第7話電車があぶないでつ?

 東都駅内部では安全に停車させる為の会議が行われていた。

 

 電車の仕組みが鉄道会社から説明されそれを警察、レスキュー隊、自衛隊、各専門家が会議を真剣に聞いている。


「電力供給をストップさせるのはどうなんだ? 減速できないのか?」


「それだとモーターが急停止し、脱輪します。ブレーキシステムを作動させ緩やかに停車させないとそのまま大事故に繋がります」


「車両の接続部を切り離すことはできないのか?」


「無理でしょう、かなりの速度が出ている状態で切り離すと遠心力がかかり横転の可能性が高いです。もう少し速度が低ければ可能性はあったのですが」


「ヘリで電車に乗り移り爆弾を処理すれば強引に停車させることもできないのか?」


「現在、車両の運転士の解体作業が進んでいますが著しくはないですね。そもそも速度が出ているのに誰が飛び移るので? それともう時間がありません」


 意見をとにかく出していきブレインストーミングしていく、冷徹に車両の専門家が意見を却下しているが必要な儀式だ。

 この会議室には超常対策本部の人員駆け付けている。テロ行為が判明したため魔法幼女に関係する組織が関わっていると判断されたためだ。


 比較的若手の支倉トオルが挙手すると取り敢えず思い付いたことを意見する。


「魔法幼女にきてもらうのは? 不謹慎な意見で申し訳ないのですが」


「…………神が奇跡を起こさないのならば魔法幼女に来てもらえ……と? そもそも指名手配しているのはあなた達でしょう? 非常に不愉快な意見ですね」


 車両の専門家は魔法幼女をファンなのだろうか。凄まじくハラワタが煮えくり返っているのが伺える。


「呼び出して助けてもらったら、はい逮捕。ですか。非常に警察組織が嫌いになりましたよ。助けてもらう側からしたらなんともいえないですけどね」


 支倉トオルも同意見なのだろう、ここまで言われても苦笑いをするだけだ。


「ですがこのまま運に身を任せるよりは成功確率の高い意見ですね。解体処理、緊急停止を模索しつつ実行する分にはいいのでは?」


 まさかこの意見が検討されるとは支倉自身も思っておらず、どうやってここに呼び出すか検討されている。そもそもここまで全国で話題になればおのずとやってくるかもしれないと無責任な希望すら湧いてくる。


「テレビ中継で呼びかけるか?」「いや、来なかったらどうする? 世間に子供をバッシングさせる気か?」「政府に頼むか?」「警察無能説が湧くだけだろう」「ならば信じて待つか?」「駅でワイヤーを張って急停止はできないのか?」「ばか、中間の車両が後方車両に潰される」


 パンパンと専門家が手を叩くと静かになる。コホンと咳ばらいをすると頭を掻きつつ気まずい顔をする。


「私たちは情けない大人です、子供には誠意をもってきちんとお願いをしてみてはどうでしょう?」





ほわんほわんほわんほわわわーん





 日差しがカーテンから差し込み、冷たいフローリングに横たわる幼女。目元には泣き腫らした跡が残っており、服はカピカピに汚れている。


 なにかが肩を揺らし幼女を起こそうとしている。うにゅぅと可愛い鳴き声を上げながら目を覚ますと涎がべっとり垂れていた。来ている服を涎拭き替わりしてくしくしと顔をふくとようやくコミュニケーションがとれる状態になる。


 ぼうっと、空中を眺めている幼女は何者かと交信をしている。


「んにゅ? テレビでつか? つけましゅね」


 ポチッとリモコンを押したいのだがボタンが分からない。仕方なくテレビの丸いボタンを押すと眼前にニュース速報が流れている。

 そこには『パルルちゃん助けて!』と、SNS上に数多くの投稿がされている様子が映し出されている。


 東都駅、学校、大手企業のビル、地方、海外、公共施設。数々の場所、人々から救いを求める声が上がっている。


 テレビの中継が生放送中に気づきその様子を放映し始めたのだ。中にはどうすれば魔法幼女が電車を止めれるかなどのシュミレーションが討論されているのもある。


 批判的な意見も存在はするが概ね助けを求める声で溢れている。


 なぜかニパッと笑い始める幼女は楽しくなったのかぴょんぴょんと飛び跳ね始める。ちっこいお姫様はくるりと体を一回転させると金髪碧眼のフリフリドレスへと変身する。


「なんだかワクワクするでつね。良い子は人をたすけるものでつ」


 地を全力で踏みしめ、高速で飛翔する。最大加速をもって現場へ急行する。


 空気を切り裂く衝撃は雲すら切って吹き飛ばす。一筋の軌跡を見つけた人々は、すかさずSNSへと情報を上げる。――魔法幼女が向かっているぞ、と。





ほわんほわんほわんほわわわーん





 現在周囲の人間に魔法幼女を呼びかけてもらいつつ対策を考えている、うんうん唸っていると情報を監視している刑事から、現在こちらに魔法幼女が向かっているとの情報が入る。


 すると専門家は内心満面の笑みを浮かべているものの素直に喜べない。


 彼女の大ファンなのだが彼女には致命的な欠点があった。


 『雑』なのだ。子供なのでしょうがないと思うだろうが今回は人命がかかっている、何とかうまく考えている停止方法が伝えれればいいのだが。


「とにかく各駅でスピーカーで声を掛けましょう。『後ろの車両から切り離せ』、と、それと絵にかいておきましょう、子供でも分かり易いように」


 すぐさま作戦内容が環状線の駅全てに伝えられると、大きなポスター用紙に可愛く蛍光色に掛かれた方法が用意される。

 ハートマークとフリフリした格好の女の子がポスターに描かれている。

 女性社員が描いたのだろうか。よくできている。

 

 その様子も撮影されSNSに上がる、なにか作戦が開始されようとしている、その意思がテレビから伝わってくると。手に汗を握りみんなが見守っている。


 待ち受ける準備が終わった頃に空の雲を切り割き電車に並走しようとしている幼女が目撃される。――ついに来たか。


 各駅のスピーカーから『作戦がありますッ! 良い子はお話を聞きましょうッ!』と繰り返し大音量で流される。傍から見ると滑稽だが社員や警察などは本気も本気、大本気だ。失敗すれば人命を失う、子供に願いを託すなど情けない大人達だ、と。


 並行しながらも『良い子』と『お話』にはんのうしたパルルはぴたりと駅構内に止まると駅員さんに声を掛ける。


「お話ってなんでしゅか? パルルは良い子でつよ?」


 その様子を全国中継でテレビに映され、視聴していた殆どの人が意見を共にする。――かかったなッ! と。





 ふんふん、ふんふん、うにゅうにゅと頷く、本当に分かっているかどうか怪しい魔法幼女に懇切丁寧に模型を並べて説明する専門家。

 専門家は大ファンで鼻血を垂らしながらツーショット写真を撮りたい欲と、人命を背負う重大なミッションの説明との狭間で戦っていた。


 並べた模型で遊び始める幼女は大変可愛いのだがちゃんと理解してほしいと冷や汗を流す。


「うにゅ。つまりここをスパーンって切って、ふわっと後ろから止めればいいんでつね?」


「う、うん。そうだね、この紙を持って行っていいから順番にそっと、やさーしく止めてね? じゃないとドカーンってなっちゃうからね?」


「わかったでつ。パルルにおまかせでつ! ボカンさんはどうするんでしゅか?」


「ボカン? ああ、先頭車両の爆弾か、どうしよう。――そうだ、先頭車両から人をいなくするから、えいやッ! ってどっかに投げれる? 安全にだけど」


 お前、そんな説明で大丈夫かと周囲の人間と視聴者からツッコミが入る。


「えいやッ! でしゅか? できまつよ! まかせるでつ」


「それと、ちょっとこっちに寄ってくれない? ほらこれを見て笑って? ――はいチーズ」


 懐に忍ばせていスマホのカメラを起動させ撮影する。ニパッと笑った最高の笑顔を取ることに成功する。


「今これを見ている人、僕を叩かないでね、ちゃんとコレ配るからさ、ホント勘弁してね炎上するの」


――ならばよし。


 自己の欲望を叶えお裾分けもする。自己保身に長けた悲哀なる中年のさがが発動する。専門家のSNSに上げられるや否や、大量にパルル画像が拡散する。本人はそれが全国、いや世界的に自身の名が広まることを理解していないだろう。後日後悔することとなる。


「分からないことや危なくなったらすぐに最寄りの駅に来てね? 丁寧におしえるからね。――わかった?」


「はーい! 良い子は話をきくんでつよ? おかーさんがいってましゅた」


 幼女のお母さん発言に、専門家が涙を堪えいってらっしゃいとにこやかに手を振る。


 ばびゅんと空に飛び立ち電車を追いかけて行く魔法幼女。


「状況をモニターするぞ、状況は刻一刻と変わる。彼女に適切なアドバイスをするんだ! 子供に頼ってばかりの大人じゃないことを見せてやれッ!!」


 専門家が中継をしているカメラに向かい雄たけびを上げる。電車にで撮影してる配信者や爆弾の解体作業をしている運転士にも魔法幼女が向かったぞ、との報告が上がる。

 電車内は希望にすがり救いを求める声を上げる。早く来てくれ。救ってくれと。

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