第2話
ー月明かりが照らしているー
新たな侵入者には、何やら頭に『尖ったもの』がついていた。
ー角?ー
「何をゆっとるんじゃぁ。儂ら、人間じゃあるまいし、『常識』だのなんなのって、関係あるまい」
ーそれに、浴衣に長めの羽織ー
その侵入者の一人は、窓際の机の上にしゃがんでいる。もう一人は机の脇に立っていた。
「お主は馬鹿よのぉ」
そう言いながら隣の男を見た。
ー何かのコスプレ大会か?ー
「いやいやいや。人間も『儂ら』も同じです。ただ、住む世界が違うってだけで、普通はインターホンを鳴らし『ごめんくださ〜い』と言ってドアから入るのが普通で…」
「長い長い長い」
話を遮った机の男は飽き飽きしていた。
「大体。お主も窓から来た、しかも土足。他人の事、そんなにグチグチゆうのなら、お主はちゃんとインターホン鳴らして『ごめんくださ〜い』ってドアから入ればよっかたんじゃ」
(何かこの感じ、さっきも見たな…)
「それもそうですね。しかし、貴方を一人にしては危険なので草履だけ脱ぎましょう」
そう言うと、隣の男は草履を脱いた。
「いちいち硬いのぅ…」
「それはそうと…」
草履の男が話を進める。
「その死人、どうするおつもりだったんですか?悪魔の方々」
(…えっ…?、悪魔?、今、『悪魔』って言った、この人)
「どうするって…、お前等に答える義務はない。さっさと失せろ、鬼」
悪魔?側の男が話す。
(てかっ、…え…、『鬼』ってあの『鬼』?角生えてる奴?)
「その死人は私達の“獲物”です。それに手を出したら契約違反です。つーか、電気を付けて下さい。さすがに豆電球と月明かりだけじゃ、限界があります」
(兄さんがアイツ等の獲物…?)
ピッ
(あ…)
部屋の明かりが付いた。
この二人が何の話をしているか分からない。
…が、
こんな夜中に、『悪魔』と『鬼』のコスプレで侵入者。
とりあえず、『変人』って事に、した。
電気を付けて気づいたが、よく見ると『悪魔』のコスプレをしている子供にも『角』が付いている。
(うん、この子、本格的だ。可愛い。)
続いて、男の方を見ると、
……………。
(あれ?付いてない…?でも、さすがに大の大人が角までは恥ずかしいか…)
僕は『悪魔』のコスプレをする二人を交互に見て、一人で頷いた。
「何頷いてんだ、ガキ」
悪魔の方の変人男が話すが、どうやら僕は聞こえてないようだ。
続いて、僕は『鬼』のコスプレ変人達を見た。
こっちも本格的だ。角も付いてるし、何か背中に付けてる見たいだし。きっと金棒だろう。
『鬼に金棒』とか言うし、気合入りすぎだな。超変人だ。
フッ。
僕は少し吹き出した。
あまりにも変人すぎたから。すると、
ガチャッ
この音と共に、目の前に光る物が二つ、首筋を挟んだ。刀だ。そして、机の男が口を開いた。
「おい、てめぇ…」
さっきとは空気が変わり、明らかに殺気立っていた。
「何を妄想してそんな顔か知れねぇが…、これは本物だ。今、この場でてめぇの首を…」
「うん、やってみてよ」
僕は不敵の笑みで言った。そんな事言っても、本当は偽物だ。
………………。
「そうか…じゃあ…、」
そう言うと、机の男は一旦、刀を引き、机から降りた。
そこで僕の目を見て、
ー「死ね」ー
刀を勢いよく振り下ろした。そして、
ー僕は目を瞑った。ー
***************************
ー風が吹いたー
その時、風が吹いたのだ。
「貴方が手を汚す必要はありません」
草履の男が、勢いよく振り下とす刀を自身の刀で受け止めた。
「感情に身を任すのは貴方の悪い癖です」
机の男は、少し気持ちを落ち着かせ、
「あぁ…、そうだな…。…はぁ、悪いな、人間。」
ー「もうそいつは要らねぇ」ー
そう後ろから聞こえる悪魔の方の変人男の声。
『そいつは』って、僕の事なのかと振り返ると、変人男が右脇に兄さんを抱えていた。
いつの間にか、子供も変人男の隣に居た。
次第に変人男と子供は透明になり始め、
「おにーちゃんはいらないだってぇ、バイバイ」
ニコニコしながら手を振る子供。
「おい、話は終わってねぇ」
と、机の男が。
「契約だの何なのって…」
そこへ、消えかかる変人男に向かって、草履の男が何か鋭い光る物を投げつけた。
ー「俺達には関係ない」ー
そう言いながら消えた。
残念ながら、草履の男が投げつけた『短刀』は変人男をすり抜け、後ろの壁に刺さった。
***************************
「あーぁ…、どうする、
机の男が草履の男に話す。
どうやら、草履の男は『ささなみ』という名前らしい。
白髮に紫のメッシュ、変わった髪色だ。
「もう、どうにもなりませんので、とりあえずその人間を連れ帰りましょう…」
「
机の男にそう言う。この『あかつき様』という奴は、言えば、ずっと偉そうだったな。
ハァ…
ため息をする『あかつき』とやら。
「そうじゃな…。おい、お前。名は何じゃ?儂は
「……、
「じゃあ、凪」
ー今から、『閻魔町』に来いー
***************************
「ねぇ、ギル?」
「何だ?」
死人を抱え、何処かを歩きながら話す二人。
「マナ達、死んでるおにーちゃんをつれて来たけど、大丈夫?」
「何がだ?」
「だからぁ、『契約』とか何とかって…」
「あぁ…。お前もそんなくだらない事、言うのか…」
「ううん、違うよ。」
そして、目的地であろう扉の前でマナが向きを変え、ギルバートを見上げた。
「……、どうした?」
「契約とか約束事はね、ちゃんと守ったほうがいいと思うよ」
ニコニコと笑みを浮かべながらマナがそう言った。
「まぁ、『地獄町』に帰って来たし、ギルも笑顔でね」
そう言うと、扉の方へ向き直り、扉を押し開いた。
ーただいまぁ!みんな!ー
***************************
ー結局、最後まで僕には選択権が無かったな。ー
僕は今、日本の様だけど、今の日本じゃない様な、どこか変わった所を歩いている。そして、何故かもう朝みたいだ。絶対、さっきの出来事から何時間も経っていない筈なのに、明るい。何故だ。
「ねぇ、おじさん。何処まで付いて行けばいいの?」
僕が『暁』とやらに話した時、いきなり体中に電気が走った。…ような視線が、後ろからビリビリ感じた。
…っていうか…、
痛い。
視線が、痛い。
僕は足を止め、後ろを振り返った。
すると、目茶苦茶、睨んでる『些々波』とやらが、何も喋らず、ただただ、僕を睨んでる。何かを訴えてる目だ。
「ねぇ、おじさん、何で睨んでんの?僕、怖い」
僕がそう言うと、更に睨みを効かせてきた。何なら刀を抜こうとしていた。そんなに、この人に、勘に触る様な事を言ってしまったのだろうか。
僕がそう考えていると、
「早々すぐ刀を抜くな、些々波。」
前を歩いていた暁が口を開いた。
「このガキが言った事は、儂は気にしておらん。ただ…、」
『暁』が背後から僕の両肩に手を乗せ、そして、右側の方に顔を覗かせ、
「上には上がいる、場をわきまえろ。」
暁が僕にしか聞こえない音量で言うと、肩から手を離した。そして少し間が空き、
「って、言うことじゃ!」
何か、最後は明るい感じの笑顔でしめる暁。だが、
「儂は気にしておらん!」
この言葉を暁がまた言った事で、
(やっぱ気にしてんじゃん、おじさん)
(断然、気にしてますね)
と、二人はそう思った。
「まぁ、それはさて置き、今更じゃが…、これを羽織っておれ…そんな汚れた服では目立つぞ」
そう言って、暁は自分が羽織っていた赤い羽織を僕に被せた。
(ていうか…赤に、赤か…)
***************************
「ただいまぁ、みんな」
マナの『ただいまぁ』から、続けて、
「あぁ、おかえりぃ」
「…おかえり…」
「ふぇ…、おかえり…なさい…」
「……、おかえり…」
床やら椅子で寝ていたパジャマ姿の仲間達が起きては『おかえり』と眠い目をこすりながら言う。何せ今の時間は、午前3時。とっくにお休みの時間だ。一人を除いては。
「二人とも、お疲れ様。」
一人の男が喋りながら二人の方へ歩み寄る。そして、マナの前に立ち止まりしゃがみ込み、笑顔でマナの頭に手を置き、
「ギルバート一人で良かったのに。マナは行く必要無かったんだよ?」
男がそう言うと、
「マナは、ギル、だーい好きだから全然平気だったよぉ」
マナもニコニコ顔だ。
「そっか、マナはギルが、だーい好きだもんねぇ」
男はギルバートを見上げ、ニヤけながらわざとらしく言う。
「俺は嫌いだがな、お前も。」
男を見下しながらギルバートがそう言うと、
「まぁ、そんな事言わないでよ、ギ、ル。」
男は立ち上がりそう言った。
「寝言は寝てから言え」
「今は眠くないから寝れなーい」
「永遠の眠りにつかせてやる」
この男は『ナツキ』。白髮に赤のメッシュ、髪の長さは首の半分くらい。コイツは地獄町一、嫌味な男で地獄町一、何を考えてるか分からない糸目男。俺はコイツが嫌いだ。
ーときに、『地獄町』とはー
朝は無く、1日中暗い、夜の町。
太陽は勿論、無い。月と星だけ。ちなみに今の時刻は午前3時だ。
そして今、俺達が入る場所は地獄町の端っこの端、川を越えた先の山の上にある『地獄城』。
…が、見える森林の中の小屋の中に居る。
何故、城ではなく小屋に居るかと言うと、この話は約一ヶ月くらい前になる。
***************************
約一ヶ月前ー
魔王『サタン』と一緒に城に住んでいた俺達、悪魔6人は、突然、城の入口に呼ばれ、『サタン様の入れ物が見つかるまで出禁』とサタンの側近に告げられた。
「側近君、君、何言ってるか分かってる?僕達に“戻って来るな”と言ってるように聞こえるけど?」
ナツキが側近にそう言うと、
「フッ…。まさにその通り。だがこれはサタン様のお言葉だ。異議など認めない」
さらに、
「もう探す『人間』も決まっているのだ。後は探すのみ。」
そして、
「じゃ、頼んだ」
と、言い残し扉を閉められた。
「ねぇー、側近君はいいのー?てゆーか、その『人間』の名前とか特徴とか…」
扉越しに叫ぶナツキ。返事は…、
………………。
…ない。
が、扉の下から紙が出てきた。そこには、『人間』の名前らしき文字が。
まぁ、そんなこんなで、理不尽な理由で城から追い出された俺達は、とりあえずこの紙に書いてある名前の『人間』を探しに行く…。
…行くんだが、その『人間』を探しに行く為の話し合いで、
「私、ダルいからイヤ」
「ここはやっぱ、ギルバートがいいと思うな」
「いやここは皆で行った方が…」
「……、多数決…、とか…」
で、結局、決まらなかった。…ので、ここは嫌味な男、ナツキが先導を切って、
「じゃあ、いつもので…、」
そう言うと、いきなり、
「ジャンケン…、」
ーポンッ!!!ー
「あぁ…、僕達は負けてしまいましたね…」
6人いるうちの五人は負けてしまった。
「じゃあ、お前等であとやってくれ」
ギルバートは勝ったので、当然のように抜けようとした。
「ちょっと待って下さい、ギルバート」
ナツキが止めた。
「誰が勝った人が抜けていいと言ったんですか?」
「いや、普通そうだろ」
ナツキが…、いや、全員ギルバートを見ている。
「いや、君の『普通』と僕達の『普通』はそれぞれ違います。」
「そうそう、違うんだよ」
「違いますね…」
「…確かに…違う…」
皆からの大ブーイング。
どうやら、ギルバートだけ仲間はずれみたいだ。
「そんな自分を特別視したギルバート君…、僕達を軽視した罰で一人ぼっちで行ってきて下さい」
「いや、理不尽すぎだろ」
「いや、そんな事ないですよー」
「そうそう、そんな事ない」
「うん、罰だから…」
「…そんな事…ない…」
皆が口を揃えた。
「じゃあ、いってらしゃーい」
ナツキを始め、
「いってらー」
「いってらしゃい…」
「…うん…早く行って…」
皆、ギルバートに手を振った。
これ以上はもう面倒だから、仕方なく出ることにした。
だが、ギルバートが外に出ると、
「待って、ギル、マナも一緒に行く」
マナがニコニコしながら出てきた。
「いや、来なくていい」
ギルバートは子供が嫌いだ。特にマナが。
「ギルのケチ」
ーやっぱ嫌いだー
***************************
午前6時。
何か、鐘が鳴り響いている。
ーハァ、ハァ、ハァ、ハァ…。ー
「やっと…、着いたな…」
「暁様、息、切れすぎですよ」
やっと着いた先は、階段を恐ろしく登った所にあった。
「だって…、ハァハァ…しょうがないじゃん…、ハァハァ…」
凄い息切れだ。
「だって!オジサン…だもん…!」
それを聞いた二人は、
(オジサンって認めた…)
(…『だもん!』って可愛くないし)
「さぁ…、ハァ…ハァ…、中へ…、ハァ…入ろう…ハァ…ハァ…」
「もう何言ってるか分かんないよ。息切れオジサン…」
シューー…、ガンッ!!
凪がそう言うと、後ろから脳天に手刀が降りた。
その衝撃で頭にお団子が出来た。
「さぁ、息切れオジサ…、暁様。中へ行きましょう」
(もう、自分も言ってんじゃん)
***************************
ー閻魔城へようこそー
城?…みたいな見た目の建物の中へ入っていく。
入口には、『閻魔城』と書いてあった。どうやら、ここは『閻魔城』という所らしい。僕達は薄暗い廊下を少し歩き、次第に明るい円形型の広間に出た。
広さで言ったら、多分10畳くらいの部屋4つ分と言ったところか。
本当に多分ね。
そしてそこには、この城には場違いな木製の引き戸が3つ。僕達は左の引き戸の中へ。
ガラガラガラッ
そんな音をたてて中へ入ると、そこは和室で、ちゃぶ台と座布団が敷いてあった。
「まぁ上がれ。茶でも出そう」
暁がそう言い、とりあえず上がった。
「些々波、“例の物”、持って来てくれるか?」
「はい、ただいまお持ちします。」
「茶は、儂が淹れておく」
些々波は『例の物』を取りにまた出て行ってしまった。
「まぁ、座れ」
僕もとりあえず、腰を下ろした。
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