4限目 5月/文ロク派の躍進

 作戦は思いのほか順調に進んでしまった。

 3年D組の学級長はガモさんと秋朝あきともになり、8つあるクラス委員の席もすべて化祭でを聴きたいグループ(略称、文ロク派)で埋まった。

 まぁ、D組はガモさんと秋朝を中心に、固い結束で結ばれた連中の集まりなので不思議はなかったが、意外だったのは他のクラスにも文ロク派の共鳴者が多くいたことだ。

 僕らは広報活動を一切していない。文ロク派つまりウチのクラスの連中から口コミで伝わったらしい。恐るべし、不良の人脈。

 3年生では2クラス4人、2年生では5クラス10人、1年生では6クラス12人の学級長が文ロク派を表明した。(ところで学年が上がるにつれ共鳴者が少なくなるのは、おそらく内申書が心配だからだろう。おかしなことに加担するのは避けようという心理だ。責めるつもりは毛頭ない。僕だってそう思う。)

 つまり全校30クラス中、13クラス26人の代議員が文ロク派となったわけだ。もし8つの委員会の委員会長にもD組のクラス委員が選任されれば、その数は34人(ガモさんと秋朝が兼任なので実際は32人だが議決権は34個)になる。そうなれば、対する(おそらく敵対するだろう)建部たてべ会長派は会長、副会長の2人と代議員34人の合わせて36人。生徒協議会での勢力は拮抗する。(ごちゃごちゃと数字を出して申し訳ない。読む気が失せるのは承知しているが、のとのちある程度数字が重要になってくるのでお許しをいただきたい。)

 

 この事態はきっと先生たちや建部会長の目には、不良たちが扇動した反乱に映ったであろう。何を企んでいやがるんだと警戒しているに違いない。


 ただ、おそらく一般生徒のほとんどが僕らの意図するところを知らない無党派層だ。面白がる者、情勢を見極め追従したい者、最善を選択したい者、不良はとにかく嫌いな者、本当にどっちでもいいと思ってる者等々、様々だろう。

 だからいまは拮抗していても状況の変化によって情勢なんてすぐに変わる。そこを気をつけなければいけない。

 僕たちの気持ちを伝えるにはきちんと生徒協議会に議題が上がり、話し合いがなされなければならない。その前に足元を掬われ、面白半分の反乱として処理されてしまえば何の意味もないのだ。

 確かに面白半分に始めたことだけど、現状の事態に少しビビりつつもこれは真面目に対応しなければマズいことになると僕は肚を据えた。

 なにしろ僕は根はマジメな生徒なのだ。内申書の脅迫がまるで怖くない、わけではない。

  

 ――文化祭でロックを。


 この主張の正当性を正攻法で訴えねばならぬ。僕は不良のレッテルを貼られるわけにはいかないのだ。


 8つある委員会の委員会長にはウチのクラスの委員が立候補し、案の定、いずれも無風で選出された。断わっておくが威圧等の選挙違反は行っていない。ではなぜ揃って選出されたのか。

 ウチの学校の生徒会は進んでいると前述したが、それがためにするべき作業や仕事がかなり多い。勉強に部活にとただでさえ忙しいのだから、わざわざ立候補してまで代議員や委員会長などになりたがる生徒がそもそも少ないのだ。文ロク派躍進の陰にはそんな事情もある。


 これで生徒協議会での会長派と文ロク派の人数は拮抗した。

 一度は決めた僕の心が、再び動揺し、揺らめき、ざらついたことを正直に白状しよう。しかし同時に、勝てるかもしれない、と僅かな期待を胸に抱いたのも本当だ。

 誰に勝てるかって?

 先生に、大人に、初めて勝てるかもしれないって思ったんだ。

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