第4話

「ねぇー、もうちょっと…ボリボリボリッ…早ぐ…ボリボリ…登って来てくれるー?ボリボリボリッ」

「ナツキさーん、…バリバリバリッ…もっど早ぐ…バリバリバリ…登って下さーい!バリバリバリッ」

「……メチャ遅…。このお菓子…美味しい…」


そう文句を叫ぶ方達と、


「いや…君達さぁ…、ハァ…この歩き方が…どんなに大変か…ハァハァ…分かってるか…ハァぃ…?」


この言葉が聞こえないくらいの距離にいる死体の操り人形役の奴と、


「はい、ギル、お菓子あげる」

「俺は、菓子は嫌いだ」


文句チームと一緒にいる2人が向かっているのは、大体歩いて約30分くらいの距離にある地獄城である。


そして、地獄城にたどり着くのは容易でははい。何故なら、道のりの最後は恐ろしく急な階段だ。大体、120段だったか…。街灯も所々、点いたり点いてなかったりしている。俺達はもうこの階段を登りきり直ぐそこまで来てるというのに、重要な奴はまだ階段の下にいる。だけど、別に奴のサポートをする優しさはない。なぜなら連中は、奴が登って来るまでとりあえず、休憩という名のおやつタイムの真っ最中だからだ。


「おい、お前等さっき朝飯食べたばかりなのによく食うな…つーか、その菓子、何処で手に入れたんだ?この辺で売ってないだろ、そんなもん」


俺の突然の質問に、“待ってましたと言わんばかり”の顔で3人は目を合わせ、


ゴクリッ…


と、唾を飲み込む…、のではなく、口の中の菓子を食べ、飲み込むと、


「内緒」

「内緒です」

「うん、内緒…」


黒いスーツにお菓子ねカスを下ろしながらまた食べ始めるこの3人にはどうやら裏がありそうだ。



ー午前8時ー


俺は懐中時計を確認する。1日中暗い、この町では時間の感覚を掴めない。

そろそろ、サタンも起きる時間だろう…。


………。


…………。


……………。


俺は、懐中時計を再び確認。

………、

すでに待つ事、約30分。やっと登り終えた奴が。


ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ…


「チョチョチョチョチョ…、ッとォ…!…ハァハァ…み…んな…、さぁ…あ…?何か…ハァハァ…酷く…ハァハァ……、ない…?…ハァハァ…」


ハァハァ、ハァハァ、ハァハァって大袈裟な奴だ。


「やっと来たか…死体」

「チョッ…ギル…バー…ト…君…?、僕は…ハァハァ…死体…では…なく…ハァハァ…ナツ…キ…で…」


「…………」

「じゃあ…やっと来たか『死体役』。」

「“じゃあ”…って…ハァハァ…『死体役』…でも…」


「あるだろ。それに、散々待たせておいて口答えとは…」


「そうよ、そうよ(あー美味しかった)」

「そうですよ(かなり満足です)」

「うん…確かに…(最高だった…)」


お菓子を食べ終えた3人組からの大ブーイングと心の声が聞こえた。


「君…た…ち…、ハァハァ…随分…ハァハァ…休んだ…よう…だ…ね…」


「ま、死体役が遅すぎたからね」

「遅すぎましたからね」

「…うん…遅すぎ…」


フォローの欠片もない3人組の言葉。


午前8時30分。


でもまぁ、ここまで来たことだ。そろそろ、


「おいお前等。悪ふざけはもう止めとけ。後は打ち合わせどうりにしろ」



***************************


ー約2時間前、朝食中ー


「では…、ギルバートさんがお墓から掘り起こしたのではなく、その連れて来る予定の方が“グサリッ”、と…?」


「あぁ。その人間が、」


“グサリッ”、


「…と、刺していた。俺は人殺しは御免だ。」


ログテーブルに丸太ベンチ。

皆で飯を食べながら、左斜め向かいに座っているニールの物騒な質問に平然と俺は答える。


………………、


……………………………。


何か視線を感じる。かと思えば、

右隣で食事をしているナツキが何か喋りたそうにテーブルに右肘を付き、引きずった笑顔を俺に見せている。

何を言いたいのか分からないが、俺は視線をナツキからナツキの皿の上の『肉』にずらした。そこには、フォークが刺さっていた。


どうやら今の会話で、俺はの内にナツキの皿の上の『肉』をフォークで刺していたようだ。


……………。


俺は視線を『肉』からナツキへ、それから左隣のマナの皿の上の『肉』へズラし、


「悪いな…ちょっとズレた」


そして、

「ちょっ…」

ナツキが喋り始めた途端、


「本当はお前の左手に刺さる予定だった…」


と、サラッと言った。

終始、ナツキは引きずったまんまの笑顔で、


「あっ…あぁ…、そうだったんだね…。でも、食べ物で遊ぶなんて行儀が悪いから二度と止めたほうがいいと思うよ…?」


と、言った。俺の視線も『肉』のまんま、


「あぁ…、以後、気を付けよう…」


と、言った。


はぁぁ…………。


俺は急に溜息をしたナツキを見た。


「目を合わせないで言ってるところで気を付ける気はなさそうだね…、君は。…だから、」


そこで二人は目を合わせ、


「だから僕が注意を払おう」


………。


「あぁ、是非、そうしてくれ」


そう言って、数秒程度、目を合わせたままだった。

なぜか周りも静か…、


「ちょっといつまで見つめ合ってんの?気持ち悪い。打ち合わせするんでしょ?」


正面に座っているレイが話を切り替えた。


「…そうだった。」


ようやく本題だ。


「えーっと、死体役はナツキ。後はバレないように振る舞ってくれ。以上だ」


「りょーかーい」

「了解しました」

「…了解…。」

「うん!おっけー!」


俺の提案に皆が賛成してくれたお陰で、打ち合わせもすぐに終わった。マナも珍しく素直だった。


「さぁ、着替えて行くか」


***************************


ーそして、2時間後ー


「う、打ち合わせと言うか…ハァ…ハァ…、一方的に…決定事項を…ハァ…ハァ…、述べただけじゃ…ハァ…、ないか…」


いつまでも息切れをしている死体役ナツキは、ダラダラと文句を言う。


だから、皆で囲って、


「言い訳とか見苦しいぞ」

「見苦しいわ」

「見苦しいです」

「…見苦しい…」


最後に、


「死体さん、見苦しいよ?」


真正面に居たマナが、とてつもなく見苦しい顔で死体役ナツキを見上げて言い放った。


そして皆が、城の方へ歩き出すのだった。


皆が歩き出す中、離れ行く仲間の後ろ姿に、


……………。


「なんか…僕の扱い、ひどくない……? ……てか、」


ようやく、息切れも治まった。


「僕も行こう…」


死体役ナツキも歩き出しした。


そして、歩き出すことおよそ5分、やっと、城の扉の前まで辿り着いた5人と1体は、扉の前に横に並んだ。


「やっと着きましたね…」

本当にやっとの思いだ。


ニールの後に、ふと、レイが質問を投げつけた。


「そういえばフルネー厶って、なんだっけ?」


あっ…、


…、

…、

…、

…、

…、


大きな扉の前に立ち尽くした5人と1体。

皆、一斉に心の中で思った。



        ーなんだっけ……?ー



**************************



「凪…、この紙なんじゃが…」


ボコボコ顔のオジサン(暁)がこの『紙』について説明を始める。


「これは普通のコピー用紙に書かれておる…」


ヴッ、ヴッーンンンンンンンッ!


些々波の咳払い。最初より長い。イライラが伝わってくる。


「えーっと…、この紙は実は『神』…さ…ま…、から貰ったんだが…」


オジサン《暁》が些々波の反応を伺いながら話す。

だって今の『紙』と『神』、明らかに絶対かけただろ。

僕も些々波の顔を見た。


えー…っと…反応はというと…、



         “ガラガラガラッ”


突然、扉が開いた。そして、


「頼もう!些々波、居るかの?」


女性の声が響く。


「げッ…姉さん…」


と、言ったのは些々波だった。

どうやら些々波の姉さんが来たらしい。


「“げッ…姉さん…”、とは何か?」


浴衣姿の些々波の姉さんはこちらに来るなり、僕と些々波の間に座った。


(えっ…!髪の毛、長っ)


些々波の姉さんが座った後ろ姿は、畳にまで髪が付くほど長い黒髪ストレートヘア。綺麗な人だ。ていうか皆、冬に浴衣とか寒くないのだろうか…。だが、僕もパジャマだが不思議とずっと寒くない。


「今日会う約束をしたではないか!」


「はぁ…。姉さん、約束はしたけど場所はここじゃないし、時間もまだ3時間も前。時計は持ってないのですか?」


(デートの待ち合わせかよ…)


僕は心の中でツッコんだ。


「持っとらん。それにここはお前の部屋ではないのか?」


姉さんがそう言うと周りを見渡し、ある人と目が合った。


「よっ!和華日奈わかひな。元気か?」


オジサンが姉さんに挨拶をした。姉さんの名前は“和華日奈わかひな”と言うらしい。


………。


「え…、誰?」


それも、そんな反応になるだろう。何せ、顔がボコボコなのだ。当然の反応だ。


「お主、少し、わらわに馴れ馴れしいぞ!」


「俺だよ、俺。俺だってぇ!」


(いや、詐欺かよ)


“俺”しか言わないオジサンにまたツッコむ。


「アイツは誰じゃ?些々波の知ってる人かの?」


和華日奈わかひながオジサンに親指で指しながら些々波の顔を見て言う。


「姉さん、あの方は…」


些々波が口を開いた。


「あの方は暁様です」


和華日奈わかひながオジサン《暁》をもう一回、見た。


「……………、赤い髪…」


そう言って、また黙って頷く些々波を見て、またオジサン《暁》を見た。


「…お主、整形でもしたかの?」


ある意味、整形級だ。

でも、整形と思わせるくらいボコボコにする奴もある意味すごい。


「まぁ、似たようなもんじゃ!」


似てはいないが、まぁいいか。


「おぉ!和華日奈わかひな、久しいのぅ!」

閻魔大王の挨拶に、

「あら、閻魔様、いらしたんですね?お久しぶりです」

和華日奈わかひなも挨拶を返す。


「それより、隣に居る奴は誰です?やけに、可愛い顔をしておる」


和華日奈わかひなが僕の顔を覗きながら言う。


和華日奈わかひな、儂も可愛いだろ?」


オジサン《暁》が、割って入って来た。だが、


「お主など全然、可愛等ない」


和華日奈わかひなの一言で、敢え無く、撃沈。


可愛いとかこの年になって言われたら、逆に恥ずかしい。

でもたった今、近くに一人居たか。


「そいつは閻魔大王様の『器』になってもらう人間です」


いきなり、訳が分からない事を言う些々波。

ていうか、いきなりではなく最初から訳が分からない。


「へー、コヤツがそうか。で、いつ、どこで、始めるんじゃ?」


「今直ぐにでも始めたいところなんですが…、少し問題が…」


「問題とは?」


もう、些々波と途中参戦の和華日奈わかひなだけで話が進んでいる。


「この紙を見て欲しい」

些々波がちゃぶ台の上に広げられた紙を和華日奈わかひなに見せた。


「この紙がなんじゃ?」

和華日奈わかひなの問いに、些々波が深刻そうに、


「実は、この紙に書かれた名前と、そこの人間は、別人なんです」


と、答えた。


「ほう…、それは大変じゃな…」


二人の会話についていけない。


「絶対、この紙に書かれた人間でなければならない。でなければ、底しれない罰が…」


「そうじゃな。だが何故、この紙とは違う奴を連れてきたんじゃ?」


「それが姉さん…。」


言葉が詰まる些々波。


「なんじゃ」


急かす和華日奈わかひな


「それが…悪魔共に邪魔をされたというか…顔が少し似てたというか…」


急に言葉を濁す些々波に、


「はぁ…。またつまらぬ事をしてたな、二人共…」


やれやれという感じで言った。

でも多分、今回の“つまらぬ事”と言うのは、僕の変な妄想のせいだと思う。


……………。


「あ…」


少しの沈黙の後、何か思いついたのか、撃沈していた顔ボコボコオジサン《暁》がやっと口を開いた。


「些々波、今、顔が似てると言ったな…」

「はい、言いました」


「フッフッフッ…」


今、この状況でニヤける、顔ボコボコオジサン《暁》。

そしてオジサンは、また両手を袖下につっこみ、


じゃじゃ~んっ


と、出してきたのは、


「しゃしーん、じゃ!」


どうやら“写真”のようだ。


「その写真が何なのじゃ?」


和華日奈わかひなが聞くと、オジサン《暁》が写真をちゃぶ台の上に置いた。すると、


「見ろ!この写真を! 」


僕達はその写真を見て、


………、


「これは…眼鏡を掛けてるがお主か?人間」

和華日奈が僕に聞く。


「いや、兄さんだ」


………。


「似てるな」

「うん、双子だから」

「似てるというか同じじゃな」

「はい、双子ですから」


そして二人で、


「だから…?」


声が揃い、オジサン《暁》を見た。


すると、オジサン《暁》が自信満々に、


「だから!顔が同じだからバレない!つまり、神を騙せるかもしれない!」


……………。


「その写真は最初から、持っていたんですか?」


些々波が落ち着いた口調で言った。


「うん。」


オジサン《暁》も返事をした。


「はぁ…、だったらそれを最初から出して下さい。そしたら無駄に悩まず…」


「ちょっと待ってよ」


僕は些々波の話の途中で立ち上がり割って入った。


「僕がいつこの訳の分からない状況に協力すると言ったの?」


皆が僕を見上げた。そして、些々波だけ直ぐ下を向き、


「まぁそうだな…。とりあえず連れて来ただけだし帰りたければ帰ればいい。まぁ、人間などこの町からは自力では帰れまいが…」


そう言葉を吐き捨てた。


やっぱ普通の町じゃなかったのだ。これから何か面白そうな事が起きるかもしれない。なので、


「やっぱ、いいよ」


僕は協力する事にした。
















 














































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