間違えて学校に大人の玩具を持ってきてしまったのが隣の席の美少女にバレて横から脅されるんだが

穂村大樹(ほむら だいじゅ)

第1話「玩具と鞄」

 やっちまった☆


 これは俺、城田しろた定明さだあきがこれまで過ごしてきた人生の中で最も大きいやらかし案件だ。


 どれくらいやらかしたかというと、夕飯のカレーを作るためにカレールーを購入したらそれがハヤシライスだったときくらいやらかしている


 それそんなにやらかしてなくね? という指摘は受け付けない。


 とにかく、今俺はこんな微妙な例えしか思い浮かばない程焦っている。


 誰だってこんなやらかしをしてしまったら冷静ではいられないだろう。


 なんたって学校に持ってくる物としてどんな物よりも似つかわしくない物、バイブを持ってきてしまったのだから、、、。




 ◇◆




 今朝いつも通り学校に登校してきた俺は意気揚々と鞄の中から教科書類を取り出して机の中にしまい、鞄を机の横に掛けようとしていた。


 テンションが高いのは今日リリースされたゲームのダウンロードを朝から行い、帰宅したらそのゲームを思う存分楽しむ予定だからだ。


 早く家に帰ってゲームしたいなるんるんっ‼︎


 思わず鼻歌を歌いたくなる程テンションが上がっている俺だが、人生とは残酷なものである。


 教科書を取り出してスッキリした鞄の底に、とある危険物を認識した俺は鞄のチャックを急いで閉じた。


 鞄の中にあった危険物。


 それはバイブだ。


 "バイブ"だ‼︎


 スクールバッグに入っているわけがない危険物を認識した俺は頭が混乱していた。


 鞄の中にバイブが入っているということは、学生がバイブを使ったプレイを楽しんでいるの? と疑問に思う人もいるかもしれないが、そこは安心してほしい。


 俺はバイブを一度も使ったことがない。いやそりゃどんなもんかと試しに家で電源くらい入れたことはあるけどそういうことじゃなくて。


 まだ十八歳にはなっていないが、地元のリサイクルショップにある十八禁コーナーに友達とその場のノリで侵入して購入しただけであって、使用したこともなければこの先使用する予定もない。


 いや予定はあってほしいもんだけど。


 俺が普段からバイブを使いまくっているバイブマスターだとするならばバイブを持ってきていることが誰かにバレてしまっても甘んじて受け入れるだろう(受け入れない)。


 しかし、一度も使用したことがないのにバイブを持ってきていることが誰かにバレてしまい、変態扱いされるのは納得できない。


 何とかして今日一日、鞄の中身がバレないようにして乗り切らねぇと……。


定明さだあきくん、どうかしたの?」

「か、かみこ⁉︎ ド、ドウモシテナイヨ⁉︎」


 俺に話しかけてきたのは隣の席に座っている加中かなか未来みこ


 名前の後ろ三文字を取って付けられたあだ名はかみこだ。


 背中の中央あたりまでスッと伸びた綺麗な髪が印象的でクールな性格をしており口数が多いわけではないが、誰にでも優しく接することができる性格で男子からの人気も高い。


 かみことは昨日の席替えで隣の席になった。


 席替えをする前からかみこの隣の席に座りたいと考えていた俺にとって、かみこが隣の席だと知ったときは天にも昇る気分だった。

 しかし、今となってはなぜ今回の席替えに限ってかみこの隣の席になってしまったんだと昨日の自分の運を呪いたくなる。


 最悪かみこ以外の生徒に気付かれるのは仕方がないが、かみこにだけは俺の鞄の中にバイブが入っていることは気付かれなくなかった。


 俺はかみこのことが好きだからだ。


 ひとめぼれ、と言うと外見しか見ていないのではないかと批判されるかもしれないが、男子高校生が女子を好きになる理由なんてそれくらい単純なもの。


 もしかみこにバイブを持ってきていることを知られてしまえば、もしかしたら0.1%だったとしてもあるかもしれないかみことの輝かしい未来が消え去ってしまう。


 一年以上にも及ぶ片思いをそんな形で終わらせていいわけがない。


「そう? それならいいけど……。何か様子がおかしいように見えたから」

「あーちょっと体調悪くて……」

「大丈夫?  熱は……」

「ちょ、ちょっと何してんの⁉︎」


 かみこはおもむろに俺のおでこに自分のおでこを当ててきたのだ。


 かみこの顔が近すぎるんだが⁉︎


 てかあんまり近寄らないでバイブがあるのバレちゃうから‼︎


「何してるのって、定明くんが熱出してないか確認しただけだけど」

「だけだけどっておまえな……。心配すんな。元気だから大丈夫だよ」

「え、体調が悪いんじゃないならどうして様子がおかしかったの--」

「ああーなんかめっちゃ体調悪い気がしてきたなぁー。あーこれはやっぱりかなり体調が悪そうだなー」


 かみこに隠し事をしていると気づかれないよう俺は再び体調が悪いフリをした。


「それなら保健室に行った方がいいんじゃない? 私もついてくわよ?」


 かみこと保健室⁉︎


 普段ならかみこに付き添ってもらって保健室に行くなんてご褒美イベントでしかないが、今保健室に行ってしまえばこのバイブという爆弾を鞄の中に残していくことになる。


 それはあまりにも危険だ。


「保健室⁉︎ だ、大丈夫。こんなに体調良い奴が保健室なんて行ったら先生に怒られるって‼︎」

「え? でも今体調悪いって……」

「あ、いや、ま、まあそうなんだけどね? あんまり迷惑かけたくないっていうかなんていうか」

「それなら早く行きましょう。気を遣って体調が悪化したら元も子もないじゃない」

「え、ちょ、ちょっとかみこ⁉︎」


 かみこは徐に俺の手を掴み、俺を教室の外へと連れ出した。

 あまりにも柔らかい手の感触をゆっくりと堪能したいものだが、そんなことができる状況ではない。


 クソッ……。これはもうバイブを残して教室を出るしかない。


 さらばバイブよぉぉぉぉ‼︎ 俺が戻ってくるまで鞄の中で息を殺しておいてくれ‼︎

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