第9話

……………………。


召使い2号のデジャブのような挨拶が終わると部屋の中は静かになった。 


「………って、戻…り…」


「おい」


「あっ、はい…!!」


神が召使い2号に話しかける。


「…………、廊下は走るな」


「えっ!?あっ、はいッ!!申し訳ありませんでしたァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


叫びながら謝る召使い2号。


「もう五月蝿い…。早く中に入ってもらって…」


いつも投げやりだがそれ以上の投げやりになる神。


「それでは只今…」


召使い2号がそれぞれ連れて来た客人を、また大声で、


「おーいッ!!、お前等ァ!!、早く入ってくれッッッー!!!」


叫び、


「僕達、こんなに近くに入るのにね」

と、ナツキが、

「客人に向かって“お前”とは……ゴニョゴニョゴニョ……」

と、些々波ささなみが、


それぞれ、小声で言うのであった。 



***************************



「ていうか…お前等、ゾロゾロ来すぎじゃない?…パーティーじゃないんだし…」


お菓子を食べながら神が言う。

パーティー気分なのは神の方である。


この部屋の広さは約30畳の和室。

多少の人数なら、全然、問題はない。


「どれ…、」


小鳥遊たかなしは、ゾロゾロと部屋に入ってくる客人を、


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ…、い…、む…、な…」


数え始めた。

そして、


        ースゥーッ…トンッ…ー


ふすまが閉まったのを合図に、


「12人ね……。」


   ー(まぁ…パーティーでも開こうかの…)ー


そう思いながら、小鳥遊たかなしは、黙って座布団を敷いた。



***************************



神から5、6歩先に、前から順に2・5・5づつ、横に敷き、それぞれ座っていった。


神の一番前に座ったのは見慣れない二人。


「じゃあ…手っ取り早く。…伊波いなみ、ちょっとゴメン…」


「うん」


そう言って、伊波を一旦避けさせ、神は立ち上がって二人の方へ足を進めた。

そして、二人の前まで来ると神は、しゃがみ込み、


「え…っと、閻魔はどっち?」


「儂じゃ」


と、神から向かって右の人間が返事をした。


「へー……」


神の前だというのに、あぐらをかいて座っている閻魔。さらに、腕も組んでいる。尚且つ、鼻息も出そうな勢いだ。


「えーと…何だっけ…名前……?。……小鳥遊たかなし


「はい、藤江 牲架せいかでございます」


神の質問に小鳥遊は答えた。


「あー、そうそう」


しゃがんだままの神は、左膝に左肘をのせ、左手の掌に顎をのせ、尚且つ、右手には細長のチョコ菓子を持ち合わせ、一口食べては閻魔を指し、


「で、君はその『藤江牲架』、なの?」


この質問を待っていたかのように、閻魔は下を向いた。


閻魔と一緒について来た、暁、些々波ささなみ和華日奈わかひなは、それぞれ後ろの方で唾を飲んだ。


「フッフッフッ」


そして、自身有り気に閻魔が顔を上げ、ちょっと声を低くして、


    ー「はい、は、藤江牲架だ」ー



           ー“え”ー



閻魔について来た3人(+1(凪))が、同時に声を上げた。

すると、すぐに閻魔が、神の顔を見たまま、


「あっ……」


「へー、今の若い人ってって言うんだー、変わってるねー、君」


        ー(“いや言わないし”)ー


3人(+1)は、心の中で言った。


神は本当にそう思って言ってるのか…。


はたまた…疑っているのか…。


……………………。


暫く、神と閻魔が顔を合わせていると、


「もういいや。とりあえずオッケーってことで。次、サタン」


神が立ち上がった途端、閻魔は後ろを振り返った。そして、二列目と三列目にいる仲間達で親指を出し…、



      ーオッケーだったァァァァァァー



あったのだった。


一先ず、安心ってところだ。



          ーさぁ、次がー



***************************


続いて神は、正座をしているサタンの前に両足を左手で抱えるようにしゃがんだ。そして、右手にはお菓子。


さすがに神の前では、マントを脱いたようだ。

そのマントは膝の上に置くものもいたり、脇に置く者も。


「さぁ、サタン。お前は……お前は……おま…、何だっけ……?」


「藤江凪でございます」


「あっそうそう」


小鳥遊たかなしが直ぐに答えたが、『あっそうそう』って言った神は、どうせ最初から覚える気もなかっただろう。


頭の片隅にすら置いてない筈。


見つめ合う二人。



       ー「眼鏡、似合うね」ー



って、急に褒め出す、神。


急に褒められたサタン。


「え…、あっ、はい!あっ、ありがとうございます…」



気の弱いサタンは恥ずかしかったのか、膝の上に置いたマントをギュッと握り下を向いて言った。


そして間髪入れず、


「で…、君は、『藤江凪』って子?」


「えっ…え…あっはい…」


神がそう聞くと、サタンは顔を上げ、又もや、声をちょっと低くして、


「は、はい、僕は、藤江凪です」


その時、後ろに入る全員がこう思った。 


                                                        

        ーマネしてるー    

   

と。


だが、これはしょうがない事なのだ。


サタンが入っているこの体は既に『死体』。


元々、『死体』だから、無駄な感情がないし、無駄なお喋りもない。嘘を付き放題なのだ。実に都合がいい『死体』なのだ。


そして、喋れないが故に、サタンが出した答えが結局、“声を少し低くする”って事になったのだろう。つまり閻魔のマネだ。


サタンの顔が赤い。恥ずかしかったのだろう。


もう少しだ!頑張れ、サタン!!


………………………………………………。


だが神は、暫く、暫ーーく、サタンと見つめあっている。

さらに顔が赤くなっていくサタン。


「あ…、あのー…」


うっかり声が元に戻るサタン。はっ!、と思ったのか、


「あ…、あのー…」


と、声を低くしてまた言った。


すると、神は立ち上がり、


「オッケー、帰っていいよー、君達。伊波いなみ、おいでー」


「はい、お兄様」


この部屋を出ようと、妹の伊波を呼んでふすまの方へ向かった。


そこで、マナが、右隣に座っていたギルバートに、笑顔で、


「バレなくて良かったね」


と、小声で言った。


まぁ、本当にバレなくて良かったと皆も思っているだろう。


「あぁ、良かった…。さっ、俺達も帰ろ…」



         ーバタッッ!!ー



ギルバートが立ち上がりながらそう言ってる間に、前の方で音がした。


何の音かと思い、みなが同じ方向を見れば、なんとサタンが倒れていた。


「サタン様!大丈夫ですかっ!?」


そこへ、サタンのすぐ後ろで座っていたサタンの側近、ミヅキがサタンの肩を揺らしながら叫んだ。


続けて下僕達も立ち上がり、

”サタン様!サタン様!“っと、何度も叫ぶ。


そんな中、閻魔は、

「コイツ、大丈夫か?」と、些々波に話しかけた。


「大丈夫かどうかは分かりませんが…」と、心配そうに返すと、


     ー”ゲホッ…ゴホッ…ゴホッゴホッッ“ー


「ゔぅっ…な…に…」


どうやら目覚めたよう…


「ザダン様ァァァァァァァァァ!!!!!!ゔぉぉぉ心配しましたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」


さらに、叫び、サタンを抱き抱える、側近、ミヅキ。

あまりにも五月蝿い為、皆から、


     ー「ちょっとウルサすぎっ!!!」ー


と、言われた。だが、


「正にサタン様の一大事だったと言うのに、さっき叫ばず、いつ叫ぶと言うのだ。それに君達だって叫んでたではないか」


と、ミヅキが語る。


    ー「いや、程度というものがあるだろ」ー


と、皆がツッコんだ。


うん、確かに。



       ー「あっ…あの〜…」ー



そしてようやく、サタンが口を開いた。と、思えば、何処かよそよそしい。


「どうかれましたか?サタン様」


ミヅキがそう言うと、


「”サタン様、サタン様”って…誰の事ですか…? 僕は『藤江牲架』って言うんだけど…」


が信じられない事を言い出した。

そんな信じられない言葉に、皆さん、



           ー“え…”ー



それぞれ驚いていた。


それもそうだ。


下僕達は『藤江牲架』の『死体』だと知っていた。だから、この『死体』は一生動く事はないし、喋らない筈、だと。


一方で、側近のミヅキは『藤江凪』だと信じていた。


もう一方の方で、閻魔側の方達はというと、こう思った。



         ー思わぬ伏兵ー



だと。


そして、もう一人は、



        ー兄さんが、生きているー



と。


皆がそれぞれ思っている中、


ふすまの方へ向かっていた神が、の方へ戻って来た。そしてに顔を近づけ、低くなる神。


「君、さっきは藤江な…な……、な…、何だっけ…?」


「”凪“です」


小鳥遊がすかさず答えた。


「あ、そうそう…。『藤江凪』だと、言った……騙したの…?」


神は下僕達を見上げ、


          「俺の事」








 











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る