第3話 おりょうり

「……美味しいものを!」


「料理を!!」


「作るのですッ!!」


 ……え、料理?


「料理……ですか?」


「そうです、料理です」


「ヒトならできるはずなのです」


 ……予想とは違う命令だったが、まぁいい。命令通り、料理をしてみよう。久しぶりだな……料理なんて。やけに昔の知識が役に立つ場所だ。


「お任せください」


「では、この砂時計が落ち切る前に作るのです」


「いいですね?」


「はい! それで、食材は……」


 まずは食材と調味料、それらが必要だ。


「食材はその下の棚にあるのです」


「それを使うのです」


「これは……」


 色々ある、全部野菜だが……あと、カレールーやシチューの素もある。今日はシチューにしてみるか。


「じゃあ、火を起こすか……」


 道具の中に虫眼鏡がある……なるほど、わかるぞ。ここに薪があるし……これで光を集めるんだ!


「よし、点いたぞ……」


「我々が言わなくても火を起こしたのです……」


「やりますねぇ……!」


 お褒めの言葉を頂いた。素直に嬉しい。


「まずはお米だな……」


 お米を研いで、糠を落とす。糠を落とした米を、水を張った鍋に入れて蓋をする。火を調整して、温度も調節し……しばらくしたら、蓋を開けた。


「……よし、炊けたな!」


「もういい匂いなのです……」


「早く食わせろなのです! じゅるり……」


「もうちょっと待ってくださいね、すぐメインを作ります!」


 さぁ、メインに取りかかろう。フライパンと包丁を用意して、野菜を切っていく。丁寧に、素早く……


「サーバルがいないのに早いのです……」


「あの『ほうちょう』のおかげなのです」


「切り終わったこれをフライパンへ……」


 材料はじゃがいも、人参、ブロッコリー、えのきだけ。シンプルにこれだけだ。野菜の焼けるいい匂いがしてきた。


「何をしているのでしょう……」


「ヒトなので、不味いものを作ることはないと思うのですが……カレーではないようですね」


「ここに水を張って……」


 水が跳ねて俺に飛んでくる……が、俺としては痛くないので、無視して続ける。


「それからシチューの素を入れて……」


 鍋に焼いた野菜を入れて、ここからは鍋でたっぷり煮込む、混ぜながらひたすら煮込む。


「い、いい匂いなのです……」


「まだなのですか……!?」


「あとちょっとです、待っててくださいね!」


 ……出来た! 後はこれを、持ってきておいたお皿に盛りつけて……ご飯はシチューとは別々に盛っておく。これで……完成だ!!


「お待たせしました! こちら『シチュー』になります!」


「白い……カレー? 本当に真っ白ですね……雪のようなのです」


「そうですね博士、真っ白です」


 さっき味見はしたし、美味しく出来てるとは思うが……


「では……いただくのです」


「いただくのですよ」


「どうぞ、お召し上がりください!」


 博士さん達はシチューをスプーンで掬い、口に含んだ……すると。


「熱いぃ!?」


「熱っ、熱いのです!! 水を、水を飲むのです!」


「あ、冷ましとくべきだったかな……」


 煮込みたてのシチューは熱いからな。美味しいかどうかは知らないが……


「……で、ですが……これは」


「う、美味いのです……!!」


「ご飯と一緒にどうぞ?」


 俺がご飯を勧めると、今度はご飯にかけて食べはじめた……


「こうしても美味いのです!!」


「シチュー……カレーとは違う旨みがあるのです!!」


「お褒めに預かり光栄です」


 博士さん達のお皿がどんどん白くなっていく……そして、完全に無くなると。


「おかわりをよこすのです!!」


 口を揃えて言ってきた……息ピッタリだな、この2人は。だからコンビなんだな……


「はい、今すぐに!」


 俺がおかわりを持ってくると、博士さん達はそれも全て食べてしまい……やがて、食事が終わると。


「よくやったのです、夢決」


「我々は満腹満足なのですよ」


「ありがとうございます!」


 料理関係だといつも怒られてたから、褒められたことなんて1回もなかった。というか、親に褒められたことがない。


「それでは、お前の話を聞いてやるのです」


「何が知りたいのですか?」


「図書館に無いかどうか、探してみたいんです……サンドスターの『兵器転用』の話を」


 俺にも何かしら関係があるはずだ。読めるなら読んでみたい。


「……」


「……」


「……もしかして、わからないんですか?」


 わからないなら、無理する必要は……という前に。


「そ、そ、そんなこと知っているのです! 賢いので!」


「そ、そ、そうです!! ちょいちょいっと本を探してきてやるのです!」


「待っているのです!!」


 二人はそれを息ピッタリで言って、図書館の方に急いで行った……


「……大丈夫かなぁ、無理なお願いしちゃったかもなぁ」


 でも、急いでもしょうがない。俺はのんびり待つことにした。





 それから、体感で1時間くらいすると……


「み、見つけ……持ってきたのです!」


「これを読むのです!」


「え、本当にあったんですか!? ありがとうございます!!」


 早速本……と言うより、計画書の様なものを開く。すると……そこにはこう書いてあった。


〖サンドスター兵器計画〗


 〖一部の者達が発案した、サンドスターやロウの兵器転用計画。これがあればフレンズと共に戦えることをうたい、園長に許可を出させようとしていたが、その後に戦争の道具として使おうとしていたことが判明。計画は完全凍結、計画者及びその部下達は、全員懲戒免職となった。〗





「……あれは許可なくやってた事だったのか!」


「あれとは何でしょう、助手……」


「兵器の事について、何か知っているのでしょうか?」


 知ってるも何も、俺自身が兵器なんだ。確か名前は……ツインソルジャー。


「……ありがとうございました、よくわかりました」


「わかったなら良いのですが……お前は何者なのですか? こんな昔のことを知っている口振りで……」


「お前はタイムスリップでもしてきたのですか?」


 ……誤魔化すか、答えるか。


「……親が昔の生き残りで、話を聞かされて育ってきたんです」


「なるほど……ならば納得いきますね」


 よし、誤魔化せたな……


「……ところでお前、住む場所はあるのですか?」


「……ないですね」


「ならばここに住むのです、そして我々に美味い料理を食わせるのです!!」


 ……あ、これは味をしめたな……? でも、博士さん達がそう言うなら。


「もちろんです! これからお願いします!」


「上手く釣れたですね、助手……じゅるり」


「そうですね博士、これで毎日、美味い料理が食べ放題なのです……じゅるり」


 戦える料理人……か、アリだな。ボディーガードと兼任で。責任重大だな……


「……おや、誰か来ましたね?」


「誰でしょうか」


「セルリアン……か?」


 前の件からやはり警戒してしまう……が、足音を聞く限り違うようだ。そこに現れたのは……


「博士、久しぶりだな!」


「こんにちは、博士さん。お久しぶりです」


「そっちの人はどなたですか?」


 武器を背負ったフレンズさんが2人、背負ってない人が1人。この3人組は……?


「誰かと思えば、お前達でしたか。ヒグマ、キンシコウ、リカオン」


「紹介しましょう、こいつらがセルリアンの掃除屋……セルリアンハンターなのです」


「セルリアンハンターさん……」


 確かに、そういう役は必要だよな……あんな量が居たら、普通は助からない。あの時は、俺がおかしな力に目覚めたから助けられたんであって……


「いや実はな、タイリクオオカミに会って聞かされたんだよ。雪山に強いセルリアンが出た、掃討しておいてくれ……とな」


「あぁ、タイリクオオカミさんが……俺は佐藤夢決といいます。ヒトのオスです」


「えっ、オスですか!? ってことは……人間の仲間!?」


 やっぱりビックリしてる、ヒトはかばんさんだけだもんな。研究所の様子を見る限り、失敗して大爆発、全員死亡……ってところか。


「そういえば、タイリクオオカミさんもあの人には助けられたって言ってたけど……もしかして、それってあなたですか?」


「あ、はい……間違いありません」


「そんなに戦闘能力が高いようには思えないが……何ができるんだ? 足が早いのか? 力が強いのか?」


 ……大分説明がしにくい、左腕が強くなって右腕はセルリアンになります、なんて言ったって通じないだろうし……もし『やってみろ』なんて言われたら、また両腕が折れてしまう。職に就いて早々病欠なんて嫌だ。


「……何でかわからないんですけど、セルリアンを弱くできるんです。だから小さくして倒して、その場は切り抜けました」


「変な能力だな……だが、セルリアン退治には良さそうだ。倒せたのにも納得いく」


「それで貴方は、どうしてここに?」


 どうしてって、そりゃタイリクオオカミさんに案内されたから……


「こいつはここの料理人なのです」


「ヒグマ、もう料理はしなくていいのです。これからはコイツにやらせるのです」


「それはありがたいな……よろしく頼むぞ」


 もちろん、任せてもらおう。


「任せてください!」


「えぇ~? 夢決さん、休みなしでずっと連勤ですか? オーダーキツいですよぉ……」


「私達もいつか食べてみたいです」


「いつでも大丈夫ですよ、疲れた体に染み渡る最高の料理をお作りします」


 俺は胸を張って言って見せた……男が弱音を吐くもんじゃない。例え、どんな状況であろうとも……そう思うと、泣けなくなったのも好都合だな。もしかして精神病って、意外と都合がいいのか?


「どうしたのですか? ボーッとして」


「あ、ごめんなさい……」


「じゃあ、私達はセルリアンを倒しに行ってくる! また会おうな、夢決!」


 そう言って、3人は雪山へ向かっていった。さてと……夜ご飯まですることがないな。


「私は何をすればよいでしょうか?」


「今は命令することがないのです、好きにやるのです」


「読みたければ本も読んでいいのです」


 ……よし。決めたぞ……まずは、この森林を10周だ!


「ちょっと行ってきます!!」


「……何をやろうとしているのでしょう」


「放っておいていいでしょう、悪いことはしないでしょうし」


 やる事は1つ……強くなるため、トレーニングあるのみだ!!




「……ぜぇ、ぜぇ……」


「どうしたのです!? 何があったのですか!?」


「セルリアンでも出たのですか!?」


 そうじゃない、とりあえず森林を10周してきただけだ……フルマラソンくらいは走ったかな。次は腕立て200回、腹筋200回、スクワット200回だ!! 筋肉が無いなら回数を増やすしかない!!


「1、2、3……!!」


「意味もなく地面に伏して何がしたいのでしょうか……」


「さぁ……わかりません」





「はー、はー……よし、今日の分終了」


 明日からもこれをやろう、修行あるのみだ。


「そろそろ夜なのです」


「夕ご飯を作るのです」


「はい、喜んで!」


 その日はそこにある材料でカレーチャーハンを作った。美味しく食べてくれて、こっちまでいい気分だ。ジャパリまんを齧りながら、そう思った。


「俺はどこで寝ればいいですか?」


「そこにベッドがあるのです、我々は狭すぎて使っていませんが、使うといいのです」


「寝る時は静かにするですよ? 我々は耳がいいので」


 寝る時に騒ぐわけない。子供じゃないんだから。


「はい、もちろん」


「では、明日も早いのです。さっさと寝るのです!」


「寝坊は許さないのですよ」


 寝坊などしない、するわけがない。だって今日も……


『死に晒せぇぇぇッ!!』


 ボコボコに殴られるんだからさ。





「おはようございます、博士さん、助手さん」


「お腹と背中がくっつきそうなのです!」


「材料は適当に取ってきたのです、さっさと作るのです!」


 ……お、いい材料だ。これなら『あれ』ができそうだな……


「すぐお作りします、待っててくださいね!」


 俺がそこにある材料で作ったのは……これだ。


「お待ちどうさまです」


「これは……真ん中に穴が空いているのです」


「チョコレートがかかっているのです……なんですか、これは?」


 俺が今回作ったのはこれ……みんな大好きなアレだ。


「ドーナツです、パンの1種ですね」


「ふむ……それでは」


「いただきましょう」


 そう言って、博士さんたちはそれを一口齧った……すると。


「……う、美味いのです……」


「夢決のやつ、侮れないのです……!!」


「お褒めの言葉をありがとうございます」


 博士さん達はそれを綺麗に食べきってくれた、こちらとしても嬉しい。


「今日も美味かったのです」


「これからも精進するのです」


「お粗末様でした、お皿をお下げしますね」


 皿を取って洗い、水を拭き取ってまた並べる。これで仕事は完了だ。


「さてと、行ってくるか……!」


「またですか……」


「毎日どこへ行くのでしょう?」


 疑問を持たれているようだが、気にする必要はない。力は役に立たないのが一番なのだから。





「よし……戻ってきたぞ」


 次は筋トレだ、昨日と同じように。


「助手、調べたところあれは『腕立て伏せ』なのです」


「筋トレ……筋肉をつけるための手段、ですか……そんなに強くなってどうするのでしょうか? ハンターにでもなりたいのですか?」


「さぁ……わかりません」


 目的はただ一つ、力を使っても骨が折れなくなること……あの力、使いこなせれば役に立つはずだ。




「ふぅ……そういえば、これ……」


 筋トレが終わって、取り出したのはPPPのチケット……フルルさんに貰ったんだよな、これ……いつのなんだろう。聞いてみるか。


「博士さん、助手さん」


「どうしました? 筋トレは終わったのですか?」


「はい、それで……これなんですけど」


 博士さんにチケットを見せてみた。いつのかわかるかもしれない。


「これはPPPのチケットですね」


「はい……それで、これはいつのなんですか?」


「次のライブは……確か今日ですね」


 えっ、今日!?


「き、今日のいつから!?」


「確か……太陽が一番高い時から、少し経った頃ですね」


「少し経った頃……3時くらいか? となると、急がないと……」


 俺は急いでお昼ご飯を作ることにした。


「お昼ご飯作りますね!」


「気が利きますね……じゅるり」


「ちょうど腹が減っていたのです……じゅるり」


 お昼は……よし、これにしよう。





「お待たせしました、こちらフルーツサンドになります」


「フルーツサンド……美味しそうですね、果物とクリームが挟まっているのです」


「シンプルですが……これも美味いのです!」


 だいぶ簡単なモノだったから、喜んでもらえて安心した。さてと、これをPPPさんの人数分作っていこう。


「お皿お下げしますね、そういえばPPPさんって何人なんですか?」


「マネージャー入れて6人なのです」


「それを聞いてどうするのですか?」


 6人……1人2切れとして、12切れだな。


「ありがとうございます、俺はライブを見に行ってきます」


「ライブですか……:お前もPPPのファンなのですね」


「行くなら早く行くのですよ、あそこは行列ができるのです」


 重要な情報を受け取りつつ、俺は調理に取りかかった……合計12切れを作った時には、ちょうどいい時間になっていた。時間は太陽の場所で大体わかる……今、2時ってところか。急いでそのフルーツサンド達をビニール袋に入れる。


「それじゃあ行ってきます!」


「夜ご飯までには帰ってくるのですよ?」


「ちゃんと料理はしてもらうのです」


 俺は博士さん達に挨拶したあと、ビニール袋を持ってライブ会場へ走った。





「ここか……ライブ会場っていうのは」


 博士さん達の言っていた通りだな……すごい行列だ。大人気なんだな、PPPは……


「こちら、チケット売り場でーす! チケットをお持ちの方はここで受付をお願いします!」


 ネコ科のフレンズさんが呼び掛けを行っている、あれが受付の人だな。


「俺も並ばないとな」


 俺もそこに並び、列を進んでいく……そして、俺の番になった。


「はい、チケットを回収しますね! では、ペパプライブをお楽しみください!」


 俺は観客席に座り、ライブが始まるのを待つことにした……みんなザワザワとしている。


「早く出てこないかなぁ」


「待ちきれないよ!」


「ペパプが生き甲斐なんだ!」


 ここでもアイドル文化は変わらないんだな……フルルさんはペンギンだったし、他の人もペンギンなのか? そう思っていると……


「皆さん、今日もペパプライブに来ていただいて誠にありがとうございます! 初めましての方のために自己紹介しておきましょう、私マネージャーのマーゲイです!」


 マーゲイさん……受付兼マネージャーとは、多忙な人だな。


「では、ごゆっくりお楽しみください……ペパプライブ、開演です!!」


「ワーワー!!」


「すごい歓声……ジャパリパーク唯一のアイドルだから、そう考えると当然か」


 皆の歓声と共にマーゲイさんが引っ込み、入れ替わりで5人の人が歩いてくる……その中にはフルルもいた。


「みんな、こんにちは。私はリーダーのコウテイだ、今日も楽しんでいってくれ!」


「俺はイワトビペンギンのイワビー! 今日もロックに行くぜぇー!!」


「ジェンツーペンギンのジェーンです、よろしくお願いします……!」


「フンボルトペンギンのフルルだよー、今日もよろしくねー」


「そして! 私はロイヤルペンギンのプリンセス! 今日は来てくれてありがとう! 今日も盛り上がっていきましょう!!」


 みんなが大きな歓声を上げる、俺は押され気味で歓声は上げていないが……コウテイペンギン、イワトビペンギン、ジェンツーペンギン、フンボルトペンギン、ロイヤルペンギン……やっぱり全員ペンギンだ。


「じゃあ一曲目いくわよ! 大空ドリーマー!」


「大空ドリーマー……曲名もちゃんと考えてるんだな」


「ワァーッ!!」


 そうして、ペパプのライブが開始され……そこからはもう、俺の入り込む余地はなかった。皆の騒ぎようについていけない……そう思っていたら。


「みんな、ここまで聞いてくれてありがとう!」


「みんなが居るから、ここまで歌えているんだ。ここに来てくれて本当にありがとうな」


「そういえば、みんなには言ってなかったね。私ヒトのオスに会って、チケット渡したんだー。来てくれてるかなー?」


 来てます、地味だけど。騒いでないけど。


「ひ、ヒトのオスですか!?」


「スゲーじゃん、チケット渡したなら絶対見に来てるぜ!!」


「じゃあ聞いてみましょうか、ヒトのオスさん! いたら返事をして!」


 返事を求められている、みんなもザワついている……やはりヒトとなれば、みんな同様にザワつくらしい。


「はい、ここです」


「あ、夢決だー」


「夢決……それが彼の名前か」


 立ち上がって返事をすると、アイドルさんもフレンズさんも、みんな俺の方を向いた。何か怖いな……視線が集中しすぎて。


「夢決! 良かったらこっちに来てよ! ヒトのオスなんて、普通に過ごしてたら絶対会えないもの!」


「私もご挨拶したいです!」


「ロックな見た目してんな、お前もこっち来いよ!」


 これは……行っていいのか? いや、行くしかないか……ついでに、フルーツサンドも渡してしまおう。俺はそう思い、ステージに上がった……


「改めてこんにちは、佐藤夢決です。ご存知の通りヒトのオスで、得意なことは料理です」


「確かに、どこにもフレンズの特徴がないな……かばんにそっくりだ」


「あなた、ペパプのライブは初めてよね? 来てくれてありがとう!」


 招いてもらったのはこっちなのだが……おっとそれよりも。


「こちらこそ、お招きいただいてありがとうございます……こちら、つまらないものですが」


「なんでしょう、これ……果物と、白い塊?」


「フルーツサンド、料理の1種です。よかったらどうぞ」


 さて、反応はどうだろう……?


「わざわざ持ってきてくれたのか!? ロックだなお前!」


「ちょうどお腹空いてたんだー、ありがとー」


「もしかして、私達に差し入れですか? ありがとうございます!」


「では、せっかくだし私も……」


「私も貰うわね!」


 反応は良好だ、味はどうだろう? お口に合うだろうか?


「う……うんめー!! すげぇ、すげぇよこれ!!」


「おいしー」


「わぁぁぁ……!! 凄く美味しいですね、これ!! ヒトの料理ってどんなのかな、って思ってたんですけど……予想以上です!!」


「これは、確かに美味しいな……こんな物をタダで貰ってしまって、少し罪悪感が湧くが……」


「……! ……! おいし、美味しいっ……!!」


 味も好評だ、これはプリンセスさんは言葉に出せないほど気に入っているみたいだし……本当によかった。


「あ、もう一切れありますけど……」


「もらう、絶対もらう!!」


「ちょうだい」


「私にもください!」


「私ももらおうか」


「早くちょうだいっ!!」


「はい、どうぞ。マネージャーさんも良かったら……」


「え、私も!? じゃあお言葉に甘えて……美味しい!!」


 その後は全員でおやつタイムとなり、ペパプの皆さんは美味しそうに食べてくれた。こんなに嬉しいことはない。


「おかげで疲れが吹っ飛んだよ! 今なら何曲でもいけそうだぜ!!」


「おかげで眠いのも消えちゃったー。ありがとねー」


「すごく美味しかったです、食べ足りないくらいです!!」


「ヒトには驚かされっぱなしだな……ありがとう、元気が出たよ」


「また作ってきて! それで私達に食べさせて!! お願い!!」


 すごい勢いだな……だが、そんな事でいいなら喜んでやろう。毎日届けたっていいし、いいランニングにもなる。なんならコースを変えてもいいかもな。


「はい、喜んで」


「というか、プリンセス。お前はそんなキャラだったか? 興奮しすぎな気がするぞ」


「そういうのって、私のキャラだよねー」


「だ、だって……! 料理が美味しいんだもん!!」


「ワハハハハ!!」


 みんな笑っている、いい感じに場が和んだ気もする……どうやらお役に立てたらしい。俺の体も使いようだな。生き返った意味が1つできた。


「お役に立てて嬉しいです。では、私はこれで……」


「私も食べたい!」


「私にも食べさせてー!!」


 みんな料理を食べたいんだな……なら。


「私は図書館に居ますので! よければお越しください!!」


「ワーイ!!」


「食べに行こうかなー」


 皆さんのテンションが上がったところで、邪魔者は退場だ。観客席に戻る。


「さてと……優しい夢決のおかげで腹ごしらえも済んだところで! ライブ再開よ!!」


「ワァーッ!!」


「夢決のおかげで、いつもよりも力が出る! 夢決、是非最後まで聴いてくれ! さぁ、行くぞ!!」


「ようこそジャパリパークへ!!」


 そこからはイベントもなく、アイドルの生歌を聞くことになった。アイドルの歌だけでなく歌という物を聞いたことがない俺としては、凄く新鮮だ……そしてライブが終わる頃。


「みんな、今日は聞いてくれてありがとう! 特に夢決! 料理をありがとう! 是非また来てくれ!!」


「美味い料理、期待してるぜ!!」


「次のライブもお楽しみに!!」


「みんなまたねー」


「夢決! 毎日練習はやってるから、良かったら料理お願いね!!」


 言われなくてもそのつもりだ、毎日持っていこうじゃないか。そう言いながら、ペパプさん達が引っ込むと……


「今日はありがとうございました、これにて今日のペパプライブは閉幕となります! また次のライブでお会いしましょう!!」


 そう言って、マーゲイさんも引っ込んでいった……ライブってこんな感じなんだな。もう遅いし、早く帰らないと博士さん達に怒られちゃうな。そう思いながら、図書館に帰ろうとすると……


「夢決さん、私にも料理作って!」


「夢決さんについて行こう!」


「晩御飯食べさせて!!」


 ……1人では帰れなさそうだ。





「というわけで、これだけ集まってしまいました」


「流石に多すぎるのです!!」


「食材が足りないのです!!」


 とは言っても、連れてきてしまった以上作るしかないよな……


「仕方ないですね……お前ら、今日のところは帰るのです」


「えーっ!?」


「また明日来るのです、食材を集めておいてやるのです。明日ならいくらでも食っていいのです」


 博士さん達がそう言って諭し、フレンズさん達を帰らせてしまった……


「何だか申し訳ないですね……」


「明日は食わせてやると言っているのです、明日は大仕事になるのですよ」


「さぁ、さっさと料理を作るのです! お腹と背中がくっつきそうなのです!!」


 そう言われて、俺は晩御飯を作ることになった……その日はじゃがいもコロッケを作った。





「……さてと、明日は忙しくなるし早く寝ないとな……」


 とは言っても、寝れないんだけど……それに。


『うらぁぁぁっ!!』


「ぐふっ……」


『死ね、死ねぇぇっ!!』


 今日は人数が多い日だ、アンラッキーだな……いつもより痛い目に合いそうだ。そう思いながら、俺はもう1発殴られた。

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