EPISODE6 『……僕らと一緒に、居ればいいよ』
ボクは今、まさに経験したことのない局面にいる。
この世界にはいつも落ちてくる、ソレと呼んでるものがある。だけど今、ボクの前に落ちてきたのは見たことのない影。ボクらと同じ背格好なのに、真っ黒で目も口もわからない。本当に影そのもの、みたいな感じ。
「キミは誰? どこから来たの?」
ボクらの世界には、ボクを含めて六人いる。その他は見たことが無くて、最初に影を見た時本当に驚いた。だけどその影からは何も感じられなくて。とにかく不思議で声をかけたんだ。
「……どこから、来たんだろう」
「へ?」
「わからないんだ。ここがどこかも。ここに来る前の事も」
そんな会話をしていると、後ろの方から賑やかな声が聞こえてきた。あぁ、みんなだな、そう思った。
「あ、いたいた。アノコさん!」
そう声をかけてきたのはキュウカクだ。ソレのその匂いをかぎ分けられる。
「やっと見つけたー」
語尾を伸ばす癖があるのはミカク。ソレの味がわかるんだって。
「事件です。ちょっとこれを見てください」
すこし堅い声はシカク。ソレの色を見ることが出来る。
「これなんだけどさ……」
腕には今日、落ちてきたであろうソレを抱えているショッカク。ソレの温度とかがわかる。
「……おい、待て。アノコ、その横のやつ、誰だ」
みんながボクと今日のソレに夢中の中、一人冷静に聞いてきたのはチョウカク。ソレの音を聞くことが出来る。
そのチョウカクの言葉で、他のみんなはボクの横にいた影に気が付いたようだった。と、ショッカクが抱えていたソレがいきなり宙に浮き、みんなの頭の上をクルクルと回ったかと思うとボクの横、影の中にすっと入って消えていった。
「「「「「えぇぇぇぇぇえええ!?」」」」」
ボク以外の五人が叫ぶ。
「え、それキミのだったのー!? っていうかキミ、だれー?」
「お前マジで何者なんだよ!!」
「おーっと、流石に想定外すぎる……」
「事件は立て続けに起こるものですね!興味深い!」
「アノコさんに確認する前にこんなことが起きるなんて……」
上から順に、ミカク、チョウカク、ショッカク、シカク、キュウカクの言葉。ボクはその中でもキュウカクの言葉に引っかかりを覚えて聞き返す。
「え、ボクに何か確認しようとしてたの?」
すると五人は今までの、今日落ちてきたソレがどんなに変で奇妙だったかを話し始めた。
「……なるほどなー」
ボクはようやく納得した。横に目をやると、相変わらず影はそこに立っていた。
「ねぇ、キミさ。名前は?」
影に向かってそう聞くと、他の五人が『え? 今?』みたいな顔をしたけど、とりあえず無視しておく。
「……自分は、フゥロ。それだけ覚えてる」
その言葉からは感情の一切を読み取ることが出来なかった。ボクはみんなの言っていた変で奇妙なソレが影……フゥロの中に還っていったことが引っかかった。
「ねぇ、フゥロ。もし良かったらだけど。しばらくここに、ボクらと一緒にいない?」
その言葉に慌てたのは他の五人だった。口々に『マジで?』だとか『アノコさん、本気ですか?』とか言っている。だけどそれ以上に、ボクはフゥロの事が気になって仕方が無かった。
「ここに来る前の事がわからないってことは、帰り方もわからないでしょ。思い出すまでボクたちと居ればいいよ」
五人は諦めたのか『やれやれ……』と各々諦めた表情をしている。フゥロは少し考えた様子を見せた後、やがて『他のみんなが良ければ』と言った。五人は一瞬互いに目配せをして、それから『まぁ、アノコが言うことだから』と言った。
「じゃ、改めて。よろしくね、フゥロ!」
ボクは右手をフゥロに差し出した。フゥロはそれが何を意味するのかわからないようだったから、少し強引にフゥロの右手を掴んだ。その時フゥロの中に消えたソレが再び目の前に出てきたかと思うと、僕らの頭上をクルクル回ってまたフゥロの中に戻っていった。
アノコの世界のプロローグ CHOPI @CHOPI
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