7限目 5月/生徒協議会解散(会長権限)
生徒協議会は紛糾した。
ざわざわと浮足立ち不穏な空気が流れている。
これはいけるかもしれないと僕は思った。そう思って少し怖くなった。
建部は相変わらず澄ました表情で会場をゆっくりと見回していた。
「それでは本議案の票決に移ります。『ロックを演奏するバンドの文化祭出演可否について』、出演を可とすることに賛成する代議員は起立願います」
大した議論を交わすことなく票決に入ったのにはびっくりした。しかしこの雰囲気ならこちらに有利ではないかと、僕は起立しながら思った。
書記が起立者を数え建部に報告する。ぱっと見で立ったのは半数くらいか。
「
議決権総数70個のうち47個を取らないと3分の2に達しない。あと17は厳しい。であればこのまま生徒協議会での決議は流して、生徒総会に議案を持ち越すほかに手はない。いや、むしろその方が理想的だ。もし全校生徒の票決で反対派が勝つのなら諦めもつく。
と、その時、建部の独り言がマイクに乗って生徒協議会場に流れた。
「それにしても生徒協議会で議案の決議がされないなんてことになったら前代未聞だよ。生徒協議会の意義が問われる。もしそうなれば…僕は初めて生徒協議会を解散させる生徒会長になるかもしれない。…代議員みんなの内申書に傷がつかないか、心配だなぁ」
ざわついていた会場がピタリと静まった。
生徒協議会が解散されると代議員はその地位を失い、改めて学級長が選出されることになる。
そのことが内申書において傷になりはしないかと建部は言ったのだ。本当にそんなことになるのかはわからない。でも代議員たちには十分な脅しになったであろう。
「ヤなヤツ」
ガモさんは腕組みをしたまま建部を見つめている。この場合はガンをつけていると言っても差し支えないだろう。
内申書に悪い影響を与えるというのは、あながち否定できないと思う。
なぜなら僕らはいわば先生たちに反抗をしているからだ。賛成に票を投じたこと自体を内申書に悪く書かれることはないだろうが、その他の項目で悪い評価がされることは十分にあり得る。
明らかに建部の陽動作戦だ。さっきまでの雰囲気なら、議論をすればするほど賛成派が増えると建部は読んだのだろう。だからすぐに票決に移りまず現状を把握した。あと7人が反対派に転べばいいとわかり、そこで再議論の前に内申書をちらつかせたというわけだ。
代議員たちの動揺を鎮める術は僕らにはない。内申書なんて気にしてないガモさんたちが何を言おうとみんなの心に響きはしないのだ。
「それでは議論を再開します。意見のある人は挙手してください」
誰も手を上げない。
気まずい静寂が流れるばかりだ。
ふんっと鼻を鳴らし建部が僕を見る。
「野嶋委員会長、なにか意見はありませんか?」
内申書が
くやしいけどなんも言えねぇ。
「…せ、先生達はロックを認めてないんじゃない、僕らを信じてな…」
「それは先ほど聞きました。本協議会は重複した意見を必要としていません。それともなにか違う意見へと展開しますか? であれば遮ってしまってすみません、どうぞ続けてください」
――くそぅ、建部、性格悪りぃ。ネチネチといたぶるような責め方しやがって。
「いや、ないです」
しかし僕はうつむいてそう言うしかなかった。
建部はふっと笑うと会場を見渡した。
「意見のある方、いませんか? いなければ再票決に移りますよ、いいですね。では議論を打ち切ります。今回の票決は記名投票とします。投票用紙を配るので名前を書き賛成なら可にマルを、反対なら否にマルをつけてください。投票はこの投票箱にお願いします」
建部は議長席に投票箱をデンと置いた。勝利を確信したかのような顔が憎たらしい。
「なんで今度は記名投票なんだよ。さっきと同じで起立すりゃあいいじゃねぇか」
「一回目と意見が変わった人がいたら立ちにくいじゃないですか」
「だったら無記名でもいいだろ」
「棄権とか保留の票を出さないためです。無記名だと誰だかわからないんで」
「チェッ」ガモさんがプイと横を向く。
なんて悪知恵の働くヤツだ。起立しないことで寝返りしやすくする一方で、記名式にすることでさらにプレッシャーをかけてきた。
――もはや、これまで。
これで反対派が3分の2以上を占め勝利するだろう。そう僕は観念した。
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