#8 朝の検査
翌朝、すみかは瑠以より先に寮の部屋を出た。食堂のテレビでは見慣れたお天気キャスターが「日中はよく晴れますが、朝晩はヒンヤリとするので、薄手のコートがあると安心でしょう」と、ハキハキと予報を伝えていた。
学園に着いたら、いつも通りCALの前にできた列に並ぶ。
列は今朝も、のろのろと進んだ。
前の人が出てきたのにぼーっとしていて、スクールドクターの里奈に二回名前を呼ばれるのもいつも通りだ。
「もーう、一回呼んだだけじゃ入ってくれないんだから」
里奈は今日もぷんすかと両腕を腰にあてた。
電子端末に小指をかざし、自動ドアから部屋に入る。上履きを脱ぎ、出入口近くに置いてあるバイタル計測器の台に乗る。里奈がスタートボタンを押したら、三秒間、深呼吸を繰り返す。
いつも通りの朝。
いつも通りの、いつもの検査。
いつもの……
「座らないの?」
椅子の前に立って動かないでいるすみかを見て、里奈が不思議そうに首を傾げた。
ステンレス製のスツールが、今日はやけに冷たい光を放っているように見える。
すみかは顔を左右にふると、椅子に座り、一瞬躊躇し、だが結局、採血台の上に腕をのせた。
「そういえば知ってる?」
採血が終わり、すみかがシャツのカフスボタンを止めていると、検査結果を印刷しながら、里奈が屈託のない声で言った。
「毎朝採っているこの血液は、赤血球、白血球、CRP値などの基本的な検査項目に加えて、ワイズ値という特別な値も測定しているの。ワイズ値はヨートリリカルプロテインというタンパク質の一種で、これは脳組織の一部に損傷が起きたときにのみ発生するのね。損傷から二十四時間以内の場合、数値が著しく上昇するけど、それ以上時間が経過すると一気に低下し、通常時と変わらない値になることが知られている」
南の中庭側の窓から、柔らかい朝の光が無機質な検査室に降り注いでいる。
どこからか聞こえる小鳥のさえずりは、穏やかな朝を象徴しているようだった。
「ワイズ値は別名アーラ値とも呼ばれる。それは、アーラを使ったあと、二十四時間以内であれば反応するタンパク質だから。つまり、その人がアーラを使ったかどうかを調べることができる値」
里奈は、検査結果の印字されたレシートのような紙をすみかに見せた。Yと書かれた数字の横には、異常値を示す「High」という単語が赤々と記されていた。
里奈は、はっきりとすみかと目を合わせた。
「やっぱり、検査は毎日する必要がありますね」
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