第16話美味しいジェラート食べるでつ

 ちんたかたったーぶんたかたったーちんたかたったーぶんたかったかー。


 良く分からない歌を口ずさみながら五百円玉を握りしめ東京都内にある有名スイーツ店を目指す。

 自宅から遠かったため魔法幼女に変身してばびゅんと飛んできたのだった。とてもうっかりさんなパルルは変身を解かずにお気に入りの着物を着てスキップをしている。


 おこずかいをおねーちゃんであるマイコに貰うと、二人の会話の中で話題に出ていた有名な『MAGICマジック』というお店のジェラートが美味しいと聞き付け、ひとりで買い求めに来たのであった。


 るんたったとスキップしながら着いた店頭には若いおねえさんが受付をしており、可愛いキャップにお洒落な白地の生地にブルーのストライプが入った制服を着ている。


 手に握りしめた五百円玉をちっこいお手々で掲げると。


「おねーしゃん美味しいじぇらーと? をくだしゃいな、これでたりるでつか?」


 もちろんすでに周囲が騒動になりつつも、お姉さんはにっこりと笑い。


「ごめんね、五百円じゃ足りないの――でも」


 足りないと聞くと見て分かるほどのしょんぼりとした空気がパルルから発せられる。思わず財布の中身を全て投げ出したい衝動が周囲の人に襲い掛かる。


「――お姉さんが買ってあげるわね? いつもパルルちゃんは頑張っていい子にしているでしょう? 応援してるわね」


 そういわれるとニパアアアアッと満面の花がパルルに咲き誇り、実際ヒマワリが周囲に出現している。ぴょんぴょん飛び跳ねるパルルは『ありがとうでしゅッ! いい子にしてて良かったでつ!』と凄く喜んでいた。


 受け取ったジェラートは有名な特産イチゴを大量に使った『博多産甘いぞうイチゴをたっぷり使った特濃ミルクジェラート』と書かれている。

 おねえさんがパルルに食べている所をスマホで撮影して飾っていいかと聞くと、うにゅうにゅと返事をし、一緒に撮影会が始まる。

 

 店内にいたお客さんも便乗して撮影を申し出るが、すこぶるご機嫌なパルルはあっさりと許可をだす。

 これは食べてはどうか? おみやげを買ってあげるよ? と、ジェラード店の特製クッキーももらってしまった。

 SNSで異常な速度でパルルツーショットが広まりトレンドに上がってしまう。幼女は自覚していないがある意味世界的なインフルエンサーとなってしまっている。


 後日美味しそうにジェラートを頬張るパルルをポスターや広告動画として宣伝されるとお客さんが連日長蛇の列をなす超人気店となってしまう。


 どこの事務所にも所属しておらず出演料もかからないために本人の許可をとった店員さんは昇進し給料も倍増したとか。本人はそんなつもりはなかったのだがジェラード店のオーナーはしたたかだったようだ。

 だが後日再び訪れた時はパルルちゃんには『友達を連れて来ても永久ジェラート無料券』が進呈された。もちろん最高の笑顔で受け取りハムハムと食べている姿を撮影され、つぎなるCMに起用されることとなった、なんとも安上がりな幼女である。


 パルルがジェラートを食べ終わりふと周りを見ると大量の人、人、人。


 思わずびっくりするもそこは慣れたもの、笑顔で手を振り魔法幼女アピールをするとついでとばかりに緑色の光をバラまく。


「甘くて美味しい幸せのおすしょわけ? でつ! いたいいたいのとんでいけぇ~」


 周囲にいる何百人もの人々に光が染み渡り、なんだなんだと騒がしくなるも。


「おおッ、腰痛持ちだったんだが全然痛くないッ」「腕のやけどの跡が治ったわ……凄い……」「喘息が治ってるぞ!」「片頭痛がしないだと……」「俺ガンだったんだけどもしかしたら治ってんじゃねえか? 検査に行こう」


 奇跡の大バーゲンである。するとそこへ情報を聞きつけた警察が駆け付けるとパルルに任意同行を求めて来る。指名手配犯ならば即逮捕なのであるが穏便に事を運びたいのだろう。実際風当たりはきつい筈だ。


 もちろん奇跡を体現した人々がそれを許すはずもなく、大ブーイングが巻き起こる。中には殴りかかろうとしている人もいるようだ。まさに一触即発の事態で暴動すら発生し始めている。


――パアアアアンッ!


 周囲の人が驚くほどの拍手をパルルが鳴らすと、先程まで憤っていた気持ちがスッとなくなっていき穏やかな気持ちになっている。ちっこい体が宙に浮かぶと困った顔で注意を促していた。


「みんななかよくでつよ? おまわりさんごめんなしゃい、パルルはいけないでしゅ。おまわりさんにもわるものがいるみたいでつ。――いつかやっつけにいくでしゅよ?」


 まるで犯行予告のようにそう宣言すると追加で今ここにいる警官に語り掛ける。


「でも、そのおまわりさんはとってもいい人でつ。いつもいつも娘しゃんを大事にして、良い子の心で一杯でつ。今日はかえりましゅけど応援してましゅよ?」


 ニコリと慈愛の笑みを浮かべながら緑の燐光を残し上空へ登っていく魔法幼女。


 捕まえる事が出来なかったが、警官の心の内にはなぜか見透かされ褒められた事により涙が溢れて止まらなかった。

 周りの人間もこいつは良い奴だ、となぜか認識でき、拍手をもって讃えられる。耳まで真っ赤にして照れる警官であったが敬礼をもって返礼し、立ち去っていく。


 もちろん後日上司に怒られてしまうのだが自宅に帰り、たっぷりと娘に魔法幼女に褒められたと自慢をし、羨ましがられる娘に『お父さんきらい』と、とどめを刺されたそうな。

 




ほわんほわんほわんほわわわーん





 マイコのお家に遊びに行きお土産をプレゼントすると、一緒に行きたかったな、と言うとともに、一緒じゃバレちゃうからね、と舌を出しながらおどけて見せるマイコ。


 二人で仲良くポリポリと絶妙な甘さのクッキーを頬張る。

 果肉が練り込まれており、上品な味わいがする。もちろん子供舌なので適当な感想なのだが。


 すると急に家のインターホンがピンポンとなる、誰だろうとマイコがモニターを確認するも目に隈ができているボサボサ髪のおっさんしか映っていない。


 ひまりちゃんコレ大丈夫かなと確認するマイコだがひまりはどこかを見つめると玄関に向かいカギを開けてしまう。


「ひまりちゃんッ! そのおじさん大丈夫なのッ!?」


 おじさんにこっちへこいこいと、ちっさい手を猫の手にして出迎えると『失礼いたします』と意外と礼儀正しく入室してくる。


 とにかく大丈夫なのだろうと確認するとマイコの部屋に招き、取り敢えず座布団を進呈するマイコ。


 ひまりは引き続きクッキーを口の中一杯に頬張ることに集中している。


「初めまして。二階にかいハカセと申します。ここは二階ですね? などとは言いませんが――エホン、失礼」


 クッソつまらねえと殺意を向けるマイコにたじたじになるも本題を促されるハカセ。


「実は私、見えざる御方により使命を預かっております。魔法幼女であるひまり様を支援せよ、と。――つきましてはこのデバイスを進呈させていただきます」


 頑丈なアタッシュケースを開くを金属質でカードのようなスリムなデバイスを二人に渡される。


 指で触れると光が灯り、空間にホログラムが投影される。


 つらつらとデバイスでできる事、使用方法、などをハカセが説明をしてくる。相当苦労したのは伝わって来るが要約すると。


「映像通信ができ、特定されない特殊なスマホカードねえ」


「ええ、身内で通信しても傍受されませんし悪者の情報も顔写真付きで表示できます。現在地も目的地もナビゲートできますし。施錠されている電子錠でしたら近づければロックも解除できます――私が行うのですがね」


 実際にひまりとマイコが使用してキャッキャウフフと楽しんでいるようだ。


「これはトメコおばーしゃんやおやびんにもあげていいんでしゅか?」


「ええ、秘密が守れてひまり様のお友達や仲間でしたら用意させていただきますよ? ――それとぷいぷい団でしたか? 公式に認めていただきたいと思いますがいかがでしょう? 私は幹部として運営させて頂きます」


「いいでしゅよ? 仲間は一杯いいるとたのしいでつ。――みんななかよくでしゅよ?」


「ええ、もちろん。ページにする画像や動画をマイコ様と一緒に撮影しても良いですか? ババンとトップページにパルル様の状態で表示させて頂きます――幹部候補には運転士△氏やトッツキング氏もいますよ?」


「うわぁ、あの人達かぁマイコも聞いたことあるよー非公式パルルファンクラブもあるみたいだよ? ひまりちゃん」


「随時便利アイテムを開発させて頂きますし情報を提供いたします。どうなされるかはひまり様が決めて頂ければと――正義を成す、悪を裁く、マイコ様や仲間の方々と相談し、お決めになさってください。決して強制は致しません、あなたが健やかにのびのびとなさればいいのですよ――そう私は使命を受けました」


 難しい言葉がならんでひまりは、うにゅんうにゅん頭をひねっていたが何とか理解したようだ。さすが脳内スペックが高いだけはある。


「わかりましゅた。ハカセしゃんありがとうでつ。これからは仲間でつね」


 ニパッと笑顔をひまりが向けるとおじさんハートはガトリングで撃たれたように粉砕してしまう。

 ウググと邪悪なハートが浄化されると澄んだ心で決意を新たにする。


「どうか万事お任せを、なにか困ったこと分からないことがありましたら気軽に連絡をください。――もちろんマイコ様もですよ?」


 頼りなさそうな隈のできたおじさん――ハカセだが言葉に嘘は含まれていないようだ。

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