第7話

午前8時48分頃、地獄城、ある部屋で。


「って、…あれ?停電ですか?…このタイミングで…」


側近が落ち着いた声で言う。


サタンの魂に触れた途端、突然、停電したのだ。


まぁ、停電したというか、ここは“電気を消した”が正しい。


何故なら、死体を操っているナツキが、死体から離れるタイミングがない事に気付いたからだ。このまま順調に事を運ぶとなると、サタンの魂が入ったこの死体とナツキが大変な事になる。


だから、触れた衝撃?というか何らかの理由をつけて、このタイミングでハンガンに電気を消させたんだ。そして、離れたタイミングで、


カチッ


「あっ…点いた」


また、点けさせる。


「急な停電。…さては電気の使い過ぎ…。早急に節電せねば…」


側近の今の話を聞くと、普通に消したと気付いていない。それでいい。


「あれ?ナツキさん、居たんですね。…いつの間に…。まぁそれはいいとして…。ですが、」


話をすぐ切り替え、少し引き気味の側近が、


「人間…、もっと……、いい倒れ方があったんじゃ…」


そう言うのも、


ベッドの背もたれにうつ伏せで、両手両足を伸ばし倒れているのだ。確かにもうちょっと別の倒れ方があっただろう…。


こんな恥ずかしい体勢、気の弱いサタンが起きたらどうする…。


俺は、ナツキに睨みを効かせた。そして、目が合ったナツキはすぐ視線を反らした。


  ー「さぁ、起きてください。貴方は誰ですか?」ー


側近がうつ伏せ状態の“死体”に話しかけた。この体勢を直そうという発想は、誰もいないのか…。つーか、お前が直せよ、側近。


今度は側近に視線を送った。


だが、気付いてんのか気付いてないのか、オール無視だ、コイツ。サタンの側近のくせに役に立たない奴だ。


もうここまで来たら、起きる前に体勢をなおす。俺が。


ベッドの上にも、もう、サタンの魂も見当たらないから時間の問題だ。


           ー急げ。ー


俺は今、足を一歩前に…、手を伸ばし…、


       

          ー動き出す。ー



そして、この死体も、


「って…あれ…」


「あっ…」



         ー動き出した。ー



何か気まずい感じになってしまった。


「ギルバート、一体何を…」


「あ、いや何も…」

「そうですか…。では…。さぁ、貴方は人間ですか?それとも…、」


俺は静かに元の位置に戻った。


そして、次第にモゾモゾと動き出す“元死体”がベッドに座り、何故か俺を見上げ、側近の質問に、


「うん、ボクはサタンだよ」


笑顔で答えた。



***************************



「ねぇ、ミヅキ…?」


サタンがまた下を向き、話しかけている相手は、


「はい、どうされましたか?」


側近だ。

そういや、そんな名前だったけ…。

そして、側近がいる方じゃない方を見上げ、


「何も見えない。」


(あ、そういえば眼鏡掛けてたっけ…)


俺はスーツのポケットから、この人間が掛けていた『眼鏡』を、出し、


「サタン様、この人間が掛けていた眼鏡です」


掛けてあげた。

勿論、綺麗に拭いてある。そして、俺を見て、


「ありがとう、ギルバート」


サタンはお礼を言った。


「いえ、有難きお言葉」


このやり取りを見ていた側近は、


(目が悪いのに眼鏡を掛けないでここまで…?)


不審に思った。謎だ。


「それで、ボク……」


何故か、サタンの声が暗くなった。


「何だか変な体勢してたんだけど…何か…皆の前であんな体勢…」


そして涙目で、


「恥ずがじがっだぁぁぁぁぁぁ……」


と、訴えてきた…。


気の弱いサタン。涙目までは、想像通りだ。


「はいはい、そうですね…サタン様…。でも、すぐに泣こうとしないで下さい…。とりあえず、こちらの(私の)眼鏡を…」


ミヅキがサタンの頭を撫でながら、ちゃっかり自分の眼鏡と交換した。


「ミヅキ…、コレじゃ何も見えな…」


「お前の伊達眼鏡だろ」


ガチャッ


俺は、ミヅキの(伊達)眼鏡を床に捨て、踏み潰した。


「あぁ……ギルバート、何て事を…」


そして、

午前9時ちょっと前。



        ーピンポンパンポーン…ー



“ボッ…”


“ドッドッドッ…”


“アッアッアッ…”


「えー…テス、テス、只今、マイクのテスト中、マイクのテスト中…って…メンドクサ……。えー、私は神。神。聞こえてっかぁ?テメェ等ぁ……まぁ聞こえてるなー、てか、聞こえてなくても聞けー」


(なんて神だ…)


そこで、お菓子な3人組(レイ·ニール·ハンガン)が、

「相変わらずメチャクチャね…」

「そうですね…」

「…そうだね…」


口を開いた。


「えーっと…、はい、今、“テキトーだな”、“やる気がなさそう、”と思ったそこのキミ、神は、何でもお見通しでーす…。何でも分かっちゃうから。嘘はつけませんから、嘘つきは大嫌いでーす、ていうか死刑です。」


「えッ……。もしかして、これって私達の話、聞こえて…る…?」


レイがニールに向かって話した。


「さ、さぁ……」


ニールもそう答えるしかない。


「だからそーなんだって…。何回も同じ事、言わせないでくれる?…てか、観たいテレビできたから、今から来て。迎えやるから、じゃ。」


ボッ…。


あっ…、


「ねぇ、ギル?」


突然、マナが俺の右手を掴み、見上げ、俺の顔を見た。


「神様って、何のテレビ観てんのかなぁ?」


このどうでもいい疑問に、俺は顔を反らし、


「知らん」


と、答えた。


俺は、神ってのは理不尽だと思った。


“ボッ”、


「理不尽じゃありません」


“ボッ…”。


(いや…そんなはず…)


“ボッ”


「あと菓子ね」


ボッ…。


切れた。


…………………。


静まり返る部屋。


……………………………………………………。


「神様って、理不尽だね…。」


サタンが苦笑いで口を開いた。


確かに理不尽だ、あの神は。

もし、神を今すぐ交代できるのなら、もっとまともな…、


まとも…、


……、な……、


俺は皆の顔を見渡し、


「奴はいないか…」


ボソッと呟いた。


「……ギルバート…、『奴』って……誰…?」


ハンガンは俺が言った言葉を逃さなかった。


「いや、何でもない」


地獄耳だなコイツ。余計な事は言えないな、ハンガンの前では。


「ねぇ、ミヅキ…」

「はい」


サタンはベッドから立ち上がりながら、

「すぐ迎えに来るって言ってたし…」


笑顔で、


    ー「お菓子用意して、待ってよっ!」ー


ったく…サタンも能天気なもんだ…。


***************************


「それはいいんですが、その身なりはあまりにも“ダサいッ”ので是非、お召し替えを」


“ダサいッ”を強調する側近。


マントで隠してて気にしなかったが、確かに、上がトレーナーで下がパジャマとなると誰がどう見ても、“ダサいッ”としか言いようがない。


そこで、ナツキが、

「いやー、酷い言い方するねー、側近君は」


得意の笑顔で言うが、


「別にナツキさんが気にする事ではないと思いますが…」


真顔で返す側近に、


スタタタタタタタッ


「まっ、そだね〜」


何故か後ろまで引くのだった。


「しかし、この体型に合う服…この城に有るかどうか…」


悩む側近に、


「え?有るわよ?私の着てない服で良いなら」


レイが、如何にも悪い笑顔で答えた。


***************************


午前9時過ぎ。


「ジャ~ン!どおぉ!?似合ってるでしょ!?」


着替えをする為にレイの部屋に行き、戻って来たと思えば、


「可愛いですよ♡サタン様♡」


「ねぇ〜…レイちゃん…ボク、スカートなんて恥ずかしいよぉ……」


何と膝より少し上くらいのスカートを履いて戻って来た。

もうちょっと、有るだろ…。ピンクのヒラヒラって…。


「そうだ、そんなハレンチな格好、サタン様によくや……」


側近もさすがに怒…、


「ってくれたな、さすがだ、ありがとう」


らなかった。

むしろ、レイに親指を立て、オマケに鼻血を垂らし、真顔でお礼を言っている。どんな妄想してんだ…コイツは。


「ちょ…ミヅキ…止めてよ…」


サタンの方を見ると、また、涙目になっていた…。


「すみません…サタン様。ですが、可愛いので…」


まだ真顔で言う。


「でもサタン様は女の子なんですから、スカートなんて普通ですよ?」


レイが自慢気に話す。が、


「でも…ボクはズボン派だし、そ…、それに今のこの体…、男の人みたい…なんだけど……」


「………………」


だんまりを決め込むレイ。


完全にサタンで遊んでたな、コイツ。


***************************


        ーじゃ、仕切り直しで。ー


黒スーツのズボンに着替えて来たサタン。


「やっぱズボンは安心するね〜」


サタンはさっきとは逆の笑顔だ。

そして、こっちは


「サタン様の眼鏡が壊れた時に、私が変えてあげなくてはならない眼鏡を一つ、二つ、三つ…、後、ズボンが汚れた時の為に、いつでも変えのを……一枚、二枚、三枚…、持ち歩こう」


最早、ただの変態野郎だった。



      ードンッ、ドンッ、ドンッ…ー



微かに玄関をノックする音が聴こえた。そして、


「チワーッス、お迎えに上がりましたー」


何かチャラい奴が来たようだ。






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