第12話

   ー相変わらず、綺麗な爪してるね…ギルバートー


男は、掴まれている自分の手首の方を見て言う。


「さっさと失せろ、イカレ天使」


ギルバート…?とか言う悪魔が見下しながら言った。


「“イカレ天使”だとか…酷いなぁ」


「いいから… さっさと失せろッ…」


その悪魔が語尾を強めたと同時に、


「イタタタッ……。強く握り過ぎだよ…。」


握っていた手首に力をいれたようだ。


「でもさぁ…、ギルバートが離してくれないと、さっさと失せられないんだけど…」



   ーホントは僕を離したくなかったりして…?ー



「チッ…、いいから早く…」


その悪魔はそこで、強く握っていた男の手首を、



          ー失せろー

 


離した。   


*************


「フフッ……。離してくれなくても良かったのに…」


前かがみになっていた男は、兄さんの顔から離れ、その悪魔と同じ目線に。二人の顔の距離もかなり近い。


「ギルバートにとって、この人間はなんなのさぁ…?そんなに大切なのかい?」


男が微笑みながら質問した。

そして、その悪魔は、


「あぁ、そうだ」


真顔でそう答えた。

その男も、一瞬にして真顔になり、


「ふ~ん…。あぁ、そう。」


答えた。

そして、またすぐに微笑み、


「まぁ、いいや。また、今度ね。」


そう言って、二人から離れ、窓の方へ向かった。


         

          ーあっ!ー



「そういや、そっちの面白い顔の浴衣の人…名前、何だっけ?」

 

窓の方へ向かっていた男は、今度は、オジサンの方へ振り返り、話す。


「暁じゃ。 お主…、この儂の顔を忘れたと言いたいようじゃの?」


暁が、真剣な顔で言う。

すると、男も真剣な顔して、


「“顔を忘れた”と言われたらそれはちょっと間違いだよ。 むしろ君の顔は…端から、“眼中に無い”、…が、正しいね。ていうか、今の“顔”の方が相当に面白いからそっちの方が覚えられる気がする」


と、言った。


「なっ…!何おぉ!このクソ“天使”がッ!!」


暁が怒りを露わにした。

真剣な顔をしていた男も、だんだんとニヤケてきて、


「あー、怖い、怖い、…“鬼さん”、は。」


と、口調は明らかに暁を挑発している。


「こんっ…にゃっ…ろぉぉ…!」


その挑発にまんまと乗る暁だったが…、


「うん、僕、もう帰るね。」


そう言いながら男は、窓枠に左足を上げ、


「今度は“皆んな”で来るからさ、楽しみにしててよ」


右足も乗せると、さっさと窓から飛び降りた。


***************************


藤江凪、僕は…、


その男が窓から飛び降りた後、急いで見に行こうと思った。…が、立ち上がろうとした時、僕のもう片方の足を掴む人物がいた。


見れば…、


(確か…、この人は、…些々波ささなみって奴…だったか…。)


「こんな時に…」



      ーバタッ、バタッ…、バタッ…ー



その時、何かが羽ばたく音が聞こえた。

僕は音が聞こえた方、窓の方を、すぐさま見た。


視界の先には、今飛び降りた筈の“男”が背中に、“大きな白い羽根”を生やし、そして軽やかに…、


         ー飛んでいったー



「本当に非常識人だったんだ」


僕はボソッと呟いた。


*************


それにしても…。


僕はふと我に返り、


「おいっ…。…何でお前も僕の足を掴んでんだよ…!」


そいつの顔に、僕のもう片方の足を強く押し付けながら言った。


「い、痛いです…、“閻魔様”」


“閻魔様”?


次にこの鬼の…確か、些々波?(だったけ)が言って来た。

だから僕は、足を押し付けたまま、


…押し付けたまま…、


考えた。


…考えたのだ。


どのくらい経ったか分からない今迄のやり取りの中で、この男は色んな意味で面倒くさかった…。


(口うるさかったし)


だったらこのまま…


よぉーく、よぉーく、思い出して…、


頭をフル回転させて、


「そ…」



ーそうじゃ!わ、儂は閻魔じゃ!                           

             …も、文句を云うではない!ー



一応、真似たつもりで言ってみた。


…言ってみたが…。


…………………。


言ってみたが…、


…………………………、


言ってみた、…がッ…!、


……………………………………………………………………。


言って…


「いや、長過ぎだから。いつまで黙ってんだよ」


僕の片方の足はまだ、些々波の顔に押し付けられたまま。

ちなみに今は靴下は履いていない。


そして、いつまでも黙っていた些々波が、ようやく口を開いた。


「黙ってるも何も…、まずはこの“臭い足”を除けてくれ…」


ん…?


この言い方だと…、流石に“閻魔”じゃないってバレたか…。


僕は足を離した。

すると、些々波は僕の足の方を見て、


「この人間の足がまさかこんなに臭かったとは…… 凪…、と言ったか…、閻魔様に恥をかかせおってっ…!」


(いや…、バレてないか?)


次に、僕の方を見て、


「早急に消臭スプレーで除菌しなくては…!」


言った。


”何だコイツ“と思った僕は、


「本人に向かって失礼だな…お前…」


と、言った。


「フンッ…、やはりな。」


鼻で笑う些々波。



     ー閻魔様の足はこんなには臭くないー



「やっぱ失礼だな、お前」














































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