第13話危険が危ないでつ
「ムーッムウムウムム(ひまり、何言ってるのッ! 早く逃げてッ!)」
伝わっているのか分からないがひまりは人差し指を立てチッチッチッとドヤ顔をしながらハードボイルドに指を振る。
「ムムムムーウムウム(あんたドラマの身過ぎよ!)」
「変☆身ッ!」
可愛いく手を天に掲げるとひまりが緑色の光に包まれ、ボサボサの髪の色がサラリとした金髪に変わり、目の色が碧眼になる。
草臥れたワンピースがヒラヒラのゴシック調のドレスへと早変わり、可愛い羽根の付いたブーツが素足に出現する――なにそれ可愛い、わたしも欲しいわ。
胸の前でひまりがペチンとお手々を合わせると身の丈ほどのハンマーが出現する。――ああ、畳が凹んでるわ。やめてッ!
「魔法幼女パルルさんじょうでつ! キラキラ! ピカピカ! シャララララン! わるものをやっつけるでしゅ!」
――そんな……ひまりがパルルだったなんて……カッコいいじゃない。
そんな事を考えている間にひまり、いやパルルが姿を消す。
「えっ?」
ボパンッという破砕音が響き渡り、周囲を確認するとわたしを押さえつけていたおじさんがドアを突き破り、二階にある手すりごと地面に落ちていた。
次の獲物をよこせとパルルが獰猛に笑みを浮かべると、目が合った通路に待機しているおじさん二号の顎をハンマーでカチ上げる。
おじさん二号の腹部にピタリと添えられたブーツを横に寝かし、反対の足で地面を踏みしめ、ギュリリと煙が上がるほどの回転を加えると――
――空間が破裂するほどの衝撃を超至近距離から胴体に叩き込んだ。
「あれは
余すことなく衝撃がおじさん二号の内部をかき回し、血液をゴボリと吐き出し沈む。共用部の通路が血液で満ち溢れた。
敵わないと思ったのか慌てて階段を駆け下りるおじさん三号、逃がすまいと肩にパルルが飛び乗ると、小さい両手の親指をこめかみにパスリと突き刺す。
おじさん三号は白目を剥きながら倒れ、口から泡を噴き出す。
「――
キュルルルル、という音が道路から聞こえてくると二階の手摺から確認する。車で待機していたおじさん四号が逃走を図るもパルルがバンパーから車体を持ち上げタイヤが空転している。
ハンドルを握りしめ涙目でおじさんは助けてくれと懇願している。
「や、やめてくれ、俺が悪かったッ! 謝るからッ!」
「嘘でつね。パルルはわかるでつ、反省もしてないでしゅね――女の人が怖くなるお呪いをあげましゅ」
ちちんぷいぷいとパルルが唱えるとすべてのおじさんにどろどろした黒い何かが降り注ぐ。意識のある車のおじさんがパルルを見て痙攣を起こして倒れた。
「これでおんなのひとみんなにわるいことができなくなるでつ。――今日も良い事しましゅた」
ふうやれやれ、とかいてもいない汗をぬぐう振りをするとこちらに目を向けちっさい指でピースサインをする。
「ねえひまり、いや、今はパルルか。これどうすんの?」
キョトンとした可愛い顔で誤魔化してもダメッ!
破壊されたドア、崩れ落ちた階段、血液で溢れた通路。
「ねえパルル、お片付けを教えてあげるね? きっと今までもほったらかしにいてたんでしょう? いい子はお片付けできるものよッ!」
「そうでしゅか!? パルルお片付け頑張るでつ!」
その後、魔法とやらでおじさん達の記憶をわたし達家族に会った記憶を含めて消し去ってしまった。おかげで借金がなくなったんだけどね。
ボロボロのアパートもなぜがピカピカになってしまって、誤魔化す魔法もかけてもらったかな……家賃安いから住んでるのに賃上げされたらたまったものではない。
それと何でひまりのワンピースや靴のボロボロも直さないのって言ったら、それは盲点だッ、みたいな顔をされちゃって新品同様のワンピースに綺麗な切りそろえられた黒髪になっていた。
わたしもピカピカのお洋服になっちゃたけどそれぐらいいいよね?
ひまりはお片付けマスターともいえるくらいお掃除魔法にはまってしまったみたいで、この地区一帯の家がピカピカになる事件も起こしたんだけど。
それだとここにパルルいるってバレない? っていったら隠蔽かけてるから大丈夫だって。
「ひまり、ちゃんとお家も掃除してる? お掃除魔法をこまめにかけなさいよ?」
「してないでつ。おかーしゃんが掃除してたんでしゅよ……キレイキレイしたらおかーしゃん喜んでくれるでつか?」
「そりゃ喜ぶわ。ひまりがキレイキレイしてると健康だし、いつでも帰ってこれるでしょう?」
「わかったでつ、おうちにかえったらお掃除するでつ」
わたしのお母さん早く帰ってこないかな。
そのあと綺麗になったお家に見えないさんがテーブルに料理を用意されたり、空を飛んだりしているうちに寝ちゃってた。
ドアが開く物音に気が付くとお母さんが帰って来ていた。
ひまりを抱きかかえてお布団に包まっていたみたい。
遅れてごめんさいと言ってくるお母さんに寝ているひまりの事、今日の出来事を事細かに説明したんだ。
家が綺麗になってたり、パルルの正体にびっくりはしていたけど、優しくパルルの頭を撫でると涙を流していた。
「そんな事があったのね……家に居なくてごめんなさい、怖かったでしょう?」
そういわれ抱き締められるとワンワンと泣いてしまった。溢れ出る涙は止められず、次から次へと流れ出て来る。
「お父さんが……ね。きっとメイコのこと心配していたのね。フフフ」
お父さんの事も話したんだけれど何か感じるものがあったみたい。
「メイコ、ひまりちゃんと仲良くするのよ? 魔法幼女の事は誰にも言ってはいけないわ。この子は何かを抱えているのでしょう、せめて帰って来られる居場所になってあげなさい」
「うん……大事な子分だもん――大切にするわ」
そう、わたしはひまりの親分だ、子分の面倒は見てあげなきゃね。
「それにしても借金がなくなってラッキーだわ、わたしもわるものになってしまうわね――ウフフッ」
たしかに法外な借金を吹っ掛けられていたけれど、お母さんが言うにはがんきん? は返せていたし儲けものと思わなきゃね。
「メイコ、今日は三人で一緒に寝ましょう。家族がひとり増えたみたいで楽しいわね」
それから寝ぼけ眼のひまりを起こして三人でお風呂にはいったんだ、ひまりは髪の毛が長いから洗うのが大変だったけど頑張った。
お母さんが買って来た貴重なケーキを三人で切り分けてわいわい食べ終わると、おネムになったひまりを挟んで慎ましく布団で寝る。
ほっぺをつつくとうにゃうにゃ言ってて可愛いかったわ。
ほわんほわんほわんほわわわーん
朝日がで目が覚めると布団なかには私しかいなかった。慌てて飛び起きるとお母さんが仕事に行く準備をしていた。
「あらメイコおはよう、ひまりちゃんなら帰ったわよ? なんでも行かなきゃいけないところがあるんだって。――わるものをやっつけにいったのかもね」
暖かい感触が腕の中にほんわりと残っている、シュンとしているとお母さんが抱き締めて来る。
「メイコ、夜のお仕事を辞めるから今度からは早く帰って来られるからね? これもひまりちゃんのおかげよ」
そういうと泣きながらあやまってくるお母さん。
「これからはずっと一緒よ、寂しい思いはさせないわ。それとひまりちゃんの連絡先を知らないけれど――たまに遊びに来てもいいでしゅか? ――だって。もちろんいつでも来てねって言っておいたから」
「ありがとうお母さん。子分の面倒を見てあげるわッ! あ、それとひまりはクッキーが好きなんだって。買い置きしておかなきゃ」
「あら、そうね。美味しいものを用意しておきましょう」
ウフフ、アハハ、と新品になったアパートの一室から楽し気な声が聞こえて来る。
ドアの外にはそれをじっと嬉しそうに見つめる半透明の大柄な男の姿があった。
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