第5話 『秘密会議』
一同はレブンの用意していた裏道を通り、難なく監獄を脱出することに成功。
「仮にもこの国一番の監獄なのに……」というサラの虚しいつぶやきも虚空へと消えていった。
レブンが案内した場所は、表向きは夜に経営するバーだった。しかしその実態は情報屋の経営する情報交換所であり、そこの店主と顔馴染みであるレブンは、地下にある物置を度々使わしてもらっていた。
この店の主人は、年齢が四十代ほど。外見もオールバックにした茶髪に、整えられた髭くらいしか特筆してあげる特徴はない。しかし、情報屋である彼にとって、目立つことはあまり良しとしていことから目立つ格好は避けている、という背景があった。
「ようレブン。今日は連れがいるんだな」
「そうなんだよね。レイトさん、久々に地下借りていい?」
「懐かしいな。いいぜ、好きに使いな。お前のおかげでこっちはいつも助かってるんだからよ」
「恩に着るよ」
レブンはこの街の様々な人にコネクションがあり、レイトの情報収集に貢献してた。その代わりとしてよく地下の物置を使わせてもらっている。
「にしても2人とも偉いべっぴんさんだなぁ。どこで引っ掛けてきた?」
「ふふ。秘密の娼館さ」
「お、おいマジかよ……」
「もちろん、冗談さ」
「……期待はしてなかったぞ」
(のう主。この小僧は召喚魔法が使えるのか?)
(いや、しょうかんってのは今回別の意味だ)
(ふむ。ではどんな意味じゃ?)
(女性にお金を払って性行為する場所って意味だな)
(なるほどのう。主は興味ないのか?)
(ないことはない)
(うむ。人間の本能じゃからな)
「その兄ちゃんもまた癖が強いなぁ。盗賊かなんかか?」
今のルキは、素顔を隠すために全身を黒の外套に身を包み、深くフードを被った上に、口元だけ覗かせたマスクを被っている。
「そんなところだ。少しの間厄介になる」
「構わねぇが、ちゃんとした厄介事は持ってくるんじゃねぇぞ」
「「「「…………」」」」
「おいおい、全員目を逸らすとは何事だよ」
「……おっちゃんには悪いと思ってるよ」
「嘘でも安心させてくれよ!?」
「ま、死ぬことは無いから安心してよ」
「ちっとも安心出来ないんだが!?」
「ご迷惑をおかけします」
「今一番聞きたくないセリフだな……」
「でも、楽しいくなることには違いないから」
そういうレブンに、レイトは嘆息しつつも柔らかな視線を向けた。
「なんにせよ、元気になって良かったな。お前はここ数年、退屈そうにしてたからな」
「まあね。んじゃ、部屋借りるよ」
「はいよ」
そうしてレブンはカウンターの中に入っていく。
「みんなも付いてきて」
颯爽と地下へ降りていくレブンを見送って、レイトは三人に目線を向けた。
「君たちもレブンの友人ならいつでも使っていいよ。バイトで来ましたって言ってくれればカウンターに入れてあげるから」
「「ありがとうございます」」
「世話になるな」
レイトの人の良さは、荒くれ者を相手にす情報屋としては致命的なのではないか、そんなことを考えるサラであった。
「さあ、計画の詳細を詰めようか」
レブンたちは、机を囲うようにして集まった。
「そうね、まずは王宮への侵入方法だけど……」
シーナはここに来る道中で考えていた案を言おうとしたが、
「それは大丈夫。さっき通った裏道を使えば王宮にも行けるから」
「なら解決ね」
頼もしいレブンの提案が飛んできた。
「んで、約束の日はいつなんだ?」
「明後日よ。明後日の19時から」
「なら物資とか調達する時間はあるな」
ルキは手慣れた感じで進めていく。
(前回の旅で慣れているんだろうな)
サラは、頼りになる気持ちの中に、微妙に違和感が混じっていることに見て見ぬふりをした。その気持ちを紛らわせるためにも、気になったことを聞いてみる。
「何を用意するのですか?」
「まあ主に脱出用の道具だな。その辺の話は俺たちで詰めるか」
「いいね、久しぶりに楽しめそうだ」
「お前、さっきから楽しみすぎだろ」
「まあ僕からしたら、ルキがお姫様を救う手助けをするわけだしね」
「まあ……そう聞くと確かに、お前は、楽しめそうだな」
「そうなんだよ。楽しむなと言うのは無理な話だね」
「成功すればなんでもいいさ。シーナたちはこの後どうするんだ?」
「私たちは別に宿をとっているのでそちらに戻ろうかと思います」
「王宮へ招待されてるのでは無いのか?」
「ええ。打診はされましたがお断りしておきました。多分何かと拘束されてしまうので」
「それに、グレースのいる王宮の空気は極力摂取したくありません」
(サラはグレースに恨みでもあるのか?)
「なら、シーナさん達もこの地下部屋に泊まったら? ルキは当然ここに泊まるよね。作戦会議もしやすいし、何かと行き来しなくていいから便利だと思うけど」
「そうですね。そうします。サラも平気ですね?」
「ええ。私は戦時中どこでも寝られるように教育されましたので」
「あなたのその騎士マウントはどうにかならないのかしら……」
そんなやり取りを経て、2人は現在泊まっている宿屋へと荷物を取りに行った。
レブンも物資の調達に行き、部屋にはルキ1人が残る。
ルキが1人になったタイミングで、悪魔は霊体から現界し、浮遊しながらルキの肩に肘を乗せて頬杖をつく。
「怒涛の一日じゃったのう」
「まあな。昨日の夜には今日がこんなになるとは予想出来なかったな」
「そういえば昨晩は主と飯の献立予想をしておったな」
「ああ、結果2人ともハズレだ」
今晩のご飯は、シーナたちと食べる初めてのものだから、という理由でレブンが派手に振舞ってくれた。おそらく、監獄にいたままであったらルキの予想していた通りの堅パンにシチューであっただろう。
「にしても主よ。また封印に回るということは妾の力を使うんじゃろ? 今から妾の機嫌を取っておいた方が良いとは思わぬか?」
そう言って笑を浮かべる悪魔、厄介ごとの気配をヒシヒシと放っていた。
「……まあ叶えられることなら叶えてやらんことも無い」
「ふふふ、よくぞ言った。では、これから妾の考えた最高に面白い展開どおりに動くのじゃ」
悪魔の久々に見るイキイキとした姿に、ルキは今後訪れることが確定している疲れきった自分の姿を想像して、辟易していた。
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