お友達はたいせつでつ

第12話夜の公園はこわいこわいでつ

 時間は黄昏時、近場の子供たちが集める人気スポットである公園もこの時間帯になると人気が急になくなっていく。


 公園のブランコでひとりボッチで寂しそうに遊んでいる女の子がいた。

 誰も迎えに来ないのかやがて公園が暗闇に包まれるも少女は帰らない。

 

 服装は擦り切れ色褪せたプリントTシャツにジャージ、サイズの合わないサンダルをはいている、今時の子供はこのような格好をしていない。


「おかーさん、早く帰ってこないかな……。お家に帰っても怖い人たちがやって来るしな……」


 母親が迎えに来て抱っこされながら帰って行く、公園に残っていた最後の子供の後姿を見つめ続ける。

 砂場に残された小さなスコップがカタリと悲し気に倒れる。

 

 やがて公園に響く物音は少女の乗ったブランコの錆び付いた音だけだ。




――キィキィ……キィキィ……ギッ

 



――キィキィ……キィキィ……ギッ




――キィキィ……キィキィ……ギッ




「なにしてるんでしゅか?」


「キャアアアアアアアアアアアアァッ!」


 急に声をかかけられた少女は、ブランコから飛びだして地面にゴロゴロと転がっていく。


 声を掛けてきたは真っ黒な髪の毛を腰まで伸ばしている。色褪せたワンピースに踵の潰れた靴を履いている。


 よく見れば自身より頭二つ分ほど背の低い幼女であった。


 お化けと間違えて叫んで転びもしたが段々と恥ずかしくなってくる少女。

 なぁんだ私の年下ね……と変なプライドが頬を赤くさせる。


「びっくりしたじゃないッ! お化けが怖くて叫んだんじゃないんだからね!」

 

「そうでつか? お化けしゃんはいないみたいでしゅね。――あ」


 見慣れぬ幼女はそういうとキョロキョロと周りを確認しある一点を向くと視線を止める。


「ま、ままままままさか、い、いないわよね……いないって言ってよおおッ!」


「おっきい男の人が手を振ってるでしゅよ? おとーしゃんでつか?」


 少女が振り返るもそこには誰もいない、幼女は小さな指でその方向を刺しているが確認するも見えていない。


「なによッ! いないじゃないのッ! 嘘つくなんて悪い子ねッ!」


「!! ひまりは嘘ついてないでつ……悪い子じゃ……悪い子じゃないでしゅ……たしかにメイコちゃん帰っておいでっていってるでつ――あ、どこかに消えましゅた……」


 幼女の言っている名前は確かに少女の名前――メイコであった。





あなたは見えただろうか……REPLAY





 幼女の言っていることに心当たりがあったのだろうか、幼女とメイコは二人でシーソーを漕ぎ始め会話を始める。

 先程の男性の特徴や服装などを舌ったらずの口調で幼女がゆっくりと語って来る。

 考え込むメイコは嬉しさ半分悲しさ半分だ。

 彼女の父親は去年の今頃会社が倒産して失踪しているのだ、家に残ったものはおかーさんと莫大な借金のみ。

 しばらくすると借金取りがちょくちょく家にやってきており。夜遅くになるまでお家に帰ることができない。

 昼も夜も母親は働いておりいつも独りぼっちだ。

 新しいお洋服もおもちゃも買って何てもらえない。

 

 古臭い擦り切れたお洋服で小学校にいっていると友達に馬鹿にされ、すでに仲のいい子などいなくなっている。


 最近の楽しみはお店で無料で提供されるWIFIの電波を、繋がっていないスマホで動画を視聴したり掲示板に書き込んだりしている。


 特に大好きなのが魔法幼女パルルちゃんだ。


 彼女を見ているだけで楽しくなったり勇気をもらえる、この前の電車の事件だってすっごくカッコよかった。あこがれた。


 わたしは目をキラキラさせながら長々としらない幼女に話してしまっている。


 なんだかわからないけどこの子話やすいんだよなぁ。


「でしゅか……おとーしゃんいなくなっちゃったのはかなしいでしゅね……ひまりもおかーしゃんとおとーしゃんいなくなったでしゅ……」


「そっか、あんたわたしと同じね。特別に仲間にしてやってもいいわよ?」


「ふおおッ! 仲間っていいひびきでしゅねッ! へい、おやびんッ! 今日のごはんわ、何にしやしゅ?」


「……あんたそれどこのチンピラよ。まあいいわ、あなたはわたしの子分いちごうさんね。よろしくねひまり」


「おやびんしゃんもよろしくでつ」


「おやびんって……まあいいわ、お父さんもお母さんもいないんでしょ? あんたこれからうちに来るのよ!」


 自分でも寂しかったのだろう、誰もいない家に帰るには暗かったし、さっきのお父さんに似た存在も気になった。痛く無いようにちいさな幼女の手を引っ張りながら古いアパートに帰宅する。





 薄暗い夜道をひまりとメイコはお手々を繋いで歩いていく、いつもは心細いこの道のりも二人ならへっちゃらだ。

 比較的公園に近い薄汚れた我が家が見えて来る。ボロボロに老朽化し、錆び付いた階段をギシギシと音を立てながら頑張って上ると、怖い人に叩かれて至る所がへこんでいる木製のドアにカギを差し込む。


「ここがおやびんのおうちでつか?」


「そうよ、ほら、早く上がりなさい」

 

 建付けの悪いドアを勢いよく開けると、拾ってきたテーブルと冷蔵庫がポツンと置かれた部屋が丸見えだ。


 いじめられてボロボロにされたランドセルと、宿題のドリルがテーブルに放置されている。――まだ宿題やってないわ……。


 ひまりはちょこんと畳の上にすわるとじぃーっとメイコを見ている。目線があうとニパッと笑顔で返事をしてくれる。


 冷蔵庫を開き作り置きしておいた麦茶をひまりに出すと、学校の教科書を見せる。


「あんたまだ小学生じゃないの? わたしみたいな高学年はこんなことまで習っているのよ」


「ほえぇ~。ひまりは小学校いってないでつよ? 幼稚園を卒業……したとおもいましゅけど……」


「……わたしよりひどいじゃない。良く分かんないけど誰があなたの面倒を見ているのよ? 親戚? おじいさん?」


「……なんか見えない人がご飯をつくってくれるでつ。――今日はお散歩してきなしゃいって言われたから」


「見えないってあんた、それ人なの? 良く分かんないわね。――わたしのお父さんは今いるの? 見えない物が見えるなら教えて欲しいんだけど」


 急になにか深く探ってはいけない気になって話をお父さんに切り替える。


「うーにゅ、うーにゅ。今はいないでつよ? メイコしゃんに似た反応の所にいるみたいでしゅ」


 ふわりとひまりの髪の毛が逆立つと、何かを探知しているように見える。


「それってお母さんかしら? 日付が変わる頃にしか帰ってこないんだけど――そうだ、今日は止まっていきなさい。見えない人に連絡できるの?」


 きょとんとした表情をひまりがするとちっちゃいお手々をフリフリ横に仰ぎだす。ニパッと笑顔になりメイコに言ってくる。


「今ここにいるでしゅよ?」


 今日一番の悲鳴をメイコが上げたのは仕方のない事だろう。





あなたは見えただろうか……REPLAY





 小さい幼女と一緒にお絵描きをしているとわたしに妹ができたみたいな気持ちになっちゃう。

 嬉しそうにお母さんとお父さんの絵を描いているひまりはとっても可愛い。

 でもなんで腕だけの人も加わってるんだろう、これが見えない人か。


 それと姉はいないそうだが、最近おねーしゃんとやらが増えたそうだ。

 年齢は高校生で、優しくしてくれる、と。わたしだってお姉ちゃんなんだからねッ!

 なんだか嫉妬しちゃう。自由帳にクレヨンでグリグリ一緒に落書きしていると部屋のドアがコンコンをノックされる。


――あれお母さん鍵を忘れちゃったのかな?


 キシキシと音を鳴らしながら畳を歩いて玄関に向かう。確認もせずにドアを勢いよく開けると――怖い顔をしたおじさんが立っていた。


 余りの出来事に固まっているとこわいおじさんが話しかけてきた。


「おや、お母さんはいないようだね……お金を返してもらいに来たんだけど――高く売れそうだね君」


 にちゃりと、気持ち悪い笑顔を浮かべながらそんなことを言って来た。ブルブル体を震わせ声が出せずにいると。


「そっちの子もなかなか売れ筋だな。よし連れていけ」


 どこかに隠れていたのか他にもおじさんが一杯いた。――ひまりを逃がさないとッ。

 そう思うと、声が出せるようになり精一杯の大きな声でひまりに向かって叫ぶ。


「ひまりッ! 逃げてッ! こいつら悪者よッ!! ――キャッ」


 怖いおじさんに口元を抑えられ羽交い絞めにされる。


――こわいこわいこわいこわい

――なんとかして逃げないとッひまり急いで逃げて……ッ!

 

 ひまりはこちらを見つめんながら不思議そうな顔をしている、頭の中で何を考えているのだろうか。怖くて逃げれないのだろうか。


 ホケーッとした顔が笑顔に変わる際ひまりはでこう言ったのだ――


「わるものでしゅか? じゃあひまりがやっつけるでつ」


――と。

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