第31話

 先程より強くなった様に思う雨音を聞きながら、どれ程そうしていただろうか。少しずつ、田口の震えが収まっていくように思えたが、代わりに、私の脛にあたっていたペニスが、膨らみ、固くなり始めていた。
 田口は息苦しそうに顔を上げると、出したい。と、言った。私は、それで楽になるのかと訊くと、自分はそれで更に辛くなる様な良心がなかったから、きっとこういう事になったのだ。そう言い切る頃には、田口はもう私を下にしてその上に覆い被さっていた。


 あっという間に上着を剥ぎ取ると、腋窩から左側の乳房を撫でる様に揉み、反対側を舌を転がす様に舐める。そのなされるがままを、私はぼんやり眺めていた。


 それに気付いたのか田口は顔を上げ、「君だって、俺とこういう事をしたくて、拾ったんじゃないの?」そう言うので、私は思わず声を上げて笑った。その声は、からからに乾き、蔑むような色を帯びていた。しかし、そんな事はどうでも良いとでも言う様に、田口は上半身を起こすと眉間に皺を寄せ、私のズボンを擦り降ろすと、下着を横にずらし、そのまま勢い良く硬くなったペニスを挿れた。


 私はその痛みに声を漏らした。それと同時、私がまったく濡れていない事に、田口も気づいた様だった。肩で息をしていると、そっと私の頬に触れた。瞳の奥が、出会ったばかりの頃の様に、微かに揺れているのが分かる。
「怖い?」そう訊くと頬から手を離し、その横に腕をつくと、勢いよく腰を振り始めた。


 私は田口の背中にしがみつき、動きに合わせて声を上げる。それが善がる声ではないことがバレない様に、必死に色を含ませる。そんな必要も道理もなかったが、そうしないといけない様な気がした。



 暫くすると、ぽたりと、私の首筋に何かが伝う。布の擦れる音とは別に、鼻を啜る音がする。

 


 私は左腕に力を入れ、思い切り体を捩ると、田口は横に倒れた。背中に回していた腕を肩に掛け直し、ぐっと這い上がり田口と目線を合わせると、頬を伝う涙をそっと舐めた。


 再びその小さな頭を抱きしめ、「泣ける様になったなら、もう大丈夫だよ。もう、大丈夫だから」そう小さく耳打ちすると、そのまま田口は咽び泣いた。


たった一人、世界の果てに辿り着き、聴き耳を立てる者などもう誰も残ってはいないとでも言う様に、夜が明けるまで、ずっと。

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