第3話

一ヶ月後現在、地獄城付近、小屋にてー


「で、お探しの『人間』は見つかったのかい?」


二人から離れ、椅子に座りながらナツキが言う。


「あぁ見つかった」 

ギルバートがそう言いながら、ずっと抱えていた物、『人間』を床に下ろした。

その下ろした『人間』を仰向けに直し、皆がその『人間』を左右に囲んだ。


「ちょっと、コイツもう死んでるんじゃない?」

と、黒髪のポニーテールの女、レイが言う。


見るからに血だらけだし、全然動かない。


「…確かに、…お亡くなりになってます…」

しゃがみ込んだ水色のお下げ髪の女の子、ニールが『人間』のほっぺをツンツンしながら言う。


「ま…、まさか…、お、お墓から掘り起こしたんじゃ…!」

と、上着の帽子を被ったおかっぱの陰気くさい男、ハンガンがそう言う。…もんだから、調子に乗ったあの男が、


「そこまでするなんて…。もう、ギルバートは僕達の仲間じゃないよ…。」


やれやれと首を横に振っているナツキ。もう言い終えたかと思ったら、


「はぁ…、もう絶交だよ」


「いや、お前と友達になった覚えはない」


ギルバートのこの言葉に、


「確かに。」

「まぁ、そうですね…」

「…友達では…ない…」


皆、同意見のようだ。そんな返しに、ナツキは、


「キミタチ、ケッコウ、ハクジョウダッタンダネー」


急に、表情がない顔+カタコト+棒読みで話してきた。

何か、傷付く様な事を皆に言われたんだろうか。まぁ、


「そうかもね」

「まぁ、そう思うなら…」

「うん…多分…」


そして、ギルバートとナツキの間にいたマナは、ナツキを見上げ、こう言うのだった。


「ナツ兄、どんまい…」


この時のマナは、ナツキに対しての同情の顔をしていた。


「それはそうと…、この方は、どこでどうしたんです?…それに…この死体さんのお名前は?」


ニールがまだツンツンしながらギルバートに聞く。


「確か、ナ…ギ…?とか言った奴の別の方だったか…」


「ギルバートさん。『例の紙』をちゃんと確認しましたか?今の話を聞く限り、この“紙”に書かれた人物ではない…と。…でしたら私達にこの死体は『契約違反』で、もれなく連帯責任になります…。一体、…何考えてるんですか…?」


ニールの質問にギルバートは、


「契約違反とか、そんなの勝手に決めたアイツが悪い」


「神様を『アイツ』呼ばわりするなんて無礼です!」


少し強気な口調でニールが言うと、


「まぁ…これも、あの時、あんな席であんな事をしたあの『お二人』のせい。今は時がくるのを待つしかないよね」


少し落ち着くと、


「………。はぁ…、そうですね…」


ナツキが、ニールの肩をトントンしながら珍しく上手い事を言った。


「でも、もう“バカ”なギルバートと、僕の可愛いマナがこの死体を連れてきたわけだし、このままコレを城に持って行こう」


「ねぇー、マナはナツ兄のものじゃないよ」


すかさず、ナツキにツッコミをいれるマナ。 


「ねぇマナ、もうアホナツキに絡むのヤメな?」


レイの冷静の判断。それが正しい。マナも、


「うん。そーだね」


「それはそうと、コレを持って行くのはいいけど、どうやってあの“紙”の人間だとアイツに証明させるつもり?見るからに血だらけの死体が喋る訳がないし」


レイが言う“アイツ”とは、城にいる“側近”の事だ。


「…確かに…」

「…うん、どうするの…?」


ニールとハンガンがそう言うと、


「大丈夫。側近君にこの死体を『死体』と思わせなければいい。」


「つまり?」


ニールのツッコミにナツキが話を続ける。


「えーと、つまり。操り人形みたいに動かせばいいと思うんだよね…。えーと…こーやってあーやって…上着を着せてマントで隠せば…」


ジャ~ンッ!


…………………………………。


「あれ?皆、反応が……。じゃあ…、」


ジャ、ジャ~ンッ!!


………………………………。


何か完成したみたいだか、皆、総無視だ。どうやらナツキが死体の後ろにくっつき、生きてる風に動かす作戦みたいだ。

そして、第一声が…、


「おー!完璧じゃん!」


レイの褒め言葉だった。この褒め言葉に調子が上がったナツキ君は、


「でしょ?レイちゃん、見る目あるー!」


「じゃ、そのままよろしく」


えっ…。


「ここは提案した奴が」

「ギルにさんせい!」

「よろしくです…」

「…うん、よろしく…」


ガクッと、テンションが下がるのであった。



***************************



ーそして、閻魔城のある一室。ー


ちゃぶ台と畳と座布団とお茶。ではなく、ココア。

僕と暁、そして、待ち人。

ココアなんて、この部屋にはちょっと違うような気がするが、僕はお茶よりココアの方が好きだ。当然、甘くて美味しいから。


「ねぇオジサン、あの人は何を取りにいったの?」 


僕が聞くと、


「まぁすぐ来るから待てよ、凪。」


ココアを飲みながら答える暁。


ガラガラガラッ


どうやら戻って来たみたいだ。


「暁様、お持ち致しました」


些々波がそう言いながらちゃぶ台の上にのせたのは、


「おぉ、ありがとう」


鳥籠だった。


「さぁ、些々波も座れ。ココア淹れたから」


「あ、はい。…て、…ココア、ですか?」


「ああ。ちょうど茶を切らしてたから予備のココアじゃ。別にいいだろ?ココアでも。儂の部屋だし」


「はい、全然問題なしです」


どうやらここは暁の部屋らしい。


「そうじゃ、そうじゃ。凪、この紙を見てくれ」


そう言われ、鳥籠に貼り付けされた御札みたいな紙を見る。そして、その紙には『閻魔大王様の魂』と書いてあった。どういう事なのかは全然分からない。


「コレが何か?」


「コレが何か?ではなく、この紙に書いてある通り、この中にある、まあるい白光物体は閻魔大王様の魂なのじゃ」


「いや、いきなりそんな事言われても信じられる訳がないし」


「いや、確かにそうなんだけど…でも、そうなんだよ」


「いや、暁様、全然説明になってません」


「いや、やっぱ暁は説明が下手っぴじゃの」


…えっ、えっ……!?

最後の誰!?


僕達とは違う声だった。ここには3人しかいないし…ていうか女の声だったし…。


「ここじゃ、ここじゃ、人間。」


「いや、どこ?」


僕は周りを見渡した。


「いや、ここだって、人間!」


やっと声の方向を見つけ見ると、声の主は目の前にある鳥籠の中の謎の白光物体からだった。僕は、口もないのに喋る筈がない白光物体をジロジロと見た。よく見ると、少しピンク色もある。


「おい、人間、ジロジロ見るな! 名を何て申す」


白光物体からの質問。


「あの、他人の名前を聞く前にまず自分の名前を言うのが礼儀だと思うんだけど?」


僕は逆に質問を返す。


「…、ま、まぁ、そうじゃの。人間ごときに名乗る義務はないがお主は特別じゃ。儂は、閻魔大王じゃ!」


……………。


「いや、それは役職名ですよねぇ?聞いたのは名前だよ?」


「名前などない。儂は閻魔大王じゃ!それで良かろう」


「良くな…い…、」


僕が喋ろうとした途端、首元にまた光る鋭い物が当たった。


「おい、人間…、それ以上は貴様の血が流れる事になるぞ」


些々波の短刀だ。いちいち血走り過ぎだろ、この人達。別に悪い事言ってる訳でもない。もし、仮に。もしこのまま喋り続け、ここで殺され、死んで、そしてこの部屋を僕の血で血だらけにするっていう嫌がらせの選択肢もある。まぁ、選択肢どころか、僕には今、それ以外の嫌がらせを思いつかない。だから、

 

「はいはいっ」


と、今は素直に従おうか。もっと他の最高の嫌がらせの為に。


「で、閻魔大王、何か…」


ヴッ、ヴーンッンッッ!


僕が喋ろうとしたら、わざとらしい咳払いが右側の方から聞こえてきた。そして、僕は横目で右側の方にいる明らかに殺気立っている些々波を見て、


(あーメンドクサ)


と、思うのだった。


でも、まぁここは、とりあえず、


…はぁ…、

と、ため息を一つ入れて、


「では、閻魔大王“様”、」


「僕に、」


「何か、」


「ご用、」


「でッ、」


「しょ、」


「うッ、」


「かッ?」


僕はいつもより敬語を強調して話す。


「なんじゃ…、急に素直じゃの?つくづく、変わった人間じゃ。まぁよい。そんなことより、人間、名は何て申す?」


色々言いたい事が、喉の先で渋滞しているが、とりあえず先に、「藤江凪」と答えよう。


「ふじ…え、なぎ…か。…へー、………、」


通称、閻魔大王の反応は、


「普通じゃな」


だから何だ。

いちいち話が反れるから、話が進まない。イライラする。


「おい、暁。例の人間の名前、何と言ったか?」


閻魔大王が暁に質問すると、


「えーっと…確か…、」


暁が自分の両方の袖下に、左右逆に、両手を突っ込み、


「あっ、あった、あった!」


右の袖下から出てきたのは、グチャグチャに丸められた紙。それを暁は手のひらに乗せ、


「ジャ~ン!!」


と、見せびらかすのだった。


「…、なんじゃ?…それ?」


「なんじゃ?ではないですよ、“閻ちゃん”」


うん…?“えん…ちゃん”…!?


閻魔大王の“閻”だよね?

もう呼び方なんてどうでもいい感じ?

でも、右側の方はそうはいかないみたいだ。


「あの暁様…。いつからそんな呼び名で呼ばれてたのですか? さすがにえ…“えんちゃん”は、ちょっと…」


些々波が暁に口を挟んだ。この人は、やたらと口がうるさい。


「えー、いいじゃんいいじゃん。いつも二人きりの時はこの呼び名で呼んでるよ?(だって些々波の前だと口五月蝿いし)何かこのあだ名可愛いし。(今日は凪がいるから味方にして)それに、お前ももう言ってんじゃん、“えんちゃん”、って。」


些々波を茶化すように暁は言う。


「そ、それはズルいです…!」


「いや、ズルくない!」


そこから、


「いや、ズルいです」

「いや、ズルくない」

「いや、ズルいです」

「いや、ズルくない」

「いや、ズルい…」


二人のズルい、ズルくないのラリーが続き、そして、


「もう止めぬか!お主等!」


閻魔大王の一声でラリーは終わった。


「儂への言葉遣いなど、どうでもよいっ!その…、儂はその呼び名で、ぜ…、全然…、か…、構わぬ…ぞっ!」


少し恥ずかしいのか、閻魔大王の白光物体が赤らんでいた。

恐らく、閻魔大王はこの呼び名が気に入ったに違いない。


「お…、おい、人間! 凪と申したな。お…、お主も構わず呼んでよいからな!」


はっきり言って、僕にはもうどうでもいい。

でもまぁ、返事くらいは。


「はいはい」


「藤江凪、お前は駄目だ」


また、右側の方がイチャモンをつけてきた。本当に口が五月蝿い。少し、


「黙っておれ!些々波!」


閻魔大王が怒りの鉄槌を下ろした。


「しかし、閻魔大王様ッ!」

些々波がそう言うと、


チッチッチッ…


今度は僕の左側にいる方が人差し指を出し、些々波の前で左右に振っている。


「“え・ん・ちゃ・ん”、と呼びな。」


真面目な顔で暁が自信満々で言った。そして、それに追加して、


「じゃが、しかし、えんちゃんを“えんちゃん”と気軽に呼べない些々波は結構、小心者だったんじゃな」


今度は不真面目な顔、つまりニヤけ顔で言った。それを見た些々波は、


「…暁様、少し大事な用事を思い出しました。…ちょっと、お付き合い願えますか?」


「なんじゃ、それは今じゃなきゃ駄目な用事なのか?」


「えぇ、とてもとても、大事な大事な用なので今すぐ…」


そして、些々波は立ち上がり、


「今すぐ、表に来て下さい」


すごく落ち着いた声で、暁を表に誘った。


誰もが些々波を見上げてる中、僕はこう思っていた。



       ー全然、話が進んでないー



***************************



そして、些々波と暁が表に出ておよそ3分後。


ガラガラガラッ


「ただいま戻りました」


大体、カップラーメンが出来上がるタイミングで戻って来た二人。そして二人は、何事も無かったかのように元の位置に座った。何となく一人の顔は見づらいが…。


「では、暁様、例の紙を。」


些々波がそう指示した。


「はい…、ごれで…ず…」


明らかにさっきまでとは違う声。

また、別の人が増えたのかと思い、僕は恐る恐る、左側を見た。すると、別の人ではなく、まぎれもない、顔を誰かさんにボコボコにされた暁だった。


全く、どっちが上何だか分からない。


そして暁は、丸められた紙を広げ、ちゃぶ台の上に置いた。

そこにはこう書かれていた。



           藤江 牲架



「ん?兄さんの名前?」

僕がそう言うと、


「そう!兄さんの名前だ!じゃが、お主の名は?」

「藤江凪」


暁の質問に答える僕。この質問に何か意味があるのだろうか。そして何か調子よくない?このオジサン。


「そう、お主の名は“藤江凪”じゃ。じゃが…、この紙には兄貴の名前…。意味が分かるか?」


どのくらい経ったかも知れないよく分からないこの世界で『意味が分かるか?』と聞かれたら、当然の如く、


「いや、全く持って、分からないです」


僕はそう答えた。

当たり前の解答だと思った。が、


「そうじゃろ、そうじゃろ!じゃが、お主に特別ヒン…」


そこで、些々波の右ストレートパンチが暁の右目に入った。


「凪、これはじゃ…な…。」


暁が僕の方を向いて話始めた。

でも、出来ればこっちを見ないで欲しい。だって何か、顔がボコボコで面白すぎて多分、


「ねぇ、オジサン…、こっち見ないで話してくれる?…www」


話が入ってこないから。

僕は半分笑いながら顔を反らし言うのであった



      ーはい…分かりまじ…た…ー













































































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