第8話

午前9時半頃


“ポキッ”、


“ボリボリボリッ”


  ー「あーやっぱ、チョコミント味は旨いよねー」ー


チョコミント味のお菓子を食べるこの藍色のモジャモジャ髪の男の名は、神。


「てか、アイツ等、まだ来ないの?観たいテレビが始まってしまうんだが…。ねぇ、そこの君ぃ、このお菓子、買って来てぇ。そのついでにアイツ等も見てきてよ。」


食べているお菓子を私に振って見せる。


       ーコイツは、わがままで、ー


「神様、わたくし小鳥遊たかなしでございます。何百年、お前…、貴方様と一緒に居るとお思いですか?いい加減に覚えてほしいんですが…」


「ウルサイ、キモイ、クソジジィ……。もう“タカハシ”なのか“タカナシ”なのか分かりづらい…。もう“タカシ”に改名しろ。てか、さっさとクタバレ、ジジィ」


          ー口が悪い。ー


「“ジジィ”でもいいですが、その…、今から客人が来る上、その見た時もないだらしない格好はやめてくだされ、客人に無礼ですぞ」


「え、どうしてぇ?」


「どうしてと申されましても、今、申したとおり、客人に無礼…」


「無礼も何も、俺より偉い奴が来るんだったらだけど…。その客人、偉いの?俺より」


「いや…偉くはないで…」


「だよねー。じゃ、このままで。これはね、“スウェット”って言って凄く楽なんだー、それにお腹も気にならい。お菓子も食べ放題。」


    ー「さっ、我が妹よ、こっちにおいで」ー


神がそう呼ぶ妹君の名は、伊波いなみ様。袴姿で黒髪ストレートボブの可愛いらしい女の子だ。

伊波様は、呼ばれるまま、あぐらをかいている神の太ももに座り、


「はい、あーん…」


      ー“ポキッ、ボリボリボリッ”ー


神の『お口あーん』でお菓子を食べる。  


「お兄様、これは、“うまい!”ですね!」


おしとやかな笑顔の妹には、


「だろー」


メチャクチャ、甘い。


神は、妹君にしか笑った顔を見せない。我々には、いつも眼中になく“どうでもいい”というリアクションしかしないのだ。


神は、妹君がとてもとても、可愛いくてしょうがないのだ。


もう、月とすっぽん。我々の扱いが。


『神』なんじゃからみな、平等に扱ってほしいものじゃ。


そして、今、神との距離は5、6歩の近さ。


          ーなのに、ー


「おーーい、クソジジィ…。早く、お菓子買って来いよー」


さも、50歩も100歩も、そのまた何倍も何百倍も何千倍も遠くに居るかのように、大声を出すのだ、この神は…。


          ーもう…、ー


もうもうもうもうもうもうもうもうもうもうッ!!!


ウッッッ!セッェぇぇぇ!!ナッァァァァッッッ!!!


クソガキィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!


って、言うのは、声に出さず心の中で。


「えーっと、神様…。この距離でそんな大声を出さずとも十分、聞こえます」


「あ、てっきり耳が遠いのかと思って、つい」


(クソガキがぁぁぁぁぁぁぁ)


もう、ジジィの怒りバロメーターが爆上りじゃよ…。


「ちょっ、ウルサイ…“タナハシ”!」


伊波いなみ様が私を見上げて言った。しかし、


“タナハシ”じゃねーし。

もう、覚える気ないよね?コイツ等。



        ー「えー何何?」ー



そこへ、大声を聞きつけた“七斗李なとり”が部屋へ入り、こっちに近づきながら、


「何か大声が聞こえたんだけど…。どおしたの?“タバタ”さん」


私に向かって言ってるようだが、“タバタ”でもねーし。つーか、最初から聞いてたろ、コイツ。


はぁ……。もう…、ジジィは疲れたよ、コイツ等にも、ツッコむのも。


「もう嘘だよ、“タカナシ”さん。冗談だから。それに、神様も妹ちゃんもあまり冗談言わないであげたら? 本気にするかもだよ」


後ろからジジィの左肩を、手でトントン叩き、神の方へ歩きながらジジィのフォローをする、神の親友様、七斗李なとり様。袴姿の黒髪マッシュショートで、まさに今どきイケメン。


唯一、まともに近い男かも知れん。


「え…、俺は冗談は言わない…いつだって本気だぞ」

「じゃ、伊波いなみも」


「うーん…。“じゃ”って事は、伊波いなみちゃんは本気じゃないんだね?フフッ、良かった」


うん、まともじゃ。


一、二歩の距離で上から笑顔で返す七斗李なとり様に、頬を赤らめ、顔を伏せる伊波いなみ様。


それを真横で見た神は、七斗李なとりを見上げ、いつもよりちょっと低い声で、


「おい、なと……、」



      ースゥーッ、ドンッッッ!!!ー



同時に、神の言葉を掻き消すように勢い良くふすまが開いた。そしてみなが同時に同じ方向を見た。


勢い良く開けたふすまは半分以上は閉まってしまったようだが、それでもソイツは敬礼をしながら、


「チワーーーーーッスゥ!!只今、戻りましたー!!!」


挨拶をした。


どうやら、召使い1号が一組目の客人を連れて来たようだ。


視線が召使い1号に集まる。


そんな中、神は左手に持っていた食べかけの細長いチョコ菓子を、召使い1号に向けた。


「おい、お前…、いつもいきなり入ってくるなと言ってるだろ…?」


声を荒げる訳でもなくいつものトーンで注意をする神。


そして、召使い1号はみなに見守られる中、頭を掻きながら、


「えーっ…と、すみま…」


      ードッドッドッドッドッ…ー


と、いきなり誰かが走っ来る音。


       ースゥーーーーーーーゥッ…ー


と、開いているふすまを何者かの影が通り過ぎ、


半分以上閉まったふすまに現れては、


「チワーーーーーッス!!!只今、戻りましたー!!!」


どうやら、召使い2号も帰って来たみたいだ。





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