第18話お皿割れたでつか?

「ふんふふふんーふんふふふんー」


 魔法幼女であるパルルちゃん、いやひまり自宅で朝ご飯である目玉焼きとトーストをはハムハム食べている、目玉焼きにはソース派のようで現代の食文化が洋食派に移行しているのが伺える。


 襟元にはちっさい子供用エプロンだ掛けられており食べこぼしても汚れないように工夫がみられる。

 朝シャンを浴びた後に着ているピンクの猫さんパーカーはマイコ家族からのプレゼントでもらったお気に入りの逸品だ。


 マイコと出会う前の家の状況は悲惨の一言で今はそんな様子が見受けられない。

 

 皿も綺麗に洗っているし、水風呂にも入らない、髪を乾かしてブラッシングをしているし、お勉強も頑張っている。

 これで友達までできているので順風満帆のはず……だ。


「おかあしゃん……おとうしゃん……」


 ふと食卓を囲んでいた過去を思い出してしまうとそれだけで悲しくなってしまうお年頃。友情、親愛には恵まれ始めた現在だが『家族愛』が致命的なほど足りていない。恐らくメイコもマイコもトメコも養子として引き取ろうと何度も思っているのであろう。――だがそうならない、そう思ってはいけないと何かが邪魔をする。


 みなは気づき始めている。ひまりを、パルルを引き留め正義へと誘う悪意とも正義とも言えない何かがいると……。


 急に人寂しくなったのか仏壇の前にすわり家族の写真をボウッとひまりは眺める。――じぃっと、見つめ、涙を浮かべ、袖でぬぐい取る。


 すぐさま変身し、いつものフリフリドレスへと変わると気持ちを切り替えを目指す。全ては家族が帰ってくるために……今日も空を駆け、人々を救いに行く。





悪意悪意悪意悪意邪悪邪悪邪悪邪悪





 超常対策本部長である、入間いるまキョウタロウは機嫌が悪い。形式上受けなければいけなかった事情聴取をさっさと済ませる為に。


 呪文Ⅰ「事実無根です、心外です」

 呪文Ⅱ「すいません、以後気をつけます」

 を繰り返すだけで許されるという素敵な呪文を唱えさせられたのだ。

 

 プライドの高い入間はとことん根に持つタイプだ。自分が悪かろうと全て相手のせいにする友達ができない性格をしている。


「クソガキがなんで世間にちやほやされているんだ、役に立たない警官など首にしたまえ。――案外海外組織とやらも役に立たないな。武侠ぶきょう支倉はせくらもあのまま死ねば良かったのに……――ッチ」


 以前支倉に暴行を加えられた件で根に持っている、海外組織に依頼をしてついでに暗殺させようとたくらんだ経緯があった。


――もみ消しは私の得意分野なのにあいつらときたら……クソッ。


 盗聴されていてはたまらないと小声で行動するようになり部下からはさらに嫌われる一因となっている。ブツブツボソボソと怨嵯をまき散らすその姿はまるで幽鬼のサマだ。


 なぜ上司の肝いりで入間が存在できているのは海外勢による利益供与が発生しているからだ。莫大な金銭を引き換えに魔法幼女を捕える、もしくは殺害、のちにサンプル提供の契約を結んでいる。

 日本の一部議員も結託しているのは周知の事実だ。証拠を提出してももみ消され、すでに腐敗の温床と化している。


 それに反してぷいぷい団にも警官、刑事、公安が流れ込み組織編制され、超常対策本部にも網が張られている事など入間も知らないだろう。


 名前がとってもプリティなのだが中身はガチガチの武闘派が揃い始めている。


「クソッ――おい、外道げどうミチナガを呼べ」


 腰ぎんちゃくのエリート組の中で裏で利益を啜り美味しい思いをしている連中がいる。法を盾にやりたい放題し、抵抗すれば公務執行妨害を平気で突きつける外道。名は体を表すというが呼び名そのままの人物が現れる。


「なんっすか? 今日もゴキゲンななめだねー入間っち」


 気に入らないのか返事は返さずに逮捕令状を外道に放り投げる。


「とっとと捕まえてこい。罪状は犯人隠避だ。拘留できるだけでいい――そこからは治外法権がある外国の公館に放り込めばいい」


「ヒュウッ――旦那も随分と外道ですね、俺の名も返上しなきゃいけませんねぇ」


 からかう外道も入間は我関せず顎で外を指し示す。


戸部とべマイコ十七歳、花の女子高生ってかぁ~、残念ですねぇ~害虫に集られちゃってさ」


 そう呟くと数人の部下を連れ退室していく。


 会話の内容は聞こえなかったが不穏な空気を感じ、数名の良識派がぷいぷい団内で情報を共有する。入間が何か不穏な行動をとっていると。





 女子高の学校内にパトカーが数台乗り込んでくる、なんだなんだと教師や生徒が窓の外を眺め出す。戸部マイコもなにが起きたのわからずホケーッとしているだけだ。


 しばらくするとどかどかとガラの悪い男達が教室に押し寄せ警察手帳を提示する。女性教師が止めようとするも無理やり押し退けられた。


「戸部マイコだな? 魔法幼女の関係のあることは分かっている犯人隠避の疑いで逮捕する。これが令状だ」


 そういうなり小難しい文章の書かれた紙切れをずずいと押し付けて来る。


「ほえ? 会話したりはしましたけど…………」


「いいから来い――抵抗するなよ?」


 無理やり腕を引っ張り教室から連れ出そうとする刑事たち、それにあわてて教師が止めようとするも手でふさぎ公務執行妨害を盾に脅し始める。


「おや? おやおやおや? 聖職と言われた教師が国家公務員の邪魔をすると? ――いいでしょうあなたも現行犯で逮捕ですねぇ~。おい、こいつも連れてけ」 

 

「な、なんですかあなた達はッ! 逃走の疑いのない女子高生に強制できないはずですよッ! この様子は撮影していますッ! ――キャアッ!」


 女性教師の髪を掴むなり地面に引き倒し手錠をかけ始める。撮影していたスマホを破壊し証拠を残さない。


 唖然としている生徒たちに向かって撮影をするなと恫喝を始める始末だ。


「おい、貴様ら。自宅にこわーい警察官がお迎えに来てほしくないなら黙ってろよ? ――どうとでもできるんだからな?」


 そういう捨て台詞をはいて戸部マイコは連行され女性教師と共にパトカーに押し込まれる。


 その様子を銀行強盗の件でマイコと友人になっていた人物はぷいぷい掲示板へ撮影していた動画をすかさずアップロードする――どうかマイコちゃんを助けて、と一文を添えて。





悪意悪意悪意悪意邪悪邪悪邪悪邪悪





 空を飛び回り今日ものんびりとパトロールをしているパルルのスマホカードに連絡が入る。なんでしゅか? と不思議に思いながら通信開始のボタンをポチッとおす。


『パルル様、単刀直入に言います――マイコ様が攫われました』


「うにゅ、お皿が割れたんでしゅか? 怪我はしてないんでつか?」


『いえ、お皿ではありません、マイコ様が悪者に連れ去られたのです。場所は現在とホログラムに投影しています。犯人は外道という刑事と指示をしたのは入間です』


「ゆるせましぇんね…………………コケコッコトサカにきましゅた――今日は悪い子になりまつ」


『…………向かう先は領事館、治外法権を利用して犯罪行為を行うと思われます。関係のない人間はそこにはいないかと――ご随意になさってください』


 通信をそのままにしてナビゲートをハカセに行ってもらうとともに良識派に魔法幼女が制圧に向かったと報告。


 今日の魔法幼女は全力でヤルと警告。


 それと共に外道の行った一連の行動記録の動画をネット上に拡散させる、もちろん入間の非合法な発言、行動も含めてだ。もみ消される可能性も高いが魔法幼女がヤルといったのだ。今日で腐敗した組織は一掃されるだろう。


 じわじわと動画がSNSに拡散されて、あるキーワードがランクインする。


――魔法幼女、国を取るってよ?

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