第15話魔法幼女には使い魔が必要でつ?

 暗い部屋の内部には複数のモニターと家庭では見かけられない巨大なサーバーがいくつも部屋に並べられている。


 画面に表示された巨大ネット掲示板、今日も今日とて情報のリークを行っている。

 部屋の内装は天井や壁などに魔法幼女パルルの画像を編集した自作のポスターが貼られている。他人から見れば重度のロリコンの疑いがかかってしまうだろう。


 秘密裏に結成された魔法幼女同盟の雄姿達と情報交換を行っている。


 運転士△氏、公■さん氏、トッツキング氏、他にも超常対策室にも同士がいる。


 魔法幼女パルルの支援ができればいいのだが、連絡手段が確立されていない。

 秘密裏に交友関係の疑いがある北コー女子の学生を盗聴、監視していた不届きものもいたようだが呪いを掛けられている。

 解除不能のクッキーの呪いなど愚か者にはお似合いだ。


 嫌がらせに高級菓子店のクッキーを送り付けてやろうと思う。


 かつて子供の頃イメージした、魔法少女を助ける存在、組織にあこがれたものだ。

 正義の味方を気取ってハッカーなんぞしているが正義という名の自己満足を得ていたのかもしれない。

 そこで現れたのが魔法幼女という存在だ、まさに天啓をえたと言っても過言ではないだろう。

 

「どうか神よ、魔法幼女を応援させてくれ。全身全霊を持って報いると誓う……どうか正義を成させてくれ――」


 首筋にひやりと冷たい何かが触れたようだが気のせいだろうか? 彼女が使用できるよう可愛い高性能デバイスを今日も製作する。サポーターとして活躍する日々を妄想しながら今日も作業に励む。





ほわんほわんほわんほわわわーん





 今日ひまりのお家にお邪魔させてもらっている。おねえしゃんと呼ばれるようになって初めての訪問だ。

 見た目はピカピカしているが服が散乱したり、皿もそのままで荒れ果てている。

 ひまりちゃん、片づけはみためだけじゃ駄目なのよ?


「もー、ひまりちゃん。ちゃんとお片付けしなきゃダメでしょ? おねーちゃんが手伝ってあげるから一緒に頑張りましょうね?」


「わかったでつ。おやびんが綺麗綺麗にしましょうねっていわれたんでしゅけど、うまくできないでつ……」


「お皿の洗い方に、服の畳み方、お風呂掃除、色々教えてあげるね?」


 それからホコリ被っていた部屋、きっと家族の部屋なのだろう。綺麗に布団を干したり。皿を片付けたりをする。やっぱり知らなかったようで基本的な生活する為のやり方をゆっくり丁寧に教えて行く。


 最近ひまりちゃんはぷいぷい団というものを勝手に作っており、わたしもその団員だ。


 魔法で埃や汚れを落とす前は相当悲惨な状況だったことが容易に想像できる。お湯の出し方も知らなかったので水を浴びていたのだろう……。


 見えない何かがいるのは分かっているが、基本的に食事しか介入していないので。もっと何とかならなかったのかと思う。

 

「わたしが付いててあげないと……」


 わたしの家族にも紹介しており、複雑な状況、環境、何かの意思のようなものが強制していることも説明している。

 

 ひまりちゃんに連れてこられなければ、ここの家も存在していた事さえ認識できなくなっている。先程家から離れれば居場所が分からなくなったのだ。

 ひまりちゃんがわたしを認知していれば彼女を忘れない……とは思いたい。


 幼いながらも魔法幼女の活動を一生懸命している彼女を支えてあげようと思う。


「ほら、お風呂ではこうして体を優しくゴシゴシするんだよー、ほら、逃げないの――最近髪の毛の手入れちゃんとしているのね?」


「トメコおばあしゃんに教えてもらったでつ、算数ドリルも全部終わったんでつよ?」


「最近お気に入りの着物をくれたおばあさんね。ちゃんとお礼を言わなきゃだめよ?」


「うにゅにゅにゅ、くすぐったいでしゅ。お家をキレイキレイにしてトメコおばあしゃんもピンピンにしたでつよ?」


「ピンピンって……元気になり過ぎるんじゃないかしら……。でもひまりちゃんは良い子ですね。お勉強にお掃除に、身だしなみもきちんとできるようになって」


「そうでつッ! 仲間も増えましゅた。頑張っていればおかあしゃんもおとうしゃんも帰ってきましゅッ! ――早くいい子にならないと……」


 そういうとひまりちゃんは顔を風呂の暖かい水面に口元を沈めブクブクと遊び始める。――家族が帰ってくる――そのことに関しては私は触れられなかった。なにか言っちゃいけない圧力のようなものを見えない何かから感じるからだ。まるで失望させるなと言わんばかりに神威を感じた。


 そう、なぜかわからない。神とハッキリ認識できたのだ。ひまりちゃんには神降ろしが行われていると。色々な情報をネットの海で調べたり図書館で神に関する事柄を調べると、もともとこの地方には神降ろしの儀式が頻繁に行われていたと文献が残っている。


 歴史資料館などを訪れた時に神の詳細が掲示板に書かれていた。


――死と黄泉を司る神、国産み、神産みとも呼ばれ、誘う女性神。


 ひまりちゃんの言う見えない手とやらはこれに関係しているのだろうか。

 なにが目的で魔法幼女として活動させているのかは分からない……

 浴槽の中でふにゃりと身体を預けて来る可愛い妹分を抱き締める。


 ふと天井を眺めると、こちらを睨みつけられている感じがした。

 余計なことを今は考えないようにしよう――誰にも神に抗えないのだから。





 お風呂から上がるとちいさい体を丁寧にタオルで拭き取り、髪の毛をゆっくりドライヤーで乾かす。

 ひまりちゃんがドライヤに向けて口を開け『あ゛ー』ってやってるけどわたしも子供の頃よくやったなと思い出す。


 二人で子供部屋に向かいひまりちゃんのベットに狭いながらもくっついて一緒に寝る準備をする。


「ねえひまりちゃん、寂しくなったらすぐにウチに来なさい、おねえちゃんとの約束よ? 絶対一人にはしないからね」


「わかったでつ。えへへ、ひまりには家族が増えたんでしゅね。――ひまりは、もう、ねむねむでしゅよ…………えへへ…………」


 会話をしながらひまりちゃんの瞼がゆっくりと落ちて行くと、いつの間にか寝てしまっていた。ふわふわになった綺麗な黒髪をゆっくりと撫でると寝言を言いながら抱き着いてくる。


 ひまりちゃんと連絡が取れる手段を作らなきゃいけないわね。でも監視されていると分かっているからにはスマホも安全じゃない気がする。

 こういう時は大人の人に頑張って欲しいんだけどね。

 どこかに味方がいないかなって本当におもっちゃうな。

 

 ねえ、見えない神様。どうにかして欲しいなぁ……なんて……――おやすみひまり。





Now Loading............





 場面は再び、暗いモニターが沢山並べられた室内、自称謎のマジカルハッカーの部屋に移る。

 彼が使用しているパソコン画面が突如暗転しフリーズする。


 画面に砂嵐が走ると一文字ずつ何か記号のようなものが表示されていく。


「なんだッ! 急にフリーズしやがったッ! サイバー攻撃か? いくつもの防壁を用意していたはずだぞッ! ――なんだこれは…………古代の文字に何かあったような……えっと、せ、せ、正義? を成せ……わがこ、我が子か。『正義を成せ我が子を支えよ』だな」


 画面上には古代の神代文字が表示され、そう書かれている。

 現代に語音に無理やり当てはめているだけのようだ、どうか現代文字を勉強してはくれないかと内心想像する。――冷たいッ。え、なにッ?


 すると神代文字がひらがなに変換され分かり易くなる。――なんかすみません。


 ながながと子煩悩な内容がつらつらと書かれているが、要は我が子である魔法幼女をサポートしろ、連絡手段がない、わるものの情報を調べ提供せよ、か。


 そして。


「これは、ここに行けということか? ああ、もちろんいいませんとも。神との契約承りました――ぐぅッ頭……がッ…………これ……は」


 頭が割れるように痛くなり、熱を帯びて行く、何か得体のしれないものが入り込み作り変えられていくような……。


 しばらく悶え苦しんでるとある閾値を超えると、スッと脳内の領域が広がり、あらゆる電子機器に思念で介入できるようになったのが分かる。そう、理解してしまうのだ。

 思考速度が上がり、様々な情報が精査できる、これならとんでもないものを開発をできそうだ。

 世界の解明できない謎の式すらスラスラ解けていしまう、重力子の理論や、量子理論さえも……おっといけない。使命を忘れてはならない。


「神様、いえ、女神様。使命を承りました。全身全霊を持ってサポートさせて頂きますッ!」


 これで我が未来は開けた。待っていてくれ魔法幼女よ。

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