第2話 フレンズのみんな

「ぐぁぁぁっ!? あ゛あ゛っぐ……」


 左腕が折れてしまった、エネルギー切れらしい……だが、要点はそこじゃない。さっき折れた右腕から、血が大量に流れている。左腕からも流れているみたいだ……ただし、右腕からは黒い血が、左からは虹色の……サンドスターの混ざった血が出ていた。そして、すぐに足にも激痛が走る……靭帯をやったみたいだ。


「がぁぁっ……!!」


 膝をついてしまった……ダメだ、立てない。


「え、本当に何があったの!? ボロボロじゃない!!」


「セルリアンと戦ったんだ、7匹も相手にして……!!」


「あなたはどうしてたの!? 戦わなかったの!?」


 それは違う、言っておかないと……


「タイリクオオカミさんは、俺を守って……サンドスター切れになって、それで俺が……」


「わ、わかったから! わかったから喋っちゃダメ! 傷が開いちゃう!! うわっ、体もすごく冷たい……!!」


「とりあえず止血だ! それから温めて、布団に寝かすんだ!!」


 心配しすぎだ、放っておけば治るだろ……? そりゃ痛いけどさ……


「いや、お気遣いなく……本当に、すぐ治りますから……」


「治りません!!」

「治らないよ!!」


「なぁにぃーギンギツネ? ゲームしてたのにぃ……騒がしすぎ……ってわぁ~!? 酷い怪我だよ!!」


 だから、このくらい日常だから大丈夫だって……一日経てば歩けるように……とは言わせて貰えないようだ。


「何か布はないか!?」


「タオルがあるわ! これを使って! ほらキタキツネ、あなたも手伝って!! お客さんが大変なのよ!」


「わ、わかった……!」


 大事になってしまった……ここの人達は心配性なのかな? こんな俺なんかに、本気で心配そうにしてくれるし……これが慈悲とか、優しさとか言われる、あれなのか……全く生産性のないサンドバッグにすらも、情けをかける。それがこのジャパリパークなんだな……でも、何よりも。これだけは言っておきたい……


「……タイリクオオカミさん」


 止血をしてくれているタイリクオオカミさんに、声をかける。


「あまり喋っちゃいけない、傷が開く……!」


「あなたに怪我がなくて、無事で良かった……それだけで、俺としては大勝利です……」


 こんな俺にも人を守れた……そのための力が湧いてきた。それだけでもう、満足だ。


「……私は君を守れなかった。それだけで……私としては、負けなんだ」


「負けじゃありません、俺は生きてるでしょう? だから……誇ってください、勝利を……タイリクオオカミさんの、勝ちです……」


「ッ……君は、おかしな人だ……君を題材に漫画が書けそうだよ」


 精一杯笑顔を作って、サムズアップする。笑顔が合っているかはわからないが、これが本当に精一杯だ。


「血は止まった!?」


「あぁ、止まった! 早く体を温めるんだ!」


「これ、『カイロ』っていうんだって。あったかいよ」


 カイロ……何だっけな、ゴミ捨て場に捨てられてたような……と思っていたら、体が急に暖かくなりだした。効果が思ってたよりも高い。


「早く布団に運ぼう、布団を被せるんだ!! 夢決くんは私が運ぶよ!」


「もう用意は出来てるわよ! 早く持ってきて!」


「あ、あの……運んでもらわなくても……自分で這っていけるので、お気遣いなく」


 俺がそう言うと、みんな口を揃えて……


「ダメに決まってるでしょ!?」


「ダメに決まってるだろう!?」


「絶対ダメだよ!」


 と言われた。流石に過保護な気がする……自分で動けるのに……いや、俺がおかしいのか? どうなのかもわからないな……


「よいしょっと……!」


「部屋はこっちよ!」


 運ばれた部屋は、6畳ほどの部屋だった。ギンギツネさんが言ってた通り、布団が一つある……


「うん……しょっと!」


 俺は布団に下ろされて、かけ布団をかけられた。暖かい……心なしか痛みも引いた気がする。


「ありがとうございます……何から何まで」


「いいんだ、ゆっくり休んで欲しい……」


「そんなにたくさんセルリアンがいるなんて、私達も気をつけないとね……」


 あれだけ倒したのだから、強い奴はやったと思ってよさそうだが……


「そういえば……結局、あの力は何なんだい? 腕の形が変わったり、力が強くなったり……最後には腕が折れてしまったし……」


「なんか格ゲーのキャラみたいだね……」


「……またゲームの話?」


 ゲームはよくわからないし、知らない。だが言いたいことはわかる、魔法みたいだと言いたいのだろう。俺もそう思う……あの改造が、何か関係しているのか? だが、それにしては燃費が悪いような……この話をしてもしょうがないよな。


「多分、強い奴はやれたと思います。でももしまた強いのが出たら、俺に言ってください。絶対倒しに行きますから」


「ダメだよ、また大怪我するじゃないか……」


「腕が折れるくらい安いものですよ、それよりみんなの記憶の方が大事です」


 俺はよくても、みんなはよくないんだ。みんなは美味しいものを沢山食べた、沢山遊んだ。楽しい思い出がたくさんある……それが何もかもなくなるなんて、こんな残酷なことはない。


「とにかく、今はゆっくり休むこと。じゃないと、戦うにも戦えないわよ」


 そう言われればそうだな……じゃあ、そうさせてもらうか。


「お腹すいてない? ジャパリマン食べる?」


 お腹は……減ってない、あんなに戦ったのに。でも、食っておくに越したことはない。


「いただきます」


「じゃあ、口開けて?」


「あー……はむっ」


 チョコはチョコでもザクザクしている、これはこれで好きだ。その後も、全部口に押し込んでもらい……


「美味しかった?」


「はい、ありがとうございます」


「じゃあ、また辛くなったら言ってね? すぐ駆けつけるから」


 お気遣いは嬉しいが、呼ぶことはないだろう。自分のことは自分でしないと。


「じゃあ、またね?」


「私も一晩ここで休むよ、先に図書館に行ってるね?」


「はい、わかりました」


 扉が閉まり、部屋が静まり返る。お腹も膨れたし、寝るとしよう……


「……ぐぅっ」


 ……そう上手くはいかないようだ。体の激痛が収まらない。さっき痛みが引いたように感じたのは偶然だったらしい。


「……まぁ、どうでもいいか」


 自分の体などに興味はない。他人が元気か、不快になっていないか。それだけが重要だ。俺が寝れなかろうが、病気になろうが、死のうがどうだっていい。


「俺がいくら呻いたって、叫んだって……誰も助けちゃくれない」


『だって、お前才能がないじゃないか』


『才能がないやつに、無能に用はないんだよ』


『サンドバッグになれてることを喜ぶんだな』


『なぁ、失敗作!?』


 目の前に映像が浮かんできた。今日はこの時のやつか……


「ごめんなさい……」


 その日、俺は結局眠れなかった。




「……あ」


 フラッシュバックを見ていたら、もう朝だ。今日は吐かなかったな……もしかして、胃が改造されてるとか? 有り得そうだな……


「なんて都合がいいんだ、もう嘔吐する必要もない」


 腕は……まだ大きくは動かせない。足は……ギリギリ動く。これなら歩けるな……俺は立ち上がり、よろけながら部屋を出た。


「おはようございます」


「えぇ、おはよ……って、なんで立ってるのよ!! ダメじゃない、傷が深くなるわよ!?」


 もう歩けるんだし、いいじゃないか……とはならないようだ。


「さぁ、部屋に戻って! ご飯持っていくから!!」


 俺は部屋に半ば無理矢理戻され、ご飯を食べて安静にしていることになった……と言っても。


『このクソ野郎が!!』


「安静にしてると、こうなるんだよな……」


 俺だって、夜通しされ続けたらちょっと参る。何かできることは……


「ねぇ、夢決……だっけ」


 そこに現れたのはキタキツネさんだ、俺のような無能に何の用だろう?


「おはようございます、キタキツネさん」


「……退屈なら、ゲームしない? 相手が欲しいの」


「……すみません、ゲームはわからなくて」


 一度もやった事がない……というか、電子機器に触ったことがない。


「教えてあげるから、一緒にやろうよ」


「……俺でよければ」


「やった! じゃあ行こう!」


 キタキツネさんは楽しそうにしながら、明るい光が見える方に行った。俺もその場所に近づくと、ゲーム機と椅子が置かれていた。


「よいしょ……これでいいですか?」


「うん。攻撃はこのボタンで、防御は……それでそのキャラは……」


 それから、キャラについてたっぷり解説してもらい、バトルを始めた。




「スキあり!」


「防御して……このコマンドでいいかな」


「あぁ!? やられた……」


 ようやく1R取れた……強いなぁ、やはりベテランとは格が違いすぎる……


「キタキツネ? ご飯できたから、こっちに……って、何やってるの!?」


「ゲームだよ」


「そんなことわかってるわよ! その人は怪我人なのよ!? 重症なのよ!?」


「いや、俺が退屈そうにしてたからって……キタキツネさんが言ってくれて」


 言ってくれなかったら、トラウマのスライドショーを傷が治るまで楽しむことになっていただろう。本当に助かった。


「困った子ね……でも、それなら仕方ないのかも」


「どこか痛いところない?」


「大丈夫です、ありがとうございます」


 腕は痛いが、これはゲームをしようがしまいが同じことだ。それよりも、スライドショーが無くなったのは大きい。本当に助かった。


「さ、行きましょ?」


「夢決も食べる?」


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


 そうして俺達は、食堂の方へ歩いていった……




「はい、これよ」


「あ、うどんだ」


「……カップうどんだ」


 ジャパリパークにもあるんだな、これ……母親が食って、そのままだったカップに付いてた汁の残りを飲んだっけ……美味かったなぁ、あれ。後でその分殴られたけど……


「もちもちで美味しいんだよ、すぐふっくらになるし」


「ありがとうございます、いただきます」


 カップに口をつけて、一口麺を啜る。滑らかに口の中に入ったそれは、口の中に丁度良い熱さをくれる。同時に、昔飲んだあの味が口の中に広がる……


「美味しいなぁ……」


「ならよかったわ、私達もこれ好きなのよね」


「食べすぎると飽きちゃうから、たまに食べるくらいにしてるんだけどね」


 確かに、この1種類しかないと飽きもするだろう。妥当な判断だと思う。どれだけ美味しくても、食べすぎると飽きてしまうからな。父親も言ってたもの。


「ごちそうさまでした」


 美味しくて、汁まで全部飲んでしまった。少々体に悪い気もするが……


「ボクも食べ終わった、ゲームしてきていい?」


「後片付けしてからね」


「はーい」


 しっかりと食器を片付けて(俺は腕があまり動かせないので、ギンギツネさんにやってもらったが)から、ゲームをまたしに行った。そして夜になる頃、ついに……


「よし……やった!」


「うわぁ!? 負けちゃった……夢決! もう一回やろうよ!」


「勿論、喜んで」


 少し熱くなってしまった。だがおかげで、病気のことをすっかり忘れられた……それに少し元気が出てきた、ここはいいところだ。


「はい、そこまで! お風呂に入りなさい!」


「え~……じゃあ、ボクお風呂入ってくるね?」


「いってらっしゃいませ……俺も入った方がいいですかね?」


 ……俺も入った方がいいよな?


「うん。体洗ってあげるから、一緒に入りましょう?」


「はい……ってえ? え?」


 何? 今何と言った?


「一緒に入るって、どういうことですか? 俺、オスなんですけど」


「え? だってお風呂は1つだし……」


「……なるほど」


 フレンズは全員メスだから、オス用の風呂は必要ない……と。これは困ったぞ……そういう性欲的な問題じゃない。そういうのはとっくの昔に消えてしまっている。だが、俺が言っているのは社会常識とか、倫理的なものだ。男と女が同じ風呂に入るのは、俺も嫌だし……何より真実に気づいて『キャー!!』なんて言って、物を投げられたら……俺は今度こそ、動けなくなって再起不能だ。


「いや……それって、オスの前で裸になるって事なんですけど、それはどうなんですか?」


 一番分かりやすい聞き方……だと思う。そうしたら、ギンギツネさんは顔を真っ赤にして……


「~っ!? で、でも……あなた、その体で大丈夫なの?」


「……うーん」


 正直微妙なラインだ、腕は動かないし足も万全じゃない。だが、やらなきゃいけないんだ。何があろうと、そんなことは許されない。


「大丈夫です、何とかなります」


「じゃあ……お湯が流れてない方の部屋があるから、そっちを用意するわね?」


「お願いします」


 俺は完了するまで待っていることになり、1人でゲームの練習をしている。


「ここはこうした方がいいな……」


「夢決さん? お風呂出来たわよ?」


「ありがとうございます、すぐ向かいます」


 ギンギツネさんに案内され、俺は風呂場に入った……広いな、これが大浴場か。


「何かあったら呼んでね?」


「ありがとうございます」


 ドアが閉まり、俺はシャワーの方へと向かう。だが、問題は……


「お湯のバルブだな……足でいけないか?」


 俺はシャワーを出すための蛇口を、足で動かした……すると。


「よし、成功……」


 熱いお湯を体に被り、頭もシャワーで洗っておく。手で擦ることはできないが、これだけでも大分違うはずだ。


「じゃあ入ろう……よっと」


 俺はまた足でシャワーを止めて、風呂に入った。凄く暖かい……何年ぶりかな、風呂に入るのなんて……


「あ~、あったかい……」


 このまま寝てしまいそうだが、我慢だ。ここから出てから寝よう。そう思って風呂から上がり、肘で突いてドアを開けて……


「いい湯だったな……体拭かなきゃ」


 と言っても、拭けないよな……どうしたものか。


「……うんしょっと」


 タオルを首に被って、それを回転させて首を拭く。タオルを落とし、股で挟んで拭き取る。そこにあった着替えのパンツをつけて、これで最低限はokだ。これ以上は無理なので、ギンギツネさんに頼むとしよう。




「これでよし! 拭き終わったわよ!」


「ありがとうございます、ギンギツネさん! ご迷惑をおかけしてすみません……」


「気にしないで、言い出しっぺは私なんだから……それより、キタキツネが待ってるわよ? 相手してあげて?」


 そうか、まだゲームがしたいのか……どうせ眠れないんだ。ならば、夜通しゲームをしてもいいだろう。


「すぐに行きます!」





 それから何戦かしていると、だんだん勝てるようになってきた。キタキツネさんにも『やるようになったね……』と褒められた。さぁ、もう1戦だという所でギンギツネさんからストップが入り、今日は就寝となった。


「じゃあ、また明日ね?」


「明日は他のキャラも使ってみます!」


「楽しみにしてるよ、ふふふ……」


 いつも通り、形式だけベッドに入る。やはり眠れない……眠れたのは偶然だったらしい。いつも通り、あの声がしてきた。今度は病院にいる時のやつらしい。


『精神病は甘えなんだよ! とっとと治すか、早く死にやがれ!! オラ、オラァァ!!』


『あんたにそれを言う権利は無いわ! 私の方があんたよりずっと不幸なのよ! だから私が殴るの!!』


 精神病は甘え。お医者さんは違うと言ったが、俺は何が正しいのかわからない。


 今日も鉄拳が痛かった。





 それから、体感で2週間ほど経った。ようやく、腕も足もまともに動くようになった。つまり、ここにお世話になる必要はもうない。


「本当にお世話になりました、ギンギツネさん、キタキツネさん。カイロまでもらっちゃって……」


「いいのよ、凍死されても困るしね? それと、また遊びに来てね? 歓迎するわ」


「ボクとまた、ゲームしようね」


 ここの人達は本当に慈悲深い。まるで優しさを具現化したような存在の人達だ。だが、もうお世話になるわけにはいかない。今度は自分で何とかしてみせる。


「じゃあ失礼します、ありがとうございました!」


「またね!」


「またね……!」


 俺は2人に手を振って、笑顔でその場を離れた……





「……さてと、雪山を何とか降りきったわけだけど」


 カイロのおかげで寒さを感じずに降りられた、嬉しい誤算だ……ここは湖があるようだな、蓮の葉が浮いていたりもする。多分、この先に図書館があるんだろうけど。


「……ん? 何だ、あの子?」


 たった一人で、大きな建物の前に座っている。あの子は何のフレンズだ? どうして1人なんだ? 気になって仕方がない……


「……行ってみるか」


 その子に近づいていくと、俺を見つけたのかこっちの方を向いた。ボーッとしたような……無気力ともまた違う、不思議な雰囲気だ。


「俺は夢決といいます、あなたの名前は?」


「フルル~」


 フルル……? そんな動物がいるのか?


「なんの動物なんですか?」


「フンボルトペンギンだよ~」


 フンボルトペンギン……ペンギンか、なるほど。なら体の特徴とも一致するな……


「どうして1人でここに?」


「休憩中なんだ~」


 そう言って、フルルさんはジャパリマンを齧っている。マイペースな人だな……みんな個性豊かだ、俺とは大違い。


「この建物って何ですか? すごく大きいですけど……」


「PPPのライブステージだよ、ここで歌って踊るんだ~」


 そうなのか……フレンズにもアイドルがいるんだな。あんなに容姿端麗なら、誰でもなれそうだが……多分、そう簡単でもないのだろう。


「ジャパリマン食べる~?」


「あ、いただきます」


 半分になったジャパリマンを手渡してきたので、俺はそれを口いっぱいに頬張った……これはあんこ、だったか……腐ったあんこ入りのもちを食って腹を下したっけ……その時が一番殴られた気がする。


「ごちそうさまでした。フルルさん、ありがとうございます」


「友達とはご飯を分け合うんだよ~?」


 友達……そうか、フレンズって友達って意味だもんな……みんな友達なんだ。この世界では……俺も、それに含まれているのだろうか。


「ここでPPPがライブするなら……見てみたいです」


「じゃあ、はい」


「これは……紙?」


 フルルさんに紙を渡された、ペラペラのやつじゃなくて、色つきの固い紙……


「チケットだよ、あげる~」


「え……あなたの物なんじゃないんですか!?」


「大丈夫だよ~、私もPPPだもん」


 なっ……フルルさんがPPP!? とても、そうは見えないが……本人が言うならそうなんだよな。


「そうだったんですね……」


「ライブ、見に来てね~」


「はい、もちろん!」


 アイドルのライブなんて生まれて初めてだ、テレビでも見たことがない……


「そういえば、夢決は何のフレンズなの~?」


「俺はヒトです」


「そうなんだ、2人目だね~」


 2人目……1人目はかばんさんだろう。この島でヒトは現在1人……その上、俺だけオスだ。オスのヒトだなんて、普通異物でしかないだろうに……それすら受け入れるのだから、皆さんは凄い。


「じゃあ、俺行きますね?」


「またね~、ライブ見に来てね~」


「喜んで!」


 俺はそう言い、順路に沿って歩いていった。





「……助手、タイリクオオカミのやつは、ヒトが来ると言っていましたね」


「はい、博士。近々来ると言っていたのです」


「……何が近々来るですか! 全然来ないのです!! 今度会ったら文句をつけてやるのです!」


「でも、もし本当に来たら……その時は」


「……美味い料理を作らせるのです! じゅるり……」


「楽しみですね、博士……じゅるり」




「……!?」


 突然悪寒がした、セルリアンでもいるのか? もしそうなら、戦うしかないが……


「……居ないのか?」


 独特な足音も、気配もしない……


「なんだったんだ今のは……」


 不安になりながら進んでいると、変な場所に出た。そこには何かが書いてある……


「……なになに? コモドオオトカゲは泳ぐことが出来る、○か‪✕‬か……○なら右へ、‪✕‬なら左へ……か」


 生物学の問題だよな……さんざん読まされたから知ってる、○だ。そうして○の方に進むと、次の問題があった。


「……次は? ブタはイノシシを『品種改良』した種である、○か‪✕‬か……これも○だ」


 それから俺は、正解の道を選んで進んで行った。皮肉なことに、覚えさせられた知識のおかげで突破できたのだ……また、嫌な気分になってしまった。





「ここがタイリクオオカミさんが言ってた……図書館だな」


 図書館と言うだけあってデカい、普通の家2個分はありそうだ。そう思っていると……


「いたっ……!?」


 後ろから何かに蹴られた、誰だ……? まさかセルリアンか!?


「ようやく来たのですね……ヒト、もとい夢決!」


「待っていたのです……」


「あ、あなた方は……?」


 あの人達は誰だ? 鳥であることは間違いなさそうだが……何せ、他のフレンズさんとは気配が違う。威厳があるというか、なんと言うか……


「よくぞ聞いたのです! まず私は……この島の長、コノハ博士なのです! この島で一番賢いのです!!」


「そして私はその助手の、ミミちゃん助手です。同じく賢いのです」


「そして、我々から一つ言いたいことがあるのです……」


 何だろう、出迎えの言葉かな? 丁寧な人達だな……そう思っていたら。


「来るのが遅すぎるのです!! 何をやっていたのですか!?」


「お前はナマケモノか何かなのですか!?」


「え、えぇ……?」


 怒られた……ナマケモノというか、大怪我していたというか……


「……大怪我をして、療養してました」


「大怪我? 何かあったのですか?」


「セルリアンに襲われて、力を使って……体がボロボロになって……」


 俺は事情を説明してみたが、イマイチピンとこないようだ……まぁ、だろうね。


「力とはなんですか? ヒトは考えるのが得意な生物ではないのですか?」


「聞けば聞くほどわからないのです」


「……自分でもよくわかってません」


 賢い人達にわからないのなら、俺にわかるはずもない。俺は自分の体への理解を放棄した。


「……まぁ、細かいことはいいのです」


「初めに聞いておきたいのは、これです」


「お前はどこから来たのですか?」


 口を揃えて聞いてくる……それはもちろん、俺でも知ってる。


「日本……本土です」


「日本? 本に書いてありましたね」


「確か、『みんしゅしゅぎ』の島国なのです」


 よく知っているご様子だ、流石は賢さを自慢するだけある。


「では、お前は日本人なのですね? ならば聞きましょう、お前はどうしてここへ来たのですか?」


「……病気を治すため、ですね」


「何か病気なのですか!?」


 こういう所は心配してくれる、やっぱり優しい人達だ。


「気にしないでください、精神病です……命に関わったり、感染したりはしませんので」


「精神病……とは何ですか、助手?」


「私もわかりません、博士……!」


 精神病についてなど、知らない方がいい。話が拗れても、いい事は何もない。


「要するに心の病気です……皆さんを害するつもりは全くございません」


「……失敬な! 何なのかくらいわかるのです! 言わないだけなのです!!」


「そうです、そのくらい知っているのです!」


 ……少し怪しいが、本人達が言うならきっとそうなんだろう。


「……とりあえず、お前がこちらに害のある者でないことはわかったのです」


「この島の長として、悪人をのさばらせてはおけないのです」


 立派な考えだ、俺は許されてラッキーだったな……


「知りたいことがあって来たのでしょう? 何があったのですか?」


「まぁ、色々疑問が止まなくて……」


 一番の疑問はそれだ、なんでこんな体になってるのか……あの研究室はなんだったのか。疑問だらけだ。


「……まぁ、いいでしょう。では、ヒトであるお前に長として、試練を与えるのです! これをクリアできたら教えてやるのです!」


「よく聞いておくのです!」


「どうぞ、何なりとお申し付け下さい」


 俺ごときが役に立つなら、こんなに嬉しいことはない。是非とも俺を使ってくれ。


「……美味しいものを!」


「料理を!!」


「作るのですッ!!」


 ……え、料理?

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