第277話 恋しい?
ちーちゃんと”恋愛特有の恋しさ”についてそれなりに熱く語りあった後。
あたしは家に帰ってママ雑誌片手に妊娠から出産について勉強中。
お腹の赤ちゃんもご機嫌らしく、最近悪阻はほとんど無い感じ。
たまーに空腹の時気分悪くなるけどそれも、飴玉とチョコを常備することで解決。
ちなみにお気に入りの飴玉はおなじみのパインだ。
あたしがいつか強請ったら、勝がバツが悪そうにさも嫌そうに買いに出かけてくれた。
あたし的甘酸っぱい思い出??ってことで大事にしてるのに。
だって、スーパーとかコンビニであのおなじみのパッケージ見つけるたびにキュンってしてるのにー・・
カフェインは極力取らない方向で(勝が言いだしっぺ)あたしの最近の飲み物は100%のジュースかもしくはお番茶だ。
寒い時はココアとかホットレモン。
カフェオレがぶがぶ飲んでた頃が懐かしい。
予定日までを全力で元気で健康に過ごすことが、今の一番の仕事だ。
「ママと一緒にがんばろーねぃ」
まだ少しも目立たないお腹をポンと撫でてみたり。
形から入るのは大事ですよ。
うん。
気分も上がるしね。
と、勝から”帰るよ”メールが届いた。
早速帰宅した勝に、ちーちゃんと語り合ったあれこれを聞かせてやろうと一人意気込んでみたり。
★★★★★★★
「こ・・恋しい?」
「なに、その反応」
「・・・・いや・・大丈夫か?熱は?食欲あるの?また悪阻復活?」
帰ってきた勝に今日の出来事を伝えたら迷わず額に手が伸びてきた。
どゆこと?
思いっきり眉根を寄せてあたしは旦那様をにらみ返す。
「どこをどーとったらその答えになる?」
「・・・・お前がまた急にぶっ飛んだ事言ったりするからだろ・・・」
「・・・普通だよ。一般的だよ!!乙女ならみんな思うんだよ!人生の通過点の一個なの!!」
「・・・んな強調せんでも・・・」
「・・だって」
唇尖らせたら、キスが落ちてきた。
それで誤魔化されるのは癪なので背中に回された腕に甘えたくなるけどちょっと我慢。
「くるおしい位の恋?ってヤツはしたことないなぁーっと」
いやだって本当の事だし。
「・・・・それはナニ?俺と結婚したのが物足りないと?」
ジト目で見下ろされてしまう。
あたしは視線を泳がせて答えを探す。
「あのね、当たり前に一緒に居て当たり前にこれが続くと思って、疑うことなく一生一緒ってのを選んだでしょう?」
「あー・・まーそーね・・」
「これって結構すごいことじゃない?」
「・・そーかもね」
「そうなのよ!だってどっちかが”違う”って思ったら続かなかったわけじゃない?」
あれ、この人じゃないな、と思ってしまったら最後だった。
あたしの思考回路は単純明快なので、嫌いになったらきっと一生好きには戻れないから。
「・・・そりゃーまぁ・・・結婚ってのは同意が必要だからなぁ・・」
「すごいし、奇跡みたいだし、あたしの人生でこんなことって多分もう二度とないって思うんだけど・・」
そこまで言って、あたしの中で一つの言葉が浮かんだ。
それは“運命”
さっき、ちーちゃんに言った言葉が蘇る。
急に黙り込んだあたしの耳元に唇を寄せて、抱え込んだ頭をぽんぽん撫でながら勝が問いかけてきた。
「どーした?気分悪くなった?」
最近の勝は、事あるごとにあたしの体調を気遣う。
ちょっと眉根寄せても気持ち悪い?と訊いて来る。
これまでも大概過保護にされてきた自覚があるけれど、ここまで過剰では無かった。
人の親になる準備を二人三脚でやって行こうと決めてからの勝のあたしに対する責任感はそれこそ二倍に膨れ上がっている。
くすぐったいような、むず痒いような、でも、大事にされることに慣れているあたしとしては、やっぱり嬉しいものだ。
「・・・これって運命?」
「・・はい?」
「迷わなかったし、怖くなかった。大丈夫って確信あったもん。だから・・・そっか。ねえ、きっとそうだと思う。あたしたちって、こーなる運命だったわけだ」
自信たっぷりで言いきったあたしの頭のてっぺんにキスをしてから勝が可笑しそうに笑った。
「・・・・なんか物凄い迷路を一気にゴールまでぶち抜いた感じだな・・」
「・・・よかった」
「なにが?」
「勝と会えて、良かったぁ」
要約するとそーゆーこと。
それだけ。
恋しいも嬉しいも好きも。
素直に思ったことを口にしたら勝があっけらかんと笑って見せた。
「そんなん、毎日思ってるよ」
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