EPISODE3 『なーに、これ。味しなーい』

 「あれー? 珍しいねー、チョウカクが誰かと一緒にいるの」

 チョウカクは皆と仲が悪いわけじゃないけど、基本的に一人が好きな性格なんだ。だから誰かと一緒にいることの方が珍しくて、思わず声をかけてしまった。

 

 「あ! ミカク!」

 チョウカクへの問いの返事は隣のショッカクがしてくれた。その腕には見慣れない、でもいつもよく見るソレが抱えられている。

 「あー、今日はソレが落ちてきたのー?」

 「あぁ」

 今度は短くチョウカクが返事を返してきた。

 「ねぇねぇ、今日のはどんな感じだったの?」


 例えばソレは、お砂糖たっぷりのあまーいお菓子のような味。


 例えばソレは、思わずベッ!!って出しちゃうくらいのお薬みたいなイヤーな苦み。


 例えばソレは、お醤油とみりんのあまくてしょっぱい、優しくなつかしー味。


 今日のソレは一体どんな味がするんだろう。そう思ってワクワクして二人に聞いてみると、なんでだか二人ともお揃いの顔。眉間に眉が寄ってて、首がわずかに横に傾いていて。うーん……ってうなっていた。

 「えー? 何それ、どういう感じだったの?」

 「いや、どうって言われると……」

 「そうだな、どうって言われても……」

 そうして伝えられた、今まで聞いたことも無い答え。


 「それ、感じない」

 「それ、聴こえない」


 「えー!? そんなことあるの!?」

 まさかの回答に思わず叫んでしまう。あ、チョウカクの眉間のしわがもっと濃くなっちゃった、ごめんごめん。

 「ボクが初めに見つけたんだけど、感じないって初めてだったから。チョウカクにも聴いてもらったけど聴こえないって」

 淡々と伝えられる事実に驚きを隠せない。同時にそれに興味をすごくそそられてしまう。

 「えー、気になるなー。ソレ、ちょこっとだけちょうだい」

 そう言って手を出せば、ショッカクがほんの少しそれを僕の手に分けて置いてくれる。いただきまぁす、と言いつつそれを口に含んでみた。


 「……ふぁひ、ふぉれ(なに、これ)」

 ビックリした。何にも味がしないどころか、堅いのか柔らかいのか、飲み込みにくいのかどうかすら判断がつかない。驚きすぎていたら、いつの間にか口の中から消えて無くなっていた。


 「まったく何の味もしなかった……」

 その言葉を聞いたチョウカクが眉間のしわが少しとれたと思ったら、ギャハハッ!なんて盛大に笑い始めた。

 「お前のその顔! マンガみてぇ!」

 それを聞いていたショッカクも眉間のしわがとれていて、クスクス笑ってる。

 「鳩に豆鉄砲、って感じ。本当に目がテンってこのことだね」

 二人のその失礼な態度にいつもだったら腹が立つのかもしれないけれど、今日ばかりはあまりの衝撃で立つ腹も無かった。


 「これは……、たしかに。ボクも初めてだー……」

 「やっぱりいつものソレと違うんだ」

 ショッカクが改めて確認する。チョウカクも横で頷いている。

 「他のやつにも聞こうぜ。結果は何となく見えてるけどな」

 「でも、一応全員やってみるまでわからないからねー……」

 そうしてボクらは三人で歩き出した。他の仲間の元へ、早く向かわないと、だね。

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