第2話「玩具とかみこ」

「じゃあゆっくりしててね」

「ありがとな」


 保健室を出て行ったかみこにを見送り俺はベッドに寝転がった。


 保健室に先生がいなくてかみこと二人きりになりベッドの上でエチチな展開がっ⁉︎ なんてラブコメのお決まりイベントのような淡い期待は一瞬にして打ち砕かれたぴえん。

 保健室に入った瞬間に保健の先生が椅子に座りながらこちらに優しく微笑んできたのを見て、軽く絶望して本当に体調が悪くなりそうになったがそれはまあ仕方がない。


 ショックを受けはしたものの、人生そんなに甘くないよな、と自分に言い聞かせた。


 こうなると俄然心配なのは鞄の中に一人残してきたバイブである。

 いや、まさか誰かが鞄の中を漁ったりなんてことはしないと思うが、万が一ということもある。


 もしかしたらひとりでにバイブが振動を始めるかも……いや流石にそれはないな。


 バイブを見つける可能性が一番高いのは俺の隣の席に座っているかみこ。

 かみこに見つからないよう少しでも早くあの危険物を鞄から解放しなければならない。


 そのためにはいち早く教室に戻らなければならないが、せめて一時間目くらいは保健室で静かにしておかないとかみこに怪しまれてしまう。

 早く教室に戻りたい気持ちは強いが、流石にかみこが俺の鞄の中を漁ったりすることはないだろうし、そこまで心配する必要はないよな。


 そうだよ、きっとそうだ。かみこが俺の鞄の中を漁るなんてあり得ない。


 ……とりあえず寝よ。もしかしたら寝て起きたら夢でしたってオチもあるかもしれん。


 グッナイバイブ。君には狭い空間で寂しい時間を強要することになるけど俺だけ柔らかいベッドの上でゆっくりさせてもらうよ。




 ◇◆




 一瞬呆然としてしまった私だが、これはそうゆうことに縁がなく無知な私でも分かる。


 なんで定明くんの鞄の中にバイブが!!!!????


 別に意図的に定明くんの鞄の中を覗いたんじゃないよ!?

 定明くんの机の上に放置されてた財布を親切心で鞄の中にしまおうとしたら偶然バイブを見つけてしまっただけだからね!?


 ……いや、冷静に考えたら定明くんも健全な男子高校生なんだからバイブぐらい持ってても違和感なんて--ありまくりですねやっぱり!! 健全でもなんでもないんだけど!?


 普段はクールで冷静な私だが、見つけてしまった物が物だけに流石の私も取り乱していた。


 バイブを持っているということはそれを使う相手がいるってこと? え、じゃあもう私完全に脈なし? 脈なしってことなの?


 そう、私は定明くんのことが好きだ。


 高校の入学式当日、高校に向かうまでの道が分からなかった私はスマホで地図アプリを開いたまま右往左往していた。

 いくら技術が進歩しているとはいえ、結局マップを見なければならないのではマップを見るのが苦手な人は迷ってしまう。


 このままでは入学式に遅刻してしまう、そう焦りながらスマホとにらめっこしていたとき、初対面の定明くんが私に道を教えてくれたのだ。


 定明くんは家を出るのが遅れたようで、このままだと遅刻しかねないとかなり焦っているように見えた。

 それでも私を見捨てることなく、道を案内しながら学校に向かってくれた。


 そのせいで定明くんは入学式に遅刻してしまったのだが、必死に謝る私に対して定明くんは責めることをしなかった。


 それどころか、「どっちにしろ遅刻してたよ。無事に学校に到着してよかった」と優しい言葉をかけてくれた。


 入学式という大事な日に自分が遅刻する可能性があるにも関わらず困っている人に親切にできて、その上遅刻してしまった私に気を遣うような発言をしてくれる定明くんの優しさに惹かれ、私は定明くんのことが好きになった。


 そんな定明くんと席替えで隣の席になったときは舞い上がるような気分だった。


 それがまさか、鞄の中にバイブを発見してしまうなんて……。

 好きな子の鞄の中にバイブが入っているのはあまりにもダメージが大きい。


 もしかしたら友達にイタズラでこっそり鞄の中に入れられてしまっただけかもしれないし、まだ定明くんが他の女の子にバイブを使っていると決まったわけではない。


 こうなったら定明くんに彼女がいるのか、そしてその彼女にこの大人の玩具を使っているのかどうかを確かめないことには私の気持ちは収まらない。


 定明くんが保健室から戻ってきたら定明くんを問い詰めることにしよう。

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