第3話「玩具と接近」
一時間目が終わるまで保健室のベッドで寝て過ごした俺は教室へと戻ってきた。
流石に寝て起きたら夢でした、ってことはなかったが、一旦寝たことで先程までの焦りも消え去り気分も爽快‼︎
きっと鞄の中にいるバイブは大人しく隠れてくれていたはずだ。
待っててねバイブちゃんもうすぐで会えるよっ♡
「おかえり。もう体調は大丈夫そう?」
「おかげさまでな。助かったよ」
かみこの様子に変化はないし、机の横にかかっている鞄にも特に変わった様子はない。
席に座って急いで鞄の中を確認してみるが、誰かに持ち去られることもなく鞄の中で大人しくしてくれていたようだ。
やっと会えたねバイブちゃん☆
もう二度と君を置いてこの場を離れたらしないからね♡
先程までは鞄の中にバイブが入っていたことにショックを受けていたが、今度は鞄の中にバイブが入っていたことを飛び跳ねて喜びたい気分だ。
ありがとうバイブ‼︎ 大好きだぞバイブ‼︎ 使ったことないけど‼︎
安心して一気に力が抜けたところで休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、次の授業の担当の先生が入ってくる。
いつも通り、起立、礼、着席を済ませて着席するとかみこが話しかけてきた。
「定明くん」
授業が始まったタイミングでかみこから声をかけられた俺は身構える。
昨日隣の席になったばかりだが、休み時間こそ何度か声をかけられはしたものの授業中に声をかけてくることはなかった。
わざわざ授業中に声をかけてくるということは、まさか鞄の中を見られでもしたのか!?
いや、落ち着け俺。まだそうと決まったわけではないのにあまりにも大きなリアクションを取ってしまえばそこから怪しまれる可能性もある。
「ど、どうかした? 俺別に何も悪いことなんて……」
「どうして悪いことをしてる前提で話してるの?」
「な、なんでもない‼︎ 気にしないで‼︎ それで、どうかした?」
「教科書を忘れちゃって……。迷惑じゃなければ定明君の教科書を見せてもらいたいんだけど」
よ、よかったぁぁぁぁ!! バイブが見つかったわけじゃなかったのか!!
かみこにバイブが見つかったら高校生活が終わりを迎えるといっても過言ではないので、どうしても鞄の中にあるバイブに気付かれるわけにはいかない。
「あ、教科書ね!! もちろん一緒に見よう。減るもんじゃないし」
「ありがとう」
「--え?」
俺が教科書を見せることを了承すると、かみこは自分の机を俺の席へと寄せてきた。
いやまあそりゃ教科書忘れたらそりゃそうなるよな。
てか待てよ!? かみこの机を俺の机に寄せるということは、かみこが俺の鞄、否、バイブに接近することに他ならない。
かみこがバイブに近づけば俺の鞄の中にバイブが入っていることを気付かれてしまうリスクは格段に跳ね上がる。
まさか教科書を見せるというだけでこれ程までにピンチを迎えてしまうとは思ってもみなかった。
「ごめんなさい。近づきすぎて迷惑だったかしら」
「あ、いや、全然問題ないよ」
問題大ありだよ!! 問題しかねぇよ!!
そもそもかみこがこんなに至近距離にいること自体あり得ない話で平常心を保つだけでも難しいというのに、鞄の中に入っているバイブに気付かれやしないかという不安もある。
頭の中はグチャグチャになっていた。
「ねえ定明くん」
「は、はヒッ!?」
俺の名前を呼んでから、かみこは俺の方へと距離を詰めてくる。
いや周りから見たら羨ましいシチュエーションでしかないだろこれ。
この状況を素直に喜べる状態じゃないのが悔やまれる。
っていうかなんで俺の方に近づいてくるの⁉︎ これ以上近付かれたらバイブの危険が危ない‼︎(語彙力)
「あなたって変態なのね」
「--はい?」
かみこはとんでもないセリフを俺の耳元で囁き、俺の耳と頭には激しい衝撃が走ったのだった。
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