主観的になれない話。

るしお

主観的になれない話。

 私は主観を持たない人間だ。

 難しい言葉で言うとマクロ的視点に長けた人間。長けたというのはプラスのように聞こえるが半分皮肉が混ざった言い方である。

 この主観のない、客観主義的な考えは私の人生生活にほんの少し悪影響を及ぼしている。


 考えていることをうまく言語化できないというのは、この客観主義的な考えが強すぎるあまりに起きる弊害である。

 考えながら書いていると雲の形が変わるように思い浮かんだことがどんどん変化していくのだ。書き進めているうちに、さっきまで書いていた内容とまるで違う内容に変わっている気づく。そして前の文章を消していると今度はまた別のことを思い浮かぶ。そうして真っ白になる。

 これは私自身に確固とした主観がないためだ。人の意見に流される客観的視点からでしかモノを語れない。その性質が及ぼす悪影響である。

 だから感想文を書くのは苦手だ。読み終わった後、たしかにあった満足感は長ったらしい文章を書いていくうちに次第に薄れ、なぜ満足したのかを忘れてしまう。

 映画とかでもよくある。観終わった後は一緒に見た友達としばし語れるくらいの熱量はあるが家に帰る頃には「あの映画は本当に面白かったのか」と冷静になってしまう。ポテトも揚げたてが美味しいのと一緒だ。冷めたら急にダメになる。

 

 机に向かっていざ何かを書こうとしても最初にあった熱は何処へやら、勢いで書いた文章は次第に失速し、数千字で止まってしまう。


 そうだ、やる気の問題だ。

 私は熱しやすく冷めやすいのだ。揚げたてのポテトのように(この例えは我ながら気に入っている)。


 仕事が長続きする人間は主観的であると同時にきっと何かにやり込める才能があるのだと思う。

 とある実業家がテレビに出ていた。人に出来ることは限られていると割り切れる人なんだと思った。生きている範囲内で精一杯楽しむ。楽しいと思えることがあったらそれに打ちこみ、深掘りする。ある程度焦点を絞ることが大事なのだ。

 根っこの部分で私は私自身を信用しきれていない。そのため自分の限界が分からない。底知れないという評価は他人から与えられるものだが、私は私自身が底知れない人間だと思える。もし足をつけてとても浅かったら、そんな不安がある。

 臆病な私は何事も続かないのだ。


 ゲームとかでもそうだ。同じゲームをずっと続けてやれる人間はきっとこの実業家と同じ人間になれる素質があるのだろう。

 「マインクラフト」はその創造力と自身の決めた目標に向かって「続ける力」が鍛えられる良いゲームだ。世界中でこのゲームは評価され、海外では授業などで取り入れている学校もあるという。

 案の定、私はマインクラフトなどのゲームにハマらない。「RPG」にハマる。

 RPGは良いものだ。自分で目標を決めなくともゴールまでの指針が既に設定されているから、それをただなぞればいい。敵が強くて先に進めないなら、道中にうろついているザコ敵を狩ってレベルを上げる。レベルを上げれば簡単に突破できる。クエストをクリアして報酬をもらう、もらった報酬を使って武器を強化する。考える必要がない。おまけに映画一本ぶんくらいのストーリー付きだ。

 私は生きている間にありとあらゆるジャンルの作品に触れたい、欲張りな人間なのだと思っていた。そのために一つのコンテンツに拘らず色んなゲームに手を出しているのだと思っていた。しかしこうしてみると考えるのを放棄しているだけなのだった。そのコンテンツを極めていく上で自身であれこれ思案する工程を省いているだけにすぎなかった。

 やるゲームは熱がある時に集中してやる。冷めたらもうやらない。それを繰り返していると後ろには大量の作品が散らばっている。大昔に触れたものは若干記憶が薄れている。こうした「広く浅い」手の出し方は仕事が長続きしないことにも繋がっているなと思う。


 「広く浅い」は人間関係でもそうだ。その場その場で色んな人と話すことはできても、時が経てばその人とは話さなくなる。疎遠という言葉とは少し違う。最悪、関係がだいぶ悪化していることもある。

 広い分野でそれなりに手を出してきた私は最初のうちは人と接するのに長けている。しかし伸びない。器用貧乏とはまさしくこのことだ。そのことで最初は尊敬の念を抱かれるが、長い付き合いをしていくと大したことない人間だとバレてしまう。魔法が解ける前に距離を置くのはこうした魔法切れを起こさないようにするためでもある。

 とするとこうだ。読んでいる人の中には昔からずっと付き合いのある人、親友のような人はいるだろうか。そういう人が一人でもいる人はおそらく私のようにはならないので安心してほしい。いない人は私と仲間だ、不本意ながら。


 

 色々書いてきた。珍しく最初に言っていること通りの文章になったのではないか。いや、そうでもないかもしれない。臆病な私が不安になって消す前に、さっさと投稿して楽になろうと思う。

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