第5話

午前8時半過ぎ。


死体の名前を忘れた俺達は、城の扉の前で佇んでいた。


“こんな感じだったか…”というのは脳内に浮かぶんだが…。


モヤモヤする。


効率的かどうか分からないが、そう言う時、俺はいつも一つの方法として、あ行から順に組み合わせをして思い出す、というやり方をしている。


ああ、あい、あう、あえ、あお、あか…………あこ……。


俺がいつの間にか、ブツブツ声に出してるのが気になったのか、左隣に居たハンガンが俺をジロジロ見ている。


「ギルバート…、それって何かの呪文…?」

「いや…呪文というか…思い出す方法というか…」

「へー……。そうなんだ……。変なの……。」


そんな話をしていると、いきなり凄い音を立てながら、大きな木製の両開き扉が開いた。

そして、中から出てきたのはサタンの側近。


「貴方達、さっきから何、突っ立てんですか?」


………………………。


みなが、側近の顔を見るなり、



          ー考え事。ー



「貴方達……、打ち合わせでもしたんですか?」


って、側近に言われるくらいみな、声が揃った。


「いや、まぁ…、はい…」


俺はとりあえずそう答え、


「それはそうと、ようやく、サタンの新しい『器』を連れて参りました」


側近の視線を、俺から向かって右の隣の隣、つまり端っこの死体役ナツキに向けさせた。


そして、側近は死体役ナツキの目の前に立ち、


「この方が“藤江凪”という人物ですか…」


眼鏡をズラし、自分が持っていた写真を交互に見ながら言う。


「まぁ…確かに、本人見たいですね…」


どうにかここは、バレずに済みそうだ。コイツが死体で良かった。


「では、中へどうぞ」


側近が歩きだし、俺達も後ろを着いて行く。薄暗いエントランスホールから真正面の階段を…、


「そういえば足りないですね。ナツキさんは何処にいらっしゃるのですか?」


と、側近が急に聞いてきた。


……………。


「階段を登りきった所まで一緒だったんですが…、」


上がりながら、俺も急な思い付きの理由として、


「その後、足を滑らしたのか下まで転がって行きました。だから今は、登ってる最中かと。」


と、言った。


周りからはクスクスと笑い声が聞こえてくる。


「…あぁ、そうですか」


これを信じる側近もまた、バカなのかもしれない。


そして、約20段程度の階段を上がり、さらに真正面には奥が見えないくらいの廊下が続いている。ていうか、電気がついてないから真っ暗だ。


俺達はこの暗闇の中を進む。


***************************


「ちょっと電気はつけないんですか…?暗すぎて何もみえないんですが…」


ニールが壁を伝いながら言う。すると、何か手に触れた。


「ん…?」


何か貼り紙みたいだが、何せ、暗くて見えない。


「あ…そういえば、」


そう言いながら、ハンガンが肩がけバッグに手を突っ込みガサゴソし始めた。


ポチッ


何かを押す音。そして、次に明かりが点いたと思ったら、


「懐中電灯〜。……、あったの忘れてた…」


ハンガンが自分の顔の下を照らし棒読みで言った。


「もー、あるなら早く出して下さいよぉ」

「うん…だから忘れてたって…今…」

「ちょっ…眩しいですよぉ…」


ハンガンがニールの顔の方に懐中電灯を向けながら会話をしていると同時に、後ろの壁の貼り紙も照らされ、そこには、


「“節電…中…”」


と、大きく書かれていた。


どうやらこの暗さは“節電中”の為らしい。


「そうです。この世界がいつも暗いせいで電気はいつも点けっぱなしで電気料金が目茶苦茶、高い。だから、なるべく“節電”を、と…」


バンッ!ガラガラガラッ…ドテッ…!


暗闇から聞こえる側近の声と何かがぶつかり転がる音。

ハンガンが音の先へライトを照らした。


その先で、両手両足を大きく広げ、派手にうつ伏せに転んでる側近。そして、起き上がり、


「これ、だんだんと度が合わなくなってるな…。そろそろ替え時か…」


「いや、お前の眼鏡、レンズが無いただの伊達眼鏡だろ。それに壁に向かって話すくらいなら電気を点けろ」


だんだんとタメ口で突っ込む俺。


「じゃあ、電気代を支払って下さいますか?それにこれは伊達ですが、私は本当は目が悪いんです」


絶対、今、皆が思っている事を代表して俺が代弁すると、


「じゃあ、普通に普通の眼鏡かけろ」


もう、“壁に向かって”というより“壁に話かけてる”、側近にごもっともの答えを返した。


「ギルバート。私にとっての“普通”と他人の“普通”は、同じとは限りません。私にとっての“普通”はこの伊達眼鏡の事を指します。でも、どうしてもと言うのならギルバートの言う“普通”に合わせましょう」


そう言いながら、側近がスーツのポケットから眼鏡を取り出し、かける。最初からそうすれば良いものを。素直じゃない。


「あーこれは…レンズが抜けている…。しょうがない、やはり、こっちでいこう…」


だが、また最初の伊達眼鏡に戻すのだった。

そして、皆が心の中でツッコんだ。



         ーコイツ、馬鹿だー



そして次に、側近が壁に向かってボソッと呟く。


「ていうか、コンタクト付けてるし…」



        ー付けてんのかよっ!ー



「ていうかここ、壁というより扉でした。さっ、皆さん中に入りましょう」


この無意味なやり取りに踊らされた俺達は、ある部屋の中へ案内された。


今の話の流れで、当然ながら中も真っ暗だ。

だが、その中で小さな光がポツンと一つ、光っていた。


「サタン様、おはようございます。ようやく、がサタン様の新しいを連れて戻られました」


目茶苦茶、棘がある言い方をする側近。

だがまぁ、それは良いとして…、


「大事な話をする時くらい電気点けたら…」


カチャッ


「はい…点けた…」


俺が話し切る前に、ハンガンが部屋の電気を点けた。


「ちょ、勝手に電気を点けないで下さい、節電中なんですから。それに…、」


側近がベッドの方へ近寄りながらそう言い、そのベッドの上に置いてある“白光物体入りの鳥籠”を持ち上げた。そして、俺達にドヤ顔で、


       ー「電気なら、ここに。」ー


***************************


 一気に明るくなったこの部屋は、扉から向かって左側にベッド、右側奥の角に右向きの机と椅子、そしてその右側の少し離れた場所にソファと、広さが普通の部屋になっている。  


「僕を扱いするなんて酷いよ…」


「申し訳ございません、サタン様。」


そう。

この“白光物体”こそ、我等が主、“サタン”。

『僕』とか言っている『僕っ子』だ。


「それに…ギルバート達もいきなり城から出て行くなんて酷いよ… 僕…寂しかった…」


気が弱いサタンが、いきなり意味の分からない事を言った。


………。


「いや…サタン様が、“新しい器が見つかるまで出禁”とおっしゃられたから…」


ヴッヴッヴッヴッヴッヴッヴッンンンンンンンンンッ!!!


そこで側近のわざとらしい咳払いが。


「これも節で…」


ガンッッ


「お前か」


俺は、口と同時に、ハンガンが持っていた懐中電灯を側近の顔に投げつけた。


そして、鼻血を垂らしている側近は、


「それでは、儀式を始めますか」


早々と話を進めた。


***************************


「さぁ、そこの人間、サタン様の前へ」


側近が、死体役ナツキをサタンの前まで来るよう指示する。


「こんな所でやるのか?」


俺はてっきり、儀式と言うからもっと広い部屋でするのかと思っていた。もっと大掛かりなイメージだったのだ。


そして、直ぐに死体役ナツキが、サタンが居るベッドの前へ立って、


「こんな所とは失礼ですね。それに、何処でも大丈夫です。何故なら…」


側近が鳥籠を開け、サタンが鳥籠から出て来た。


「さぁ、サタン様に触れてください」


側近の言う通りに、死体役ナツキがサタンの白光物体に手を伸ばし、触れた。


「場所など取りませんので」 

















































     

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