第4話 転生はしたけど、なんかおかしくない?
「何かしらこの人……罰当たりな人ね」
「こんなところで寝るなんて、頭おかしいんじゃねぇのか?」
「ママー、私もここで寝てみたーい!」
「見ちゃダメ! 変態がうつっちゃうわよ!」
周囲を取り囲む喧噪によって、俺の意識が夢の中で覚醒した。
(……あぁ、これは久々に聞く、生身の人間の声だ。つまり女神さまは俺を転生させることに成功したのか)
国教として崇拝される女神アプロが、あんなにも胡散臭い存在なのかと疑問にも思ったが、それも今となっては疑う余地がない。
「罰当たり」「変態」などと、俺とは無縁そうな言葉が薄っすらと意識の中に入り込んでくる。恐らく転生して早々、近くで問題が発生しているのだろう。
早速チャンスじゃないか。ここで颯爽と助けに入れば、間違いなくモテる!
「――――ぷはぁ! ぼまえだち、なにがあっだのが?」
「キャー!! 丸出しよこの人ー!!」
「ショード様像の目の前でなんと無礼な真似を!」
「今すぐに、とっ捕まえろぉ!!」
転生して早々、聞こえてくるのは黄色い歓声ではなく、まっ黄色な悲鳴だった。
***
小さな部屋。四方を冷たい石の壁で囲まれ、外の光を一切通さない。そんな独房のような寂しい部屋で、俺は机を一つ挟み、一人の女性と対面していた。
「――――それで? お前は気が付いたら、全身丸出しでショード様の像がある噴水の中に、その汚いケツをどんぶらこさせていたと?」
「あぁ、俺は一切嘘はついていない。神に誓ってどんぶらこさせていただけだ」
「きっも……」
「ふっ……」
転生して一分弱、まさかこんな形で捕まるとは思わなかった。
椅子に座って腕を組む俺は、腰にタオルを巻きつけ、至って冷静に、そして【クール】に返事をする。
この状況の中で、早速【熱血】を代償にした恩恵を感じている、というわけだ。
「おい貴様! 自分がどういう状況か理解しているのか! 裸で我々に捕縛されたんだぞ! もっと恥ずかしがったり! 申し訳なさそうな顔をしてみろ! 何故そんな冷静でいることが出来るんだ! あぁ、まずい。これでは私の拳が火を吹くことにぃ」
「お、落ち着いてくださいリーダー! さっきまでこの少年は噴水で意識を失っていたんですよ! まだ記憶が混濁しているんです! なっ、そうだよな! いやそう言え少年!!」
「ふっ、どうだろうな」
「貴様ぁぁあ!!」
俺の目の前では真っ黒な制服に身を包み、深めに帽子をかぶった看守風の女性が目の前の机をバンバンと強く叩きまくる。その奇行を止めるために彼女の部下らしき者が、懇願するように俺の方を見つめる。
しかし俺にとって関係のないことだ。看守風の女性から存分に罵声を浴びると、現状を確認するためにいくつか質問をした。
「そんなことよりもお姉さん、話は変わるが、今が月暦で何年か教えてもらってもいいだろうか」
「は? 今は九百五十年だが? よくもそんな図々しい態度が取れるなぁ。クソガキ」
「なるほど……どうやら正確に時間と俺がすれ違っているようだな」
よ俺がアプロのダンジョンを攻略したのが、月暦七百五十年だったから、丁度あれから二百年経過しているというわけか。さすが女神さまだ。無事二百年後に転生させてくれたわけだ。あとで教会に行って拝ませてもらおう。
「ゔっ、ちょっと、ほんときつい……」
「待って! こんなところで吐かないでくださいよ!」
看守風の女性が、俺の顔を見て吐き気を催している。今のやり取りのどこに嘔吐く要素があったのか、全くもって理解できない――――はっ、もしかして顔か? そういえば転生してから一度も自分の姿を確認していないことに、今更ながら気が付いてしまった。
「す、すまない。手鏡などを貸していただけないだろうか?」
「どうした、生まれたてのゴブリンのように震えて」
彼女の部下と思われる男性が持ってきてくれた手鏡を恐る恐る覗くと、そこには息を呑むような絶世の美少年が映っていた。
白くまっすぐ伸びた絹のようなの髪の毛に、見る者を吸い込む魅惑的な瞳。全体的に線が細く、ぷっくらとした唇が、鏡に映る少年に中性的な印象を与えている。まさに、我がライバルであったフロードと同じ系統の見た目。つまり女性に群がられるための見た目! 前世の獣じみた外見とは完全に正反対だ。
(完全に大成功じゃないか。しかしおかしいな。だとしたらこの女性はどうして俺のことを見て頬が紅潮しないのだ。もしかして厚塗りか? 厚塗り化粧のせいか?)
不思議に思って看守風の女性の顔をじっと覗くが、どうも厚塗り化粧をしているような肌にはとても見えない。目がキリっとしていて、しっかりと鼻筋が通ったその見た目は、たとえスッピンでも化粧を塗りたくったそこら辺の女性では太刀打ちできないだろう。
「お前みたいなゴミが私をジロジロと見つめるな。それよりも貴様、身分を証明できるものは持っているか……いや、全裸で捕まった人間がそんな物持っているわけがないか」
口わっる。しかし反抗するための材料がないのも事実。
「……それは、はい。すみません」
なんだか居た堪れなくなって、足をムズムズさせながら謝ってしまった。
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