第8話いたいのいたいの我慢でつ?

 魔法幼女来るってよ? そう聞いた運転士である田中ヒトシは気が抜けてしまう。

 いくつもの爆薬を指示を受けつつもすでに数個程、解除に成功し爆薬から信管を抜いている。ひとつまたひとつと解除できる度に歓声が上がったものだ。

 

 これで魔法幼女が来てくれれば光明が見えて来る。そう思うと眼に力強い光が灯る。


 田中ヒトシは頑張った、それはもう限界を超えてだ。『死ぬ気で乗客守ってやんぞッ!』と、啖呵をきったものの失敗したらどうしようと内心ガクブルだったに違いない。


 中継されている映像に向かい視聴者も希望が見えて来た、と。喝采を上げている。ニュースでコメンテーターも幼女速報という訳の分からないことを言っている。


 だが、忘れていないだろうか。悪意は微かな希望を見せたところにやって来ると。





▼△▼△▼△WARNING△▼△▼△▼





 電車が環状線をグルグルと回っている現状一周回るのに一時間とかからない、速度が上がってる現在はもう脱線まで計算するとタイムリミットは一気に下回る。


 ある駅を過ぎた際に仕掛けられていた悪意が爆発する。


 小さな橋を過ぎた後に爆発が起きた。

 線路の下を通っているトンネルは線路諸共崩落し瓦礫の山となる。


 すぐさま救助活動を行うためにレスキュー出動するも状況は悪化する。


 SNS上に犯行声明らしきものが投稿されたのだ。


 ご丁寧に爆薬を仕掛けている証拠の映像が犯行声明に添えられこう綴られている。


――魔女に試練を、哀れな子ヒツジを救い給え。と。


 電車に満載された人々はパニックに陥り、無理やり脱出しようとドアを無理こじ開けると飛び降りた。降りる積りもなかった乗客まで満員だったためか複数人巻き込まれ落ちて行く。


 落ちた人間は良くて重症だろう。かなりの速度が出ているのが肌に感じる風圧で分かる。


 事態に気づいた運転士が飛び降りるのは辞めるよう警告するも、挑戦する人間は後を絶たない、どれだけの人間が生きている事か。


 その様子が全国中継されると放送を中止する局も出て来る。だがしかし電車内から中継する人間はかなりの人数となっている為に拡散は免れない。


「飛び降りるのはやめろおおおおおおおお! 死ぬぞ! 冷静になれ!」


 運転士の必死のアナウンスに踏み止まる人間がいるも暴走した乗客は止まらない。集団パニックの恐ろしさは、助かると思えば人を蹴落としてでも助かろうというものがいる。

 

 現に人を掻き分け突き落とそうとする人間すら出る始末だ。


 ひとりの子供を抱きかかえる女性が中年のサラリーマンに押し出されドアの向こうに押し出された。


 悪鬼羅刹の表情をしたサラリーマンは自分のやっていることがわかっていないのか強引に親子を突き落とし、自らも飛び降りる。その様子はハッキリとスマホで撮影、中継され阿鼻叫喚の祭りとなる。


 何かかが通り過ぎた。そう感じた瞬間には魔法幼女が親子を抱きかかえ電車と並走してた。


「魔法幼女パルルでつ! 助けに来ましゅた、おちつくでしゅよ?」


 頼りになる言葉は頼りにならない年齢の子から発せられた。だがそれが救いとなり飛び降りる人間はいなくなった。


 過ぎ去った線路上には先程のサラリーマンも後方にふわふわと浮いている。

 おそらく後日殺人未遂で逮捕されるだろう。


 近くの道路へとそっと親子を降ろすと、再び電車へ向かおうとするパルル。


 親子が涙ながらにお礼をするも散ったいお手々をフリフリして飛び去ってしまった。

 

 極度の緊張から解放されたため腰を抜かして座り込んでしまう。――我が子とそう変わらない子供に助けられんだ……。どうかみんなを助けて……。


 





 電車の最後方の車両の接続部にパルルが辿り着くと車内から見えている観客が緊張感をもって見つめている。

 安心してねっと言わんばかりにニパッと笑う。後方車両に駆け込もうとした人物も冷静になり駆け込むことをやめてしまう。魔法幼女の笑顔には魔法がかかってるんだなと、皆の心がひとつになる。


 ちっさい指先に赤熱するビームソードのようなものを展開し、ジリジリと連結器を焼き切っていく。

 

 車両は全部で十六両ある、リミットまですでに三十分を切っているはずだ。


 数両纏めて緑色の光に包まれ風を感じなくなっている。

 焼き切れた連結器が弾け飛ぶもゆっくり、と最後方の車両は光に包まれスピードを落としていく。


 その瞬間放送を再開していたテレビ局のコメンテーターも見守っていた警察、レスキュー隊、自衛隊、国民すべてが大歓声を上げた。――よくやった! と。


 二両目、三両目も接続が解除されていく。その度に声が刈れるほどの歓声が上がった。みな手に汗を握り、アクション映画を眺めるように喝采を上げた。


 後方に退避をしてすし詰めにされた乗客で一杯の車両も残り半分ほどなった。タイムリミットも充分にある、よかった助かるんだと。安堵したのも束の間――




――パァァァッン!!




 魔法幼女が電車上をふよふよと移動している隙に狙撃されたのだ。


 最初は何をされたのか皆よくわからなかった、線路上を小さな体がゴロゴロと二転三転、跳ね上がりながら後方へ転がっていった。それを見る者からすれば生きているとはまるで思わないだろう。


 ヘリで上空から観察、中継していた警察、自衛隊共に狙撃されたポイント周辺に捜査網を展開する。テロリスト許すまじ、と。


「支倉ああああああああ、テロリストブッコロすぞおおおおッ! よくもッ! よくもッ! よくもおおおおおおおおッ!」


「武侠さん、それじゃどっちがテロリストか分からなくなりますよ? ――でも、気持ちは同じですよ……ぶっ殺、いや捕まえましょう」


 救出活動が順調にいっている最中で横やりを入れられ、あまつさえ狙撃されたのだ。会議室一同怒髪天を貫くほど頭にキている。


 上空から移されている映像、様々な局にも放映されているソレには幼女が泥だらけで横たわっている。


 狙撃されたと思われる姿はあまりにも無残だ。視聴者も涙ながらに心配をしている。大丈夫なのか? 生きているのか? 救助はどうなるんだ? 


 そう思われている中、頼りないか細い足で魔法幼女は立ち上がる。

 

 フリフリのドレスは所々破け、顔も泥だらけだ。


 顔がドアップに拡大され涙目になっているのが良く分かる。次の瞬間キリリと目を細めると魔法幼女の姿が消えた。




――パウッ!




 可愛い音とは反比例し、線路上を高速で飛翔し敷かれている砂利が次々に吹き飛んでいく。


――遮ることを許さず、我が道を開けよ。


 まるでそう言わんばかりの鬼気迫る表情で電車を追いかける。


 その魔法幼女の顔を見れば分かるだろう。――怒ってる。怒ってるよパルルちゃん。

 逆鱗に触れてはいけない人物を怒らせてしまった。音を置き去りにし通り過ぎた後には道ができる。

 すぐに電車に追いつくと次々に連結器をぶった切っていく。

 先程の笑顔はどこに行ったのか眼光は鋭く研ぎ澄まされている。


 残り三両となり先頭車両には運転士しか残っていない。彼は、田中ヒトシは最後まで爆弾の解除に勤しんでいたのだ。――これで少しでも救われるものが居れば。と。


 残り二両、数十人程の二両目に残っている人間は有名配信者と、お年寄りや子供達に避難を促しここに残った者達だ。


「パルルちゃん頑張って!」


 鬼気迫る表情に配信者が応援の言葉を送る、彼もここに残ったということは勇気あるものだ。


 パルルは返事の代わりにニパッと笑顔を送る。そして運転士に向けておっきい声をだす。


「運転手さん? こっちに来るでつよ? これで最後でつ!」


 そういわれた運転士は安堵する表情と共に二両目へ駆け寄って来る。

 車両半ば程に辿り着いたときに最後の悪意が牙を剥く。


 運転席の下方に仕掛けられた大量の爆薬が起爆する。その勢いは車両をすべて破壊し焼き尽くす。

 

 爆風は周辺の住宅の窓ガラスを破壊し。砂埃を巻き上げる。


 中継されている映像には絶望の形がきのこ雲としてハッキリ写っていた。

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