僕はいつの間にか世界を救ったらしい

鈴木天秋

第1話

僕は去年とある難病にかかったのですが、それから定期的に同じ夢を見ます。


今日はその夢の話をしたいと思います。




気がつけばいつもと同じような三階建ての建物の前に立っている。自力でここにきたのか、連れてこられたのか、誘われたのか。未だに分からないけれど。


兎に角、とてつもなく暗いその雰囲気は同じだがこの前見たものとはすこし違う、その建物の前に、リュックサックを背負った僕は立っている。


普段は臆病な僕だが夢の中だとどうも違うようで、この先起こることを知っているはずなのに物怖じせず、いつもと同じように片手で扉を開けた。


初めて来た時もまるで友達の家に押し入るかのように少しわくわくしながら入った気がする。


西洋の建物のようなので土足で家の中に入る。外観は異なっても間取りはいつも大体同じなので荷物を置くために二階へ向かう。



あれ、誰だろう?


いつもは僕が座る場所に座っている女性の横顔が鏡越しに見えた。あちらからは見えていないようだけど、僕と同い年くらいにみえる。もしかしてあちらも同じ夢をみているのだろうか。こんなことは初めてだ。

勇気ある僕はずんずん進んでいきドアの隙間を広げるのと同時に声を掛ける。


あっ!


と思った時にはあちらが先に動いていた。ものすごい勢いで抱きつかれた僕は少しよろけるがドアを掴みながらも持ち堪える。そういえばリュックサックはまだおろしていない。


彼女は安心した表情で僕に口を開く。聞くと僕のことをずっと待っていたと言う。とすれば彼女は夢の中の新しい登場人物ということでいいのだろうか。はたまた神様がよこした報酬なのだろうか。


彼女を落ち着かせ、すかさず荷物を椅子におろして自分もその隣へ腰をおろす。いつもならすぐにここで一夜を越す準備をし始めるのだがそうもいかない。

現実世界での彼女は、僕の「隣人」なんだから。





二階には寝室、リビングとキッチン、廊下を挟んで巨大な子供部屋がある。皮肉なことにトイレと風呂は一階、人を怖がらせるためだけに作られた建物みたいだ。

この建物の間取りを一通り説明したあと、現在の時間も分からないのでとりあえず寝床の準備をしに持参した毛布を取り出す。そして押し入れから一人分のマットレスを取り出した。ここで今日は彼女と一緒に寝るんだ。




窓の外は砂嵐のようになっていて何も見えず、もちろん外部からの接触はできないだろうし、僕も仕事が終わるまで夢から覚めることはない。




リュックサックから一人分の食料を取り出して彼女に渡す。彼女の希望で一緒に料理をすることになったのだ。まるでこのことが予測されていたかのように二つのエプロンと二人分の食器がキッチンの棚に置いてあって、やっぱり彼女は夢の人なんだと痛感しながらも笑顔で彼女の要望に応えて首元でリボンを結んだ。そして狭いキッチンで密着しながら談笑し、料理を進める。


暖かい雰囲気のまま寝室に移動してさぁいよいよ寝るところまできた。怖がる彼女のためにトイレもお風呂も付いていったし、大分男らしさはアピールできたんじゃないかと思う。お風呂上がりのそれ、お互い火照った様が、別の「それ」と勘違いさせる。


僕は彼女の肩を抱き、いつも一人でいる緊張感と微かな恐怖感を少しでもわすれさせてくれた感謝を述べた。二時間後、眠りについた。




どこからか時計の針の音が聞こえる。次第に大きくなるその音はこの夢が終わりに近づいていることを指し、僕の仕事の達成を急かしている。もう行かないと。懐中電灯と鍵を取り出してまずはあの子に会いにいく。

僕は彼女に絶対に音を立てないこと、この部屋から出ないことを誓わせて子供部屋に入り、灯りをつける。





お、今日は外国人の子供だ。ここにはいつも子供が一人いる。5歳くらいのパジャマを着た無表情で遊んでいる子供。本当にこちら側に来なくてもいいのか何度も聞いてから笑顔でさよならを言い、部屋の扉を固く閉め、鍵をかける。顔が強張る。


僕の仕事はかっこよく言えば鬼退治?彼女にはそう説明しておいた。まぁ、相手は鬼ではないんだろうけど、三階にいる「なにか」を僕が囮になって子供から守るのが僕の仕事。




勇気ある僕は三階へ続く階段を登る。軋む音が大きくなるにつれてより恐ろしいものへ近づいていることを指していて、僕に対する「なにか」の興味と比例する。薄気味悪い空気を鼻に伝わせ、やはり全く同じ廃れたパーティー会場の跡が残っていることを確認した僕は大きく息を吸い、最後の一段を踏む。


タッタッタッ!飛ぶように階段を駆け降りた。間に合ったか。。。?


「なにか」は絶対に三階にはその姿を見せないが、誰かが最後の一段を踏んだ瞬間に二階へと子供を探しに飛んでくる。それに絶対に間に合うようにしなければならない、あぁ、初めての時など思い出したくもない。


ガッ! といきなり首を掴まれる。




僕は抵抗しない、これは夢なのだから。

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僕はいつの間にか世界を救ったらしい 鈴木天秋 @szk_tkak

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