EPISODE5 『おかしいな、匂いが無い』
「――ってなわけで、これが問題のソレ。」
遠くの方から四つの影が見えたので、あぁ、きっと落ちてきたソレで集まったんだな、とオレは思った。案の定というか、話を聞いてみればやはりそうで、ショッカクさんがオレに事の始まりから大体の流れを説明してくれた。ショッカクさんの話を最後まで聞くと、どうやら今回はいつもと全く様子が異なるようだった。
ショッカクさんは『感じない』。チョウカクさんは『聴こえない』。ミカクさんは『味がしない』。シカクさんは『色が無い』。……確かに、みんなの口から出てきた言葉は今まで聞いたことのないものばかりだった。オレはショッカクさんから問題のソレを渡される。試しに顔をソレに近づけた。
「……皆さんと同じです。オレもこのソレ、匂いがしないです」
例えばソレは、お花畑で包まれるような、ふんわり優しい香りだったり。
例えばソレは、雨上がりのアスファルトの湿ってこもった匂いがしたり。
例えばソレは、どうしようもなく気持ちが悪くなるような腐敗臭だったり。
だけど、このソレは。そこにあるのかすら疑ってしまうほど、なんの匂いもしなかった。初めての感覚にみんな戸惑いを隠せなかったみたいだけど、その話を聞いた上でそれを預かったオレでさえも、流石にこのソレには驚いた。
「なんなんでしょう、このソレ。ありますよね、ちゃんと」
「間違いない。ある」
ショッカクさんの言葉が少し強かったのは、きっと気のせいじゃない。それに続けてシカクさんが言う。
「ボクも疑いました。受け取った時、腕が透けて見えるんですから。でもあるんですよ、確かに」
ミカクさんも『ボクも口には入れられたしなー』なんて言っている。チョウカクさんはその時のことを思い出したのか、一人笑い始めた。
「ミカクの間抜け面な!」
その言葉にミカクさんは少し怒った顔をしたけど、特段チョウカクさんに食って掛かることは無かった。
「とにかく!」
脱線しかけた話をショッカクさんが元に戻す。
「このソレはやっぱり今までのとは違うみたいだ。ボクら全員がいつもと違うってなった以上、これは異例だ」
その言葉にチョウカクさんが言う。
「でもどうすんだよ、ソレ。アノコに言えば、他のソレと変わらねぇ扱いすると思うけど」
「ボクも同意見です。アノコはきっと他のソレと同じ扱いをしますね」
「んー……、そうだねー……」
シカクさんもミカクさんもチョウカクさんに同調していた。でもここでそんな話をしていたところで何が変わるわけじゃない。だからオレはとりあえずみんなに提案した。
「あの、オレらで悩んでてもきっと埒が明かないです。アノコさんに渡しに行きましょう」
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