第9話うにゅ、女神しゃま?

「状況確認を急げ! 爆発の被害が出ているはずだッ! なに? 魔法幼女を捕まえろだと!? この状況でよくそんなことが言えるなッ! 入間ぁッ!」


 現場の責任者である武侠の怒鳴り声が会議室に響き渡る、警視庁にある超常対策本部でふんぞり返ったいた入間が横やりを入れて来た。爆発に巻き込まれた弱った魔法幼女なら捕まえられるでしょうと通信で言って来たのだ。


「武侠さん、俺、あいつのこと殴り足りなかったかもしれません。――とにかく確認を急ぎます。そろそろヘリも接近できるようですし現場にも捜査官とレスキューが向かっています」


 無線の通信が現在飛び交っている、混乱する現場は避難誘導すらままならない。

 

 しばらくすると犯行声明を出したであろう、犯人グループからの生中継が開始されたと報告が入る。――こんな時にふざけやがって。


 画面い移る男の装備は黒一色でガスマスクを被り表情が分からない、かろうじて体格から男なのが伺える。


『残念、魔女の試練には打ち勝てなかったですね……ああ、なんと哀れな勇敢なる子羊たちよ……』


 芝居かぶれの大げさな動作と共に泣きまねをしている、どこまでも舐めた態度の人物だ。


 中継を見ている最中にテレビ中継ヘリが爆発現場に近づき電車の様子が映し出される。


 先頭車両は見るも無残に破壊されていた。

 二両目の車両は中ほどまでぐちゃぐちゃに潰れ、ひっくり返っている。


 されど砂煙が完全に晴れた後には健在である魔法幼女と、内部にいた乗客全員の無事が確認できた。緑色の光に包まれ空中に浮いている。


 運転士である、田中ヒトシは幼女にお姫様抱っこされておりとても恥ずかしそうだ。

 拍手喝采で大声を上げたいところだが、爆発の影響の確認をしなければいけない。


 乗客全てを地面へと降ろされるとお互い抱き合って喜びすぐさま爆心地から避難を開始する。

 犯人は生中継されていながらも不快な感情を隠しもせずにこちらへ伝わってくる。


『――どうやら運が良かったですね。ですが神はあなたを認めませんよ『おい、何してんだッ! 任務にはなかっただろッ――』うるさいぞ。無能どもめ』


 犯人からの生中継に誰かが割込み、パンッと乾いた音の銃声が数発聞こえて来る。恐らく仲間の誰かなのだろう。任務という内容から、何かしらの陰謀が感じ取られる。


 しばらくして銃声と怒声が鳴りやむと犯行声明を出したリーダーと思しき人物が再び姿を現す。


『――ふう、すみませんね。これで魔法幼女というバケモノの存在が明らかになったでしょう? 爆発しても撃たれても死なない――果たしてそれは人間でしょうか? 我々も彼女、いやバケモノがいなければこんな事しませんでしたとも、ええ、ええ』


 まるですべての元凶が魔法幼女にあったとばかりに責任転換を始める、多くの人間がそんなことはない……と思うかもしれないが被害にあった人間はそうじゃない人物もいる。


『日本のポリスメン警察も指名手配されてるではないですか? ほら今ですよ? 捕まえて実験動物にでもしましょう? 世界に貢献するのですよ――ほら、ほら、ほらほらほらほら、早く捕まえろよッ! 虫唾が走るんだよッ! 何が魔法だッ! 神は認めないッ! 絶対にだッ! 奇跡を起こすの神だけで十分だ……』


 急にトチ来る多様に頭を掻きむしりブツブツと独り言を呟き出す犯人、正気じゃない。


『はっ、ははははッ! ははははははははッ! ざぁーんねん、むねぇーん! 誰もかれも魔法魔法魔法魔法ッ! 後悔しやがれッ! 魔法幼女のせいで死んでいく人間どもよッ!』


 犯人が手の中にある何かしらの装置のボタンを押す。あれは恐らく――




――轟音。




 東都駅に設置された会議室内の電気がフッと消え落ちると同時に瓦礫が降り注いできた。





でろでろでろでろでろでろでろでろでんどろでん





 魔法幼女パルルは爆発に巻き込まれた人がいないか確認の為に周辺を飛び回っていた、幸い魔法による感知では死んだ人間はおらずにはガラスの破片で怪我をしているだけのようだ。


「よかったでつ、いなくなったひとはいないでしゅね。おかーさんみたいにいなくなっちゃうと心がイタイイタイするでつ」


 良い子になるという目的の為に悲しい気持ちになる人間を少なくする。方法は雑だが純粋な幼女の心の内にあるものだ。


 ふわりふわりと浮かんでいる姿は人々に目撃されるもおおむね好意的な目線だ。


 そろそろかえりましゅか、と思っていた時轟音が聞こえて来る。魔法のセンサーを起動させると。複数の――助けて。が聞こえて来る。


「なんでしゅかね? 言われたとおりにがんばったんでつが……。とにかく行くしかないでつね」


 ばびゅんと高速移動を開始する。線路沿いに進んでいくと視線の先には砂埃が舞い上がっている。その地点は先程電車の救出方法を教えてもらった駅構内であった。

 立派な建造物である東京駅の一階部分が崩落しており、階数が一段減っている。


 沢山の巻き込まれた人がおり緊急を要する事態だ。

 すぐさま現場に着地すると瓦礫群を浮かせて移動させる。


 周辺にいたレスキュー隊や自衛官も救助に参加すると魔法幼女に浮かせてほしい瓦礫をテキパキと指示していく。空中に自らを浮かべながらもちっさい体で一生懸命救助活動を行っていく。


 探査魔法を使うと、でっかい赤の矢印マークが空中に表示され生存者の方向を指し示す。それをたよりに次々と救助されていく。


 その中には親子を突き落として事情聴取中のサラリーマンも含まれていた。意識を取り戻し魔法幼女をみつけるやいなや。


「貴様みたいなバケモノのせいで俺が巻き込まれたんだッ! 責任取りやがれッ!」


 激高したサラリーマンの男はそこらに落ちている瓦礫の破片を幼女にぶつけ始める。

 何度も何度も投げつける破片は空中にいる幼女の身体を揺らすもののケガをしない。


「ほら見ろ、あいつは怪我もしねえッ! みんなでバケモノを退治しようぜッ!」


 とうとう救助しながらも堪えていたパルルが泣き始めてしまう。地面に座り込みえぐえぐと大粒の涙を流す。周囲の人間は瓦礫を拾い上げ握りしめる。


「泣いたって責任をとれッ――ごふ! いでぇ! やめ、やめろッ! 俺じゃねえだろ! やめ――」


 周りの助けられた人間達はその握りしめた瓦礫をサラリーマンに投げつけ始めた。遠慮なく大きな石を拾い上げた青年が全力で投擲する。


 慌てて救助に参加していた警察官も幼女に破片を投げていた男に飛び蹴りをおこなう。倒された男に恨みを込めて過剰に腕を捻り上げると地面に顔面を叩き伏せこう宣言する。


「殺人未遂の現行犯で逮捕する。親子を突き落としておいてよくそんなことが言えるな? まともな取り調べが受けられると思うなよッ! クズがッ! 今もなお、救助を待ってる人がいるのに協力している魔法幼女にそんなことができるな。――おい、このクズを護送車にぶち込んでおけ!」


 近くの婦警さんに頭を撫でられて気を取り直した魔法幼女は涙目ながらも引き続き救助を開始する。


 その一時間後超常対策部や専門家など、比較的上の階層にいた人間が救出された。残念ながら被害者がゼロとはいかなかったのだ……。





でろでろでろでろでろでろでろでろでんどろでん





 仲間をも撃ったリーダーの男、ホセは焦っていた。予想以上にバケモノに対する悪意が少なかった。追い詰め苦しめ捕まえるか殺すつもりだったのだが。


 肉体的頑強さは今回の件で充分わかった、精神的に攻め確保しようかと方法を変えたのだがうまく行かなかった。


 いらだちが収まらずに爪をガリガリと噛んでしまう。仲間すら生贄に殺してしまった。もう組織には戻れないのに…………。


「ああ、神よ、これは試練なのですね……グベッ……息が……なぜ……わたしは……」


 見えざる何かがホセの首をしめている。冷たい、冷たい何かが掴みあげられている。 


 とうとう空中に浮かび上がるホセ、現在地はビルの屋上。

 ふわふわと浮かび向かう先にはビルの端、それを乗り越え足元には大きな道路が見えてくる。


「や、やめろ、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ」


 断末魔を上げながら落下していく様は多くの人間が目撃する。


 地面に落下しホセの眼前にアスファルトが見えた時、女神が裂けた口を目尻まで上げている姿を幻視した。最後に見舞えた人物が神なのは最大の皮肉だろう。


 あとに残るのはトマトように潰れた、人間の残滓だけであった。


――我が子を虐めたな……三千世界すべての地獄を味わうといい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る