EPISODE4 『奇妙ですね、色がありません』
「やっほー、シカクー」
「おや? これは、これは。三人お揃いでどうしたんです?」
独特な語尾を伸ばすような話し方をするおかげで誰だか判別がつくのは、ミカクの良いところだとボクは常々思っています。声のする方へと顔を向ければ、ミカクだけでなく、他にも二人いたことには驚きましたけど。
左からミカク、ショッカク、チョウカクの順にボクの前に並んだ三人。恐らくボクの勘からして、今日もまた落ちてきたのでしょう。いつものソレが。
「シカク。ちょっとこれ、見てみてよ」
ショッカクが話しつつ、ボクに何かを見せようと腕を伸ばしてきました。やはり思った通りです。その腕に抱えられていたのはいつも落ちてくるソレのようでした。
「いつものソレですよね。今日はみんな、どんなふうに感じられたんですか?」
そう聞くと三人は黙ってしまいました。おかしいですね、ボク、何か変なことを聞いてしまったのでしょうか?
少しの沈黙があり、それを破ったのはチョウカクでした。
「……なぁ、このソレ。なんか変じゃねぇか?」
チョウカクが『変じゃないか』と聞いてきたので、よく見てみようと思ったボクは、腕を伸ばしてソレを見せてくれていたショッカクに『ちょっとソレを貸してくれないでしょうか?』と聞きました。
「もちろん!」
ショッカクは初めからそのつもりだったのでしょう。ソレをボクに渡してきたので、ボクはソレを受け取りました。……そうです、確かに“受け取った”はずなのです。そこでボクはようやくソレが妙なことに気が付きました。ソレは、ボクの中でも初めてのソレでした。色が何にも見えないのです。見えていたのは受け取ったソレを通してボクの腕でした。
「なんと!なんの色も見えません!!」
例えばソレは、とても美しい真夏の昼の空のように、どこまでも突き抜ける青色だったり。
例えばソレは、優しくフワフワするような、淡い乳白色だったり。
例えばソレは、何もかもすべてを呑み込む、真に強い黒色だったり。
だから驚きを隠せませんでした。確かに僕の腕の中にソレはあるはずなのに、どんなに目を凝らして見ても何も見えません。“無色”というのはこういうことか、と感心さえしてしまうほどでした。
「やっぱり、か」
チョウカクは初めからそう思っていたような口ぶりでした。
「どういうことですか?」
ボクは三人にそう聞きながらショッカクにソレを返しました。すると三人とも答えは同じで、口々に『感じない』『聴こえない』『味がしなーい』と答えました。なるほど、そこでボクのところへ来たんですね。ボクが何か見えるのか、それともやはりこのソレが特別なのか。
「三人でボクの元へ来た、と言うことは、まだキュウカクには確認していないんですか?」
そう聞けば三人は揃って頷きました。そうとわかれば次の行き先は決まっています。
「そうでしたか。それではキュウカクの元に急ぎましょう。これは事件かもしれません!」
「事件って、大げさだな」
チョウカクが呆れたように言ったのが聞こえましたが、この際その言葉は無視します。
「そうだねー。早く行こー!」
早く、という割にはあまり歩調の速さが見られないミカク。
「シカクの言う通りだな」
問題のソレを抱えたショッカクは、先陣を切って先に行ってしまいます。
……まったく。本当にいつも、まとまりがありません。ボクは後ろから二人が付いてくるのを確認しつつ、ショッカクの背中を追いかけました。
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