文化祭 9月/Shake it up, baby! now!

 ロックバンドの演奏が始まった。

 校内放送のスピーカーでは音質は望めないが、かえってその雑音の多さに体育館の熱気が伝わってくるようだった。

 僕らは3Dの教室にいる。


 ガモさんも秋朝も、ロックバンドの出演が承認されたときから体育館には行かないと決めていた。


 ――体育館に見に行ってさ、なんかイチャモンつけられて来年からはロックは禁止、なんて口実に使われたらムカツクじゃん。


 もうそんなイチャモンをつけてくるヤツはいないと思う。先生にも生徒にも。これは念には念をいれたガモさんの照れ隠しだ。


 3Dの連中は誰一人としてバンドを組んでない。歌えるヤツも楽器が出来るヤツもいなかった。

 ただ、秋朝だけがオリジナル曲を作るというバンドに頼まれて作詞をした。普通の生徒から声をかけられお願いをされるなんて初めてのことだろう。

 あの衝撃の生徒総会以来、不良たちと他の生徒たちとの距離が縮まった気がする。

 ちなみにガモさんたちは、あれからもずっと標準服を着て学校に来ていた。なんかもう、長ランだボンタンだと気を遣うのがバカらしくなったそうだ。


 スピーカーが歌い始めた。


『清く正しい音楽も

 それはそれで必要で

 否定するつもりはないけれど

 でも、だから、ロックンロールは敵じゃない

 Shake it up, baby! now!(シェキナベイベー!ナウ!)

 たまには腰を振って踊れ!

 Shake it up, baby! now!

  殻を破って踊れ!


 モーツァルトの旋律は

 心に染み入る美しさ

 否定するつもりはないけれど

 でも、それじゃあ、突き破るほどには踊れない

 Shake it up, baby! now!

 ときには腰を振って踊れ!

 Shake it up, baby! now!

 殻を破って踊れ!


 誰の歌かは知らないけれど

 ロックンロールで破裂する

 ロックンロールを踊るのは

 規則を破るためじゃない

 ロックンロールを踊るのは

 古びた殻を破るためさ


 Shake it up, baby! now!

 迷ったときは腰を振って踊れ!

 Shake it up, baby! now!

 さぁ、殻を破って踊れ!』



 シロウトのしかも中学生の作った曲だ。どこかで聞いたようなロックンロールだったが、秋朝の書いた詩が僕の心には響いた。


 あの生徒総会は建部生徒会長の信念が勝り、中止されなかった。

 総会は全校生徒の90%を超える票を以って、ロックバンドの文化祭出演を認める決議をする。

 その後、学校長からはその執行に承認を得るばかりか、非常に有意義な議論を行い決議にまで至ったことを称賛され、代表して生徒会に感謝状が贈られた。

 ヨコちゃんは相変わらず生活指導教諭であり僕らの学年主任であった。生徒総会での対応について学校長から注意を受けた、なんて噂も聞いたが、ヨコちゃんに変わった様子はない。僕らはそれが嬉しかった。


 僕らは確かに、それぞれが何かの殻を破った。

 そんな気がしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る