第11話

        ーさっさと消えてよー



         ーパチッンッー



今あるこの光景は、神の指パッチンを合図に、消えた。



***************************



「フフッ…、へぇ~…」


ーそして、


今迄のやり取りをふすまの隙間からずっと見ていた、



        ー立ち去る者、あり。ー



***************************




        ーこの冷たい感じ…ー



「…兄さん…」



            “ハッ”



……、っと、僕は瞼を開けた。


すると、僕の視界には天井が。その天井には赤い“何か”、が…。


すぐにここが、何処なのか分かった。


兄さんの部屋だ。尚且つ、ベッドの上。


僕は、また瞼を閉じて、



       ーあれは夢だったのかー



と、そう思った。


“あれ”、と言うのは…、今迄、出て来た人達の事だ。


当然か…。



ー“鬼”や“悪魔”、それに“神”なんて実際に居るわけがない。ー



そしてまた、瞼を開け、何となく重い自分の上体を起こしながら、


「ていうか、居てたまる…」


言ってるそばから、


「か…。」


僕の周りに、人達。



        ー全て、現実だったかー



***************************



「いや、これも夢か、寝よ」


僕はそう言ってまた寝ようとした。すると、


「凪…。」


兄さんの声が聞こえてきた。


「いや、これも夢か…」


またそう言って寝ようと…、


「いや、もう現実だから…、これ以上寝ないで、凪」


兄さんの声がまだ聞こえる…。だが…、


「これも夢…」


寝ようと…


「いや、だから現実…」


寝よ…


「もうメンドクサイからッ!やめてッ!」


「あ、そぉお?」


=============



僕と兄さんの距離は約2メートルくらいだろうか。

間にはテーブル。…と、人、人、人、


男、女、子供。


うつ伏せやら、仰向けやらで、寝ている。


そしてさらに、落書き顔のあのオジサンが僕の片足を掴んで寝ていて、口も開け、さも、ヨダレも垂れそうで、そんでもって、


「わ…か…ひな…」


とか、寝言を言っている。僕はイヤな顔で、


「この変態が…」


オジサンの顔を蹴った。その衝撃でオジサンは目を覚ました。


「って…あれっ?わかひな…は?」


オジサンは夢を見ていたのか、寝ぼけている。

さらに、その顔で僕をみて、


「…って、“閻ちゃん”…、何してんの?」


と、言ってくるもんだから、僕は蔑んだ目で、


「お前がな?」


で、もう一回、蹴ってあげた。


=============


「ちょ、ちょっと…、閻ちゃん、酷いじゃないか……。それに…、」


オジサンが近くにあった手鏡で、自分の顔の状態を確かめながら言った。


「“女の子”が、いきなり足蹴りなんて下品じゃぞ」


僕に向かって話すが、


「いや、僕…、男だから」


そう返した。


するとオジサンは、あっけらかんな顔して、


「……まぁ…、“見た目”はね…」


「“見た目”って…中身だって男だ……」



           ーあ…。ー



戻ってる…。


いつの間に…。


そういや、さっきから普通に話してるし…。

 

僕は周りを見渡し、間抜け顔のオジサンからキョトンとしている兄さんへと視線をずらした。


「やっぱ、現実だ…」


自分の手を見て、開いたり閉じたりして確かめる。


「凪、さっきから変だよ…?どうしたの?」


兄さんが心配そうに話しかけてくれた。僕は兄さんを見て、


「えっ…あ…あぁ……。別に…」


すると、

「どうしたの??」


何か横から、人を馬鹿にするような顔でオジサンが僕に向かって言ってきた。


           “グホッ”


「なんか腹立つ…ッ…」


僕は、オジサンの顔中心を左手で殴った。


「イダッ…」


オジサンの顔中心が綺麗に窪んだ。



ーへぇ〜、その殴り合い、なーんか、楽しそうだねぇ…。ー


          

         ー僕も、混ぜてよ。ー



僕の右斜め後ろ、兄さんの左側、オジサンの左斜め前の方。


つまり、窓の方。

そこから新しい声が聞こえたのだ。僕はまた嫌な予感を覚える。


そして、皆一斉に、声がする方を向いた。


そこには、


窓枠に寄りかかり、僕の方を見て微笑んでいる灰色の長髪の男がいた。


その男は、赤いシャツを着て、黒い蝶ネクタイに白いスーツ姿。

それに…、


        ー赤いロングブーツー


部屋の中に居るのに、何故かブーツを履いている男。


そして、窓!


明らかに可怪しい。


僕はその男を見て、


「あのっ!貴方はその窓からやって来たんですか?」


不機嫌そうに質問した。

返答次第では、ただではいかない。


「あぁ、そうだけど。問題でも?」


男は、軽い口調でそう答えた。


あぁ、やっぱりそうか…。


呆れた。


「問題大有り…。」


「何処が?」


まだ寄りかかっているその男は、即答だ。


「はぁ…、“何処が”って…明らかに窓から入って来る事自体、間違いだと言ってるんだけど、“非常識人”」


「へぇ~…。僕みたいな奴を“非常識人”と言うのか…。…じゃあ、今から…」


男がそう言うと、寄りかかっていた窓枠から離れ、兄さんの方に近寄って行った。


「この“非常識人”に君達は…」


そして男は前かがみかななり、座っている兄さんの顎をクイッと上げ、兄さんの顔、スレスレまで近づき、



         ー「殺される」ー



「兄さんッッッ!!!」


と、僕は叫んだ。


何故なら、近寄った男の髪の微かな隙間から光る“モノ”が見え、すぐにそれは、『ナイフ』だと分かったからだ。


「じゃあね…」


そう言った後、男はナイフを持った右腕を振り上げ、そして勢いよく振り落した。



       ーもう、駄目だと思った。ー



その時、



 ー「相変わらず、綺麗な爪してるね…、ギルバート」ー



男が振り落した手首を掴んでいたのは、最初に出会った、



     ー「さっさと失せろ、イカれ天使」ー



悪魔だった。

















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