5限目 5月/生徒協議会連絡会議
執行委員による生徒協議会連絡会議。
「3年D組と3年J組と8つの委員会から『ロックを演奏するバンドの文化祭出演可否について』の議案が提出されました」
ガモさんと
それはそうだろう、文ロク派と目された13クラス中2クラスからしか議案が提出されなかったのだ。正直、想定以上に離脱者が出た。
「
ガモさんが隣にいる僕にだけ聞こえる程度の低い声でつぶやいた。それは反対隣にいる秋朝にも聞こえたようで、「チェッ」という鋭い破裂音が僕のところまで聞こえてきた。
委員会長席と生徒会席は向き合う形で並んでいる。一番右端に僕が座り、その隣がガモさん、その隣が秋朝、以下5名のD組の不良たちが
「これは一部の人たちの組織票ですよね」
建部は胸ポケットから扇子を取り出し机に突き立てると、僕たちの顔をゆっくりと見回した。
一部の人たちとは僕たちのことだ。建部会長は不良が面白半分にフザけてやっていることだと言いたいのだ。
「矛盾してる。一部の人なら組織票とは言わない。組織票と言うからにはそれなりの人数が集まってる」
秋朝が間髪を入れずに言い返した。
「一部の人の面白半分に、それなりの人数の人たちが釣られていると推測しますが」
建部会長も負けてはいない。この男は学年イチの秀才だ。学区外にある超難関進学校の推薦入学を狙っている。
「俺たちは釣ってねぇよ。俺たちが脅したとでも言うのか」
ガモさんが建部を見た。睨みつけているわけではないが、ガモさんは黒目が小さいので目を据えると三白眼になる。慣れないと見られただけで怖い。
「脅したとは思ってないけど、キミたちの発言や態度は無言の圧力になる」
建部は扇子で左の手のひらを叩きながら臆することなく答えた。いくら目が怖くても学ランが異様でも頭にソリが入っていても、ガモさんが絶対に暴力を振るわないことは皆が知っている。
秋朝が即座に反論した。
「証明できない。無言の圧力で意見を強要されたかどうかなんて証明できない。それとも証拠でもあるのかよ?」
薄々感じてはいたが、ガモさんも秋朝も実はすごく頭が良いと思う。なんかこういうやりとりは法廷ドラマとか映画で見た気がする。
建部会長が口をつぐんだ。口をつぐんで僅かに笑ったように見えた。
言い負かされたと自嘲したのか、証拠がなくてもオマエらが扇動したに決まってると苦笑いしたのか。それとも…。
「そうですね、証拠がない。僕が言ったのは僕の個人的な感想であって、論理的ではなかった。すみません。発言を取り消します」
相変わらず取り澄ました気持ち悪い大人みたいな顔で建部は続けた。
「『ロックを演奏するバンドの文化祭出演可否について』これを次回の生徒協議会で議題に上げたいと、そういうことですね。趣旨は何ですか」
「ロックやニューミュージックは不良の音楽みたいに言われてるけど、実際には普通の人だっていっぱい聴いてるし、クラッシックなんかの方がぜんぜん聴かれてない。同じ音楽なのに区別されるのはおかしいよ。それに二中ではいいのにウチではダメとか、おかしいでしょ」
満を持して発言した僕の言葉はどこか浮薄で幼稚だった。案の定…。
「僕はクラッシクを聴くけどロックは聴かないですよ。いっぱいとかぜんぜんとか、それは野嶋くんのカンジでしょ。曖昧すぎますね。それと二中がやってるからっていうのもどうかな。二中は二中、
「うぐっ」僕は息を飲んだ。返す言葉を準備していなかった。
あ、申し遅れましたが僕は野嶋
「じゃあ、アンケート取らせろよ。いいって言うなら俺たちがアンケート取って証明してやるよ。あなたはロックを聴きますか? ニューミュージックを聴きますか? それともクラッシックを聴きますか? ってよ。そしたらハッキリするじゃん」
「二中と新中は事情が違うからいっしょにはできないって言うなら、二中がいいのに新中がダメな事情ってのを説明して欲しいね。なんで二中ではロックをやっていいのにウチではダメかっていう事情をさ。もしダメって言うならだけどね…まだダメって決まった訳じゃ、ねぇよな?」
ガモさんと秋朝が(言葉遣いは悪いが)冷静に即応した。ケンカが強いのは知ってたが、コイツらは言い争い(ディベート)にも強いのか。
ケンカと掛けましてディベートと解きます。その心は…反射神経が必要でしょう。
お後がよろしいようで。
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