタうるせえぞ! 黙っていろッ!」
そういうなり、腹を殴られた。口いっぱいに嗚咽感が湧きあがり、嘔吐しそうになる。
「やめなさいッ! 本当に警察なら暴力を振るうはずないでしょうッ!」
「ざぁ~んねぇ~ん、これがビックリ本当なんだよネッ! ま、中にはこういう部門もあるってこと。これから君たちは外国の領事館に売られるわけ? 分かるぅ? お国さんも人身売買を認める何て世も末だね? ハハハハハハッ」
「!! やめなさいッ! 女なら私だけで充分でしょう! 生徒を帰しなさい!」
「先生…………」
「えーんえーん、お涙頂戴、涙がポロリってね! 残念、そこの女子高生が本命なの? 魔法幼女を捕まえる人質ってわけ。外交担当の大臣が行った魔法少女オークションで日本にお金を高く積んだ領事館にごあんな~いって寸法さ」
ケタケタ笑い声を上げながら護送車の壁をバンバン叩く。
「この外道め……ッ! 死んでしまえッ!」
「おー、センセーこわーいッ。ま! 俺の名前も外道っつーんだけどな! ――領事館まで大人しくしといてくれや? まだ無事でいたいだろう? なぁ?」
そういわれると大人しくせざる得なくなり。女性教師とマイコは身を寄せ合い震えながら助けを待つ。
外道はまさかマイコの胸元にあるスマホカードが全国に生中継されているとは知らずに、愉悦に浸る。
彼の趣味は女子供をいたぶり、泣き叫ぶ姿が好きなのだから。
その様子はニュースにも公開され、緊急で周囲一帯の治安維持組織全てが動き出す。
このままでは国が終わると本気で乗り出したのだ。
腐敗が蔓延していると思われる組織の名前、本人氏名、住所、顔写真、罪状のリストがテレビ局、SNS上の様々な媒体でタイミングよく公開される。
もちろん、罪状が確定するほどの証拠をすでに公安も掴んでいた。ただ握りつぶされているだけで。
歴史の教科書に載る勢いの動乱と、逮捕劇が始まったのだ。
通常国会が行われている国会議事堂では色々な党の議員が一堂に集まり、法律案に対してあーでもないこーでもないとヤジを飛ばしている。
国を揺るがす大スキャンダルが発生していることなど露知らず呑気に居眠りをしている。
そのなかに人身売買をおこなった外交担当の大臣である
審議中の国会内部に武装した警官隊が突入してくる、なんだなんだと大騒ぎになるも長谷部の頭が殴られ地面に叩きつけられる。
別の人間が手錠をかけ罪状を読み上げる。
「長谷部ゲンゾウ、現在進行中の外患誘致罪、未成年略取、殺人未遂、暴行未遂、傷害罪、特権の不正利用により緊急逮捕する。言い訳は聞かん、自分自身が分かっているはずだ」
「な、なんだとッ! 議員は不逮捕権があるはずだッ!」
「なんだその言い訳は? 罪を犯していないとは言わないのだな。残念ながら現行犯だ。逮捕を執行できる。他の野党議員、与党議員数名もな。外国の領事館との取引内容がリークされた。よって貴様らは外患誘致罪が適応される、もちろん――死刑だ」
「ふ、ふざけるなぁッ! 法律大臣ッ! 不当逮捕ですッ! こいつらを裁いてください!」
話を振られた法律大臣は迷惑そうに顔をしかめている、もともと舐めた真似をしていた外交大臣に良い印象など最初からない。
「ふん、犯罪者を守るために法律はあるんじゃない。貴様のような奴を地獄に送るためにあるんだと再認識したわい。外患誘致罪が死刑で良かったと心から思うよ、もちろんサインは即日行うとしようッ! ――――地獄へのサービスだよ長谷部くん?」
「そ、そんな…………そ、そうだッ! 総合大臣ッ! わたしは国の為を思って……」
「君は賄賂をもらって未成年を攫い、外国に売り渡し、幼女を殺そうとするのが国の正義だと本気で思っているのかね? 不快だ、早く連れていけ。国会の審議は中止、この中に余罪がある人物が多い、現行犯で逮捕できるならすべて連れて行きたまえ。――――――議員特権の廃止を審議しないといけないかもしれないな」
法律大臣と総合大臣の英断が国に中継されるや否や、支持率が上昇し。国の腐敗が叫ばれた中での一種の清涼剤となる。
逮捕、強制連行される議員も居眠りをしている様子がリプレイされ、テレビでも居眠り議員ッ! 未成年略取と人身売買ッ!の部分を盛大に切り取り。
死刑確定か? とおおはしゃぎする。今世紀最大のスキャンダルとして連日連夜放送された。
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