第10話おねーしゃんって呼んでもいいでつ?
駅前広場に特設された仮設テントに救助された人間を応急手当がされている、重傷者は順次病院へと搬送されている。
爆発の被害の後は凄まじく、都内の電車は全面停止、東京駅は崩壊。犯人テロリストと思わしき人物は投身自殺と……。
現在もすべてのテレビ局の番組は救助活動の生中継をしている。もちろん魔法幼女がクローズアップされているのは間違いない。
先程から逮捕しろとの催促が激しいがそれどころではない。
「まったく、警察ってのはどうしちまったんかね。お役所仕事過ぎないか?」
「ええ、特殊部隊来るらしいですよ? 幼女捕まえに。どうします?」
「逃げてもらうしかねえだろうよ。話聞かせてと言ってもなあ」
今この現場で彼女に助けられた人物に捕まえろと言っても反発が凄いだろうな。
「おい、生存者の捜索はどうだ? あの、矢印の探知魔法というやつの反応は?」
レスキュー隊の責任者に武侠が話しかけ、救出活動の進歩を尋ねる。
「はッ! もう間もなく終了するかと。生存者を探知する魔法らしいので、あとは、もう……」
「そ、うか。魔法に頼りきりでいないともいえないがな。引き続き捜索を頼む。あとは嬢ちゃんにお家に帰ってもらうしかねえのか?」
日が暮れ始めているというのに魔法幼女は懸命に救助活動を行っている。あのような子供が……ね。武侠は幼女に近づくと労いの言葉を掛けるとともに質問をする。
「お嬢ちゃんはパルル……でいいのか? 救助活動ありがとう。もうそろそろお家に帰らないといけないのではないか? それと両親はいないのだろう? 警察の所に来る気はないかい?」
武侠は来てほしくない気持ちとできれば保護をしたいという狭間で揺れ動く。
できればお嬢ちゃんを俺が保護してやりてえよなぁ……。
「…………パルルはいっぱいひとを助けるでつ。おまわりしゃんの所にいくと人助けができなくなるでしゅ。――それとおまわりしゃんにもわるものがいるでつ。いつかやっつけていい子になるでつ」
後半の発言をする瞬間彼女の綺麗な碧眼が、紅に染まる。これは……。
「そろそろ晩ご飯ができるでつ、パルルはかえるでしゅよ?」
彼女の表情が超越者に見えた。『これ以上は踏み込むなよ?』と、言っているかのようだ。やけに冷たい汗が噴き出て来る。
見た目は天使で、にこやかな笑みなのだがプレッシャーが凄い。
「それと、これはサービスでつ。いたいたいの飛んで行け~」
てゅるりーん、と効果音が流れると周辺一帯に緑の光に包まれ、俺の身体の痛みすらゆっくりと消えて行く。
これが回復魔法か、奇跡ともいえるものだな、これは。
「じゃあみなしゃんおつかれさまでつ。パルルはかえるでつよー」
ふんわりと浮かび上がるとちっこいおててをフリフリとテレビに振りまき、空高く舞い上がる。
助けられた、者達はパルルに感謝の気持ちを捧げる。警察等組織の人間は敬礼を。一般人は丁寧にお辞儀をした。
魔法幼女とは擦れ違いで、武装をした特殊作戦部隊が到着する。火器も装備しており、今の日本では珍しいくらいだ。
ものものしい雰囲気に周囲の注目を集めてしまっている。
「武侠、なぜ彼女を捕まえなかったのですか? 足止めすら満足にできないと?」
超常対策本部長の入間が嫌味を吐きながら問いかけて来る。
「ああ、あの子は俺たちの手に負えねえな。何者かが後ろについてやがる。――全滅が落ちだろうよ」
「糞がッ! バケモノはやはりバケモノってことかぁッ! 殺害許可もだす。追跡調査に入れ。これは国の決定だ」
「――これはこの国が終わるかもしんねえなぁ……」
くしゃくしゃに潰された煙草の箱を取り出す、辛うじて吸える部分を咥え、火を付ける。吐き出された紫煙は戸惑うように空を舞い上がり彷徨う。
入間の様子が生中継されていることにより、国が殺害許可を出し、恩知らずの恥知らずだと知れ渡り、国民に批判されるのも秒読みだった。
ほわんほわんほわんほわわわーん
戸部マイコは憂鬱に自宅の窓から空を眺めていた、先程全国区で中継されていた番組にパルルちゃんが映っていたからだ。
その姿は可愛くとても輝いていた。
もちろん録画もしたし、キャーキャー騒いでいた。
しかし銃で狙撃をされた際は心がギュッと潰されるような感覚になってしまった。
私の友達が……よくも……。
「パルルちゃんに会いたいなぁ……」
「そうでつか? 友達にそういわれると恥ずかしいでしゅね……」
!! 私の部屋の椅子にパルルちゃんがッ!? 頭が混乱し不意にちっこいからだを抱き締めてしまう。
ああ、あったかくて柔らかいなぁ……。
「くすぐったいでつ。それと部屋の中にカメラがあるんでしゅがマイコしゃんのものでつ?」
テーブルの上に置かれた監視カメラと思わしき小さな黒い箱が、いち、にい、一杯。
いつ仕掛けられたのか分からず思わず青ざめてしまう。
「ひまりは最近お勉強したのでしゅ。かしこいわるものがいっぱいいるんでつ。あかしっく? というところに繋がってすっごいかしこくなったんでしゅよ? えっへんッ!」
あまりかしこく見えないなぁ。ドヤ顔がバ可愛い……。
「パルルちゃんの本当の名は、ひまりちゃんなんだね!? 二人の時だけでいいから呼んでもいいかな?」
「は、はわわっ。内緒でつ。マイコしゃんだけでしゅよ? ――あ、クッキーだー、これたべていいでしゅか?」
夕食前にこっそりたべていたクッキーにひまりちゃんが気づく、もちろん膝の上に乗ることを交換条件にクッキーを食べさせてあげる。
膝の上に座りハムスターのように頬を膨らまポリポリ食べている姿可愛いなあ。
「クッキーうまうまでつ。――カメラしかけた悪者にはお呪いメール? を送りましゅた。悪者にしかかからないびょーきになるでつ。連鎖的に感染爆発? むつかしいでしゅね、このないよう」
「え、それどんな呪い? 私の裸を覗いた悪者はとっちめて欲しいけど」
「クッキーをみると発狂するお呪いでつ。こわくてビクビクオドオドするでしゅよー」
「なにそれ、最高だねッ! さっすがひまりちゃん! いい子いい子ッ!」
「ふ、ふひゅっ。良い子……ひまりは良い子でしゅよッ! もっとなでろくださいでしゅ」
「言ったなー、ほれっほれっ」
サラサラな金髪がもしゃもしゃになるほどにかいぐりかいぐりしてあげる。
ひとしきり満足したのか、あまいジュースをぐびぐびと飲み始める。
はふぅと息をつくとひまりちゃんが私に提案をしてくる。
「マイコしゃんお空散歩してみるでしゅか? お空を飛ぶのはきもちいでつ」
「え、いいのひまりちゃん? 飛びたい飛びたい!」
ちっこいお手々を繋ぐと緑色の光に包まれふわりと浮かび上がる。
窓を開き、ゆっくりと上昇していく。なぜか肌寒さは感じず。夕焼けに照らされる街並みが心を揺さぶる。
「ふわぁー。ひまりちゃん……夕焼けが綺麗だねぇ~。――ひまりちゃんも暖かいなあ」
幼児特有の体温の高さが腕の中から伝わって来る。ひまりちゃんの背後から抱き締める形で空を飛んでいる。
嫌がる様子は見えず、仲のいい姉妹に見えるだろう。
「いつもわるものをやっつけてくれてありがとうね。――でもひまりちゃんが怪我をするのは嫌だな。ひまりちゃんを利用しようとする悪者も多いしね……心配だなぁ……」
「あかしっくに接続したから大丈夫でつ? ピピピピーンと、あ、こいつわるものだってわかりましゅからババババーンするでつ。――でもおうちは寂しいでしゅ……マイコしゃんところにあそびにきてもいいでつか?」
「もちろんだよ!? ひまりちゃんがいいなら今度遊びにも行きたいな! それとおねーちゃんって呼んでもいいんだよ? マイコさん何て呼ばなくてさ!」
そういうとひまりちゃんは私がお腹を抱き締めている手をひっしと掴み取り泣いてしまう。何も言わずに小さな首筋に頭をよせ頬をすりすりしてあげる。
「……おねーしゃんも欲しかったでつ。いいんでしゅか?」
不安そうな碧眼の眼差しを向けて来る、涙が滲んで前が見えない。
「いいんだよぉ……。ほら、ギュッとしてあげるからさ……」
他人には視認できないフィールドが展開されており、今ココだけは二人の世界、二人のだけ時間だ。
夕日に照らされている仲のいい姉妹が楽しそうに抱き合っていた。
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