第6話

ー閻魔城・暁の部屋ー


「やっぱり、協力してもいいよ」


僕は『藤江凪』だけど兄さんの『藤江牲架』を名乗ってもいい。だって、双子だし、何より兄さんが、


          ー好きだ。ー


「えっ!?いいのか?」


オジサン《暁》がやや驚き顔で、というか、ほぼボコボコ顔で聞いてきた。皆が見上げる中、僕はまた座り直し、


「うん、いいよ。で、何をすればいいの?」


得意気に答えた。


「……、じゃあ、とりあえず…」


場が静まった。


………………。


静…か…、


グ…グゥゥウ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜)


僕の心の声を掻き消す、腹の音。


「あーごめんごめん。儂の腹じゃ。とりあえず飯にしよう」



   ーとりあえずここは、ご飯を食べる事に。ー



**************************



「あーっ、食った食ったぁ。相変わらず、料理が美味いのぅ、些々波は」


そう褒め称えるオジサン。


「ただ、卵とウインナーを焼いただけです」


些々波が洗い物をしながら言う。と、その隙に、


「ありがとう、ごちそうさま、じゃ、ちょっとおやすみ」


と、オジサンは言い残し、寝た。


***************************



それから1時間ちょっと。

午前8時半過ぎ。


「あー寝た寝た…。…って、おはよーぉっ!諸君!」


寝起きのテンション高めのオジサンがやっと目を覚ました。


「おはようございます、暁様…」


「うむ。何か目覚めが良いな。何分くらい寝ておったかの?」


「1時間ちょっとです。」


「そんなに寝てしまってたかぁ…。」


続けてオジサンが、ちゃぶ台に左肘を立て、左手の甲に顎をのせ、こう言った。


「それではお主等、暇ではなかったか?」


些々波は、

「いえ、面白いものを見せてもらったので、全然暇ではありませんでした。」


「そうなの?」


この時、まだ本人は知らないのだった。

自分に”何“がおきているのか。

 

***************************



      ーさっ、腹も膨れたところで、ー


「とりあえず、閻魔様に触れてくれ」


唐突にそう言われ…、って、そういや、ご飯前の続きだった。


ガチャ


些々波ささなみが閻魔の魂が入った鳥籠を開けた。


そして、籠から白光物体が出て来て、言われた通りに、


触れた。というか、そっちから触れに来た。


閻魔の魂は、僕の左胸辺りで吸い込まれる様に消えて、僕は、

       

       ー突然、眠りに襲われたー


***************************



「どっ…どうじゃ?」


僕は寝ていたのか…。

誰かの声…。オジサン…? 

声が遠くに聞こえる…。


「大丈夫かの…」


女性の声…。


「閻魔…様?」


これは…些々波…


だんだんと意識が戻って来る。


それに、さっきから僕に話しかけてるようだ…


だが…、けど…、


僕は、“閻魔”じゃない…、


僕は、


藤、え…、



    ー「閻魔じゃああああああ!!!!!」ー



いや、イヤイヤイヤイヤイヤイヤ。


何言ってんの…?、…僕。


僕は、


藤…、



         ー「腹減った」ー



         ーだから…!ー



***************************



「見ろ!手足の感覚があるし、ちゃんと動くし、ご飯もうまい!!!」


「おぉ!やったなぁ!閻ちゃん!」

「やりましたね、閻魔様」

「成功したんじゃな」


どうやらがまた、ご飯を食べ、周りの奴等は喜んでいるようだ。

だが、自身が食べている感覚はない。操られている感覚だ。それに、僕の声すら届いていないみたいだ。



         ーどうしてだー



「閻魔様、喜びも束の間、ここからが本番です」


「ゴクンッ……、…そうじゃの…じゃが…」


チャン…


どうやらは、箸を置いたみたいだ。


唯一、視力と聴力は大丈夫みたいだ。


が些々波と会話をしていて、少し真面目な感じになっている。そして、


「とりあえず、この血だらけの服をどうにかして欲しいところだ!」


いや、ご飯まで食べといて、今更!?


まぁ、血だらけの服とか普通に嫌だよな…普通は。


***************************


は、とりあえず、浴衣に着替えた。


ーそしてー


「とりあえず、を呼ぶか…」


オジサン《暁》が真面目そうに言う。一体、“呼ぶ”とはどういう意味だ。


「そうですね。…ていうか、どうやって呼ぶんです?」


………………………。


些々波のこの質問に、全員、顔を合わせ、



         「分からんっ!」



が、答えらしい。いや、



       (分からんのかいっ!!!)



これは僕のツッコミだ。


「何せ、今までは意識がない奴ばかりじゃったからのぅ…」


(“意識がない”…?)


のこの言い方だと、今までは、


“意識がない”=“死人”?


の、体で生活をしていたのか…?


すると、オジサン《暁》が、ハツラツにこう言う。


「そうだねー、本だったりー、椅子だったりー、その他モロモロだったりー」


         ーあ、そっちか…ー



「今までは意識がない分、楽でした…。が、今回は人間…。しかし、思ったんですが…もしも、”凪“を呼べたとして、神の前で裏切られた場合、後がないのでは……と…」


  ー「だったら、このままでよいではないか?」ー


些々波の後に、些々波の姉さん、和華日奈わかひなが言った。


「ようは、神にバレなければ良いだけの事。ならば、神と会っている間はずっと“閻魔様”のまま、“人間”のふりをすれば良いではないか」


すると、オジサン《暁》が、些々波の肩を勢いよく叩きながら、


「なるほどッ!その手があったかぁ! 些々波!!和華日奈は天才じゃッ!!」 


シュッ…


その時、何かがの目の前を凄い速さで、右から左に通り過ぎるのを目で追った。そして、


           ーグサッー


その”何か“とは、些々波の『短刀』で、向かった先は、


「誰がだ。」


オジサンのおでこ。只今、出血大サービス中だ。


些々波は凄い形相でオジサンを見下している。


「はい…調子に乗ってすまん……」


オジサンは血を流し、謝り、些々波は、依然と、


「……、です……」


見下してい、


「でした……」


た。


以上、

   ーオジサンには厳しい、些々波なのであった。ー


***************************


「それでは、姉さんの言う通り『凪』は呼ばず『閻魔様』のままで行きましょう」


些々波が仕切り直した。


「だとすると…神様と会う約束の時間まであと…」


オジサンが壁に掛けてある時計を見上げ、指を指し、


「えー…っとぉ、…ひぃ、ふぅ、みぃ…、ちょっ…血が邪魔で…よぉ…、」


自業自得だろ。


「約5時…」



       ーピンポンパンポーン…ー



午前9時ちょっと前、


その時、何かをお知らせする”音“が響いて、皆が一斉に上を向いた。


そして、


          ー“ボッ…”ー


これはよく聞く、

マイクにスイッチが入り、


        ー“ドッドッドッ…”ー


マイクを手でトントン叩き、


        ー“アッアッアッ…”ー


聞こえるかどうか、


「えー…テス、テス、只今、マイクのテスト中、マイクのテスト中…って…メンドクサ……。えー、私は神。神。聞こえてっかぁ?テメェ等ぁ……まぁ聞こえてるなー、てか、聞こえてなくても聞けー」


の、確認。


最後のはさすがに無茶ぶりすぎるだろ。

ていうか、


(テキトーだな、神って。)


マイクから流れる男の声は、“神”を名乗っている。さらに流れてくる男の声は、


(やる気がなさそうな声だ。)


「えーっと…、はい、今、“テキトーだな”、“やる気がなさそう、”と思ったそこのキミ、神は、何でもお見通しでーす…。何でも分かっちゃうから。嘘はつけませんから、嘘つきは大嫌いでーす、ていうか死刑です。」


ずーっと、同じトーンで話す“神”。サラッと凄い事を話すところは、


(共感する。)


「はい、見ず知らずの人に“共感”されても困ります」


(…本当に何でもお見通しなんだ…)


「だからそーなんだって…。何回も同じ事、言わせないでくれる?…てか、観たいテレビできたから、今から来て。迎えやるから、じゃ。」


ボッ…。

スイッチが切れた。


(なんて理不尽な…)


“ボッ”


「理不尽じゃありません」


“ボッ…”。


(お見通しだ…)


“ボッ”


「あと菓子ね」


ボッ…。


あっ切れた。


***************************


午前9時過ぎ。


「やれやれ、相変わらず理不尽よのぉ、神は」


「それにしても、神様は一体、誰に向かって話されていたんでしょうか?」


和華日奈に続き、些々波が疑問を投げつけた。


「何か“テキトー”とか、“やる気がなさそう”とか言ってたな」


オジサンが神様のマネをしながら話している。

そこで閻魔が、


「おぉ!中々、似てるのぉ!!上手じゃ、上手じゃ!」


オジサンを褒めて、


「そおぉ!?」


オジサンは調子に乗り、些々波が立ち上がりながら、


「閻魔様、うかつに褒めないで下さい。すぐ調子に乗りすぎるので」


そう言葉を返した。


「そうじゃったな。まぁ、良いではないか」


「そう、そう!良いではな……、」



        ーガラガラガラッー



「い……、か……?」


オジサンが両手を挙げ、些々波に大ブーイングをしていると突然、戸が開く音がした。


「誰か、来たかの?」


和華日奈の言葉のあと、


「チワーッス、お迎えに上がりましたー」


神の使いかどうか分からないが、何かチャラい奴が来たようだ。











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